ルームメイトが幽霊で、座敷童。
十年前の父親の研究報告(前編)
十年前。
俺の父親は突如として死んだ。
その理由は、未だに解らない。ただ、俺自身が解ろうとしなかったのも事実だった。
父親は『神憑き』として瀬谷家の長を勤めただけではなく、神学者としても大分名高かったらしい。何故なら家にはまだ大量のそう言った文献が残っている――らしいからだ。らしい、と未然形なのはここ何年か――正確には、三年くらいは戻っていないからだ。
「……あなたの父親は、魔法を科学で実現出来ないか考えていました」
「父さんが、魔法を信じていたというのか?」
その言葉に翠名創理は頷き、話を続ける。
「瀬谷理人はまず、魔法詠唱による必要なエネルギーを何処から調達するか考えました。……その当時、私は彼のチームに引き抜かれましてね。正確には引き抜かさせるように仕向けたというのが正しいのですが、この際そんな小さいものは関係ありません」
小さい頃からこんな性格が悪かったのか、と考えると若干頭が痛くなってきたのと、この親は何を考えていたのか、との気持ちが俺の中で錯綜していた。
「そして彼は平行世界――パラレルワールドの存在を考え始めたのです。この世界のパワーバランスは一応のところ保たれているとされています。……しかし、それに誰が気付けるでしょうか? 誰がそう定義したんでしょうか?」
「……そりゃあ、昔の科学者とやらが実験に実験を重ねて証明したんだろう」
「果たして、そうだと言えるのか」
翠名創理の言葉に俺の言葉は詰まってしまった。
話はまだ続く。
「……例えばこうは考えられないだろうか? 平行世界とこの世界とでパワーバランスは保たれている、ということに」
「つまり平行世界とは持ちつ持たれつの関係だと?」
ヴォギーニャの言葉に翠名創理は頷く。
しかし、まだ解らないことはある。
例えば、なぜそれを父さんが考えたのか。
例えば、なぜ……父さんは死んでしまったのか。
いつも俺に厳しくして、正直なところ父さんには恨みすら覚えていた。いつか見返してやろうとも思っていた。
だからこそ、死んだ時にはまず耳を疑った。
神憑きの儀式に失敗し、俺は家を出た。姉ちゃんに力を貸してもらって、フリーで仕事をしている。……それだけだった。俺はそういうのが日常だった。
「君は父親を嫌っていたようだが……、私には彼がいい父親としか思えなかった」
「……何を言う」
「話を聞け。……まぁ、確かに彼は殆ど家に帰らなかった。だが、彼は君のためにこの研究をしていたのだ」
「俺の為に……?」
翠名創理はいったい何を言っているのか、それについて俺は全くもって解らない。しかし……どことなく雰囲気だけは伝わってくる。ただ……俺には受け入れ難い真実だ。いや、これが真実であるという可能性は今をもって尚少ない。
「君は全く強情だ。……ならばこういう考えはもたないのか? なぜ平行世界なんて考え付くんだということに。当時のサブカルチャーならば定番だったが、その当時の現代科学では不可能なんだ。科学的に平行世界の存在を提言したのは今から五年前だからな。さらにその五年前に提言したことになる」
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