ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

十年前の父親の研究報告(中編)


 実際に考えると十年前はどんな年だっただろうか。今が二〇一七年だから……二〇〇七年ということになる。前よりは科学技術も進歩はしているのだろうが、それでも足踏み状態であるに変わりない。
 その年に父さんは平行世界の理論を発表して死んだ――。

「まぁ……私が何を言いたいのかは解るでしょうけど」
「父さんは……殺された?」
「ご名答。……あなたの父親がしたかったことに何らかの組織が感付いたのかもしれない。だから……殺された」

 父さんがしたかったことはそれほどまでに画期的なことだったのだろうか。

「『次元衝突ディメンション・コンフリクト』を、起こそうとしていた」
「次元衝突?」

 なんだ、その嫌な予感しかしない現象の名前は。

「次元衝突は、名前の通り……なのかは解らないけれど、ある世界Aとある世界Bを衝突させる」
「……なんだか最後の手段に使いそうな説明だな」
「そうね、間違ってないわ。この結果、何がもたらされるというかは解ってない……正確にはいっぱい可能性があって把握出来ていないところ。例えばAとBの悪いところが消えて、Aの世界の人物をBの人物に置換してしまうのではないかというのや……最悪のパターンだとAもBも消滅してしまうという可能性かしら」
「そこまでして……父さんは何がしたかったんだ?」
「平行世界へ聞きに行けば解るかもしれない。尤も、どうやって行くのかは私にも解ってないがね」
「……さて、最期の言い訳は済んだか?」

 ヴォギーニャが苦笑いをしながら、銃を再び構える。

「待たせてしまって、申し訳ないね」
「少しくらい申し訳なさそうにしてくれればいいんだがねぇ……」

 ヴォギーニャがため息をついて、俺はふと思った。

「美夏さんは……どうしたんだ」
「私は研究テーマを二つ抱えていてね。片方が自分の研究、そしてもう片方が上から言われているものだ」

 上から?
 人工進化研究所には更に上層組織が存在するというのか。何だか厄介なことになってきそうだ。

「……そして私個人、正確には人工進化研究所が自己的に行っているのが君たちも知っているとおり、神憑きを解析して人間を科学的に進化させることだ」翠名創理は歌うように言葉を紡いでいく。「しかし……もう片方が厄介でね。上から言われているものだ。厄介なのは、研究テーマに対する資料が少なすぎるってことなんだがな」
「資料なんてこの世の中だ。インターネットを巡ればそう難しくはないだろう」
「いや、それが至極難しくてね。インターネットで漁れば出てくるようなものではないのだよ」

 翠名創理は疲れたのか、近くにある椅子に腰掛けた。

「君たちも疲れただろう? 座りたまえ、傍に椅子があるはずだ」
「俺は今身体がない状態なんだがな」
「そいつは失敬」

 何が失敬だ。さっさと身体返しやがれ。
 ヴォギーニャが椅子に座るのを確認して、翠名創理は呟いた。

「……『エゼキエルの鍵』を手に入れ、トリスメギストスの鍵とともにそれらを使ってカミそのものへとなる。それが上の目的だ」

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