ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

地下の組織の研究所(前編)


 階段へ入ると少しひんやりとしていた。この部屋自体が外界と仕切りを作っていたから多少暖かったのだが、これはこの階段が何処か外に近い空間に繋がっているということが解る。
 なんだかんだで階段は人二人分の幅しかない(その『人』をどう定義するかによって、それは変わってしまうが今はそれに関して言及すべきではないだろう)から、何処と無く窮屈で、押し込まれたような感覚を覚える。

「……この階段、何処まで続いてるんだ?」
「この中の誰かが知ってる、とでも?」

 祐希の誰に投げ掛けたでもない質問に俺は皮肉をちょびっとアクセントとして混ぜて言った。

「階段がこうずっと続くのもなんだか不安ね」
「もしかしたら研究所の連中はそういう算段なのかも知れねーぞ? こういう終わりの見せない階段を通すことで相手の精神力をごりごりと削ろうとしているのかもな」
「こういうのは有限です。そんなものでへこたれるほど巫女は長くやってませんよ」

 流石は出雲大社の巫女、と言ったところか。出雲大社ってのは普段でもカミサマはいる(これは当たり前のことだ)が、神迎祭のときは日本全国からカミサマが現れるから、勿論それを狙って何かを仕出かす輩が出てきてもおかしくはない。寧ろ理に敵っている。
 それをどうこうするのが出雲大社の巫女の役目『の一つ』だ。以前には神迎祭への招待状である神結い糸がこちらの世界に帰って来なかったからそのカミサマを呼んでこいという少々厄介な命令も下されたらしい。
 カミサマ――もっと広く取れば、霊体――の世界と人間の世界は若干違う世界となっている。だが、何らかの切欠で世界が重なり行き来が出来るようになる――というわけだ。

「……しっかし、ここ数年で霊体に関係する事件報告の多いこと。お陰でオカルト側の治安組織はてんてこ舞いだ」
「それを管理する法が出来たから尚更ですが」
「めぐみさん、確かにそうなんだけどねー。うーん、なんと言うか、まるで『無理矢理にあちらの世界とこちらの世界を繋ごう』としているような……」

 そう意味ありげな伏線放り込まないでくれよ……対応に困るから……。

「明かりが見える……」

 ふと、碧さんが呟いた言葉に俺達は目を見張った。……確かにぼんやりと何かがあった。
 それは紛うことなき……明かりだった。
 だが、明かりという目的が見えてきたことで、少しだけ俺達に活気が戻ってきたような気がした。
 明かりの場所に着くまでにそう時間はかからなかった。明かりの場所はドアだった。暖色系の照明がドアに接着されており、そこだけ少し暖かく思えた。

「ドア……」

 祐希が呟くのと同時に扉が内に開け放たれた。

「入るしか……ないね」

 祐希のその言葉に、俺達は頷いた。

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