ルームメイトが幽霊で、座敷童。
視点B:河上祐希の場合 -弐-
あんな入り組んでいるような迷路だったのに、いざ挑戦すると案外簡単だった。難易度はそこまで難しいものではないらしい。
私は迷路を抜け、バルコニーに近い、開けた場所に出た(開けた、とはいえ外が見えるわけでもなく多少いままで迷路で観た部屋に比べるとこちらの方が広いくらいだろうか)。
「……窓がある……」
私がバルコニー(と仮に名付けた部屋)に小さい窓を見つけたのは、それから直ぐのことだった。
小さい窓を覗いてみる。
そこに広がっていたのはたくさんのガラス管だった。管、といってもその大きさは人間が一人は余裕で入るくらいの大きさで、それが恐らく等間隔に並べられていた。
「何だよこれ……。気持ち悪い」
『――「神殺し」と呼ばれる力はやはり自然に受け取ったもの、なのか』
再び、声が響いた。
それと同じくして、窓の奥から白衣を着た人間が現れた。
見覚えがある――翠名創理だ。
翠名創理は小さく笑いを溢しながら、一つのガラス管に到着した。ガラス管ひとつひとつにはそれぞれオレンジ色の液体――色と雰囲気からしてLSSだろう――に満たされていた。
『どうだ……? 全てを失い、身体とココロを切り離された感覚は?』
「一体誰に話しかけているんだ……?」
少し目を凝らして、翠名創理の眼前にあるガラス管の中身を見た。そこに入っていたのは――。
――他でもない、自分だった。
「……はぁ?!」
思わず、女の子らしくない声あげちゃったよ! だって驚くじゃん! 目の前にガラス管があって、その中に自分の身体があったら!!
「焦るな」
「なんだよ誰なんだよ!! ……ってヴンダー?! いつの間に?」
「いつの間にも何もお前が窓から外を眺めていたときからだ。それと、時間はあまりない」
そう言ってヴンダーはわ……僕の手を持っていく。
「今更一人称なんてどうでもいいだろう。背伸びでもして私なんて使ったんだが恥ずかしくて自分しかいない時にしか使わないのは知ってる」
「な、なんで知ってるんだよヴンダー!!」
ちくしょうこんなときに封霊銃がないなんて!!
「……それくらい元気がありゃ大丈夫だろ。行くぞ」
「何処へ?」
「もしかしたらお前は知らないかもしれんから言っておく。精神が身体を離れても、直ぐに霊体、幽霊にはならない。一定の猶予期間が存在する。その猶予期間の間に戻ってしまえば身体にまだ精神が馴染んでるからいいんだが、それを過ぎると……」
「……過ぎると?」
「身体が霊体を拒絶する。つまり、精神をしまう箱が箱じゃなくなるわけだ」
その言葉を聴いて、思わず身体が震えた。いや、今は身体が無いんだけどね?
とりあえず。
「その猶予期間とやらはあとどれくらいなわけ?」
「……もって一日だな」
意外と長いな……。だけど油断してはいけない。ここは敵のアジト、何があるか解らないからね。
「それじゃ、いきますか」
そう言って僕は一歩踏み出した。
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