ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

代償と回収と一同集結(前編)


「……なにを言っているかさっぱり解らねぇ」

 解りたくない気持ちも若干含まれてはいるがな。

「ならばそれでもいいよ。……そう簡単に解ってもらっちゃ困るだろうし」
「……何を言っている? もう解ったからさっさと返してくれないか、俺の身体」

 ふわふわと浮いてるというもんはやっぱり気持ちが悪い。だからさっさとこのふわふわ地獄(?)から脱出したいものなのだが。

「あぁ……もう私は話すことはないからな。全て持って行くがいい」

 ――俺がその行動の変化に何故気付かなかったんだろう。
 刹那。
 パシュッ。
 水風船が弾けたような音がして、俺は翠名創理の身体を見た。

「……早かったな、思ったより」

 彼女の着ていた白衣は赤く滲んでいた。
 ――血、だった。

「何をした?!」

 ヴォギーニャは急いで翠名創理に駆け寄り、倒れ行く彼女を間一髪のところで抑え込んだ。

「何をした、ですか……ゴホッ。強いて言うなら、“密告”だよ」
「密告……?」
「本来ならば、今迄話してきたことは最重要機密として上に止められていてね……。私だって軽々しく言ってはいけないんだ……」

 そう言って翠名創理は激しく咳き込んだ。咳には血が混じっている。

「話すな。まだお前には、『ヨハネのペン』の在処を言ってもらわなくてはならないんだからな」
「ヨハネのペンならば、彼の肉体が入っている装置の隣にある机……そこに仕舞ってある。猿の手もだ……」

 猿の手が『ついで』的な感覚で言われたような気がするのは気のせいだろうか。

「しかし……何故普通に自首するなりしなかった?」

 俺は気になった疑問をぶつけてみる。

「自首は駄目だ。中にも……味方はいる。情報を言う前に殺される可能性だって……有り得た」

 つまり。

「――神事警察にスパイが居ると言うのか?」
「なにも神事警察だけじゃない。……太いパイプとは言わないが、何らかの人員が日本にも居る。そいつらに私が自首したことを知られればそこまでだ。変装のプロだっているからな……」

 翠名創理の息はどんどん荒くなっていく。もう……時間はない。

「ありえないことはありえない……」
「なんだ、何を言った?」
「覚えておけ、悪を倒すというのなら……」

 そう言って翠名創理はぐったりと力を失った。

「……死にやがった」

 ヴォギーニャの言葉を、俺は小さく頷いて答えた。


 ◇◇◇


【side:瀬谷マリナ】

 広い、広すぎる。
 いったいこの地下施設はどれくらいの面積をほこるのか、少し聞いてみたいほどだ。

「……このままじゃ、出番無しで終わったりして……アハハ」

 祐希の言葉がすごく心に刺さる。その言葉が、なんだか本当になりそうな気がするからだ。


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