ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

麦酒と人間の国際交流(中編)


「しかし……改めて聞くが本当に厄介だな」

 姉ちゃんはそう言うと背もたれに体を預けた。

「……ってシリアスなんだけども、まぁこの後は酒でも飲みながら考えりゃいいかな」

 酒を飲んでもまともな思考で居られるとは思えないんだけど?

「……あれ?」
「どうしたんですか?」
「いや……この出口を行けばミュンヘンに入れるんですが……」

 確かに看板には『Munchen』と書いてある。ここから高速アウトバーンを降りてテレージエンヴィーゼに向かう……はずだったのだが?

『だからこっから先は行けねぇって言ってんだろ!! どいつもこいつも酒飲みに車で来るとか頭おかしいだろ!! 俺達はその車を管理しねーから優しい友人にでも預けておけアルコール依存症の馬鹿ども!』

 どうやら検問があるらしく、大柄の男がひとりと華奢な体の女性のひとりが対応していた。ミュンヘン一帯は先程まで雨が降っていたのか、透明の雨ガッパを被っていた。大柄の男がすごい激昂しているが、生憎ドイツ語は解らないんだ。

「アドルフさん!」

 え、知り合い?
 土岐津さんが運転している(だが検問の為徐行な事に変わりはないわけだ)にも関わらず右手を思いっきり振って笑顔で言った。
 しかも日本語で。

「おっ、リストアじゃないか。ってこたぁ、ジャパンからの客人を連れてきたわけだな」
「エキスパートよ、そうでしょ?」

 俺に同意を求められましても。

「おう、美女が二人も来るとは心強いぜ。ジャパニーズゴスロリファッションとは、大分そちらさんの職場は自由だぜ」

 祐希はいつの間にその服に着替えていたんだ? あと否定しろよ、お前男だろ。

「俺の名前はアドルフ・ガローナ。アドルフと呼んでくれていいぜ」
「俺は瀬谷理斗。リトって呼んでくれ」
「私は瀬谷マリナ」
「僕は河上祐希です、よろしくお願いします」

 三種三様の挨拶を終え、土岐津さんが一言。

「ひとまず……どうしたんです。まさか私たちも交通整理を手伝うわけじゃ?」
「冗談きついぜリストア。まず何があったか教えてやろう。俺が誘導するからついてきな」

 そう言うとアドルフさんは大分速く走っていった。速い。
 ついてきな、と言われたからにはついていかねばならないだろう。
 俺がそう考える束の間、土岐津さんはアクセルを踏み、検問ルートとは右に逸れた道を進んだ。

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