ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

視点C:瀬谷マリナの場合 -肆-


 一先ず私達は行動を開始した。この牢獄をどうやって抜け出すか、だ。『猿の手』はこの際しょうがない。まずは人員の無事を確認せねばならない。

「……どうしましょうかね?」
「どうしましょうかねぇ」

 鸚鵡返しじゃないんですから。

「冗談は程々にしておいて、一先ず……この牢獄、普通の物質で出来たものでは無さそうですね」

 そうですね……ってなんでめぐみさんスマートフォン取り出して……って、え?! ここ電波入るの?!

「恐らくローカルネットワークのルータに接続されたんだと思います。……これを利用して、外部に接続が出来れば……!」

 そう言ってめぐみさんは恐るべきスピードで画面をスクロールさせていく。ちゃんとページの内容理解しているんだろうか。
 画面には家系図のようなツリーが描かれ、その途中や末端には文字列が書かれていた。大半は鍵がついていた……否、全ての文字列の最後に鍵がついていた。
 その中に私はひとつあるものを見つけた。

「めぐみさん、これ何ですかね?」
「なんですか、こんなものも読めない……段落……パラグラフ……!」

 わざとらしく言って見せるとめぐみさんは見事に引っかかった。いや、まさかここまで引っかかるとは思わなかった。
 段落、と書かれただけの相対パスを打ち込み、めぐみさんのスマートフォンは別の画面を映し出す。案の定、その画面はパスワードを訊ねる画面だった。

「パスワード……なんですかね?」
「それが解れば苦労しないですよ……」

 めぐみさんは適当にある単語を打ち込んだ。
 すると、直ぐに反応が帰ってきた。

 ――パスワードを認証しました。

「……嘘でしょ?」
「まさかこんな単語だとは……」

 一体めぐみさんは何を打ち込んだんですか。

「……あの、」

 その言葉を言おうとする前にめぐみさんが口を開いた。

「恐らく英語だろうと思い、私が知る唯一の英単語を打ち込みました。……それは“sasanqua”です」
「山茶花?」
「山茶花は英語でも日本語でもほぼ同じ発音をする珍しい単語で、よくこういうもののパスワードに用いられることが多い……と聞いていました」

 そんな簡単なパスワードにしちゃ、パスワードの意味が無くなるってことにここの研究員さんたちは気付かなかったのかね……。
 まぁ、お陰で見れるから結果オーライかな。
 ピロン、と古めかしい電子音が鳴りページのロックが解除された。

 ――時空旅行実験

 ページのタイトルはそう書かれていた。

 ――鷹富博士が不慮の事故で故人となられたため、プランを若干修正する必要が出てきた。それでも、プランは若干短縮出来るものと考えられる。科学省主導で行っていた『タイムマシン計画』をフォービデン・アップル主導で行うこととする。

 鷹富博士と言えば反重力作用を開発した博士として世界的に有名な人間だ。
 しかし、彼は半年前に自らの開発した反重力作用を用いた新型車に轢かれ――死んだ。

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