ルームメイトが幽霊で、座敷童。

巫夏希

巫女の憑物の除霊作業(中編)

 見たことなんてあまりないだろうが、神降ろしに失敗した人間の死体ってのはもう見たくないもんだ。だが、あまりの凄惨な現状を一度みちまえばそれは永遠に目の裏に残っていくもんだ。
 俺の見た中でそいつは血を契約の絆とした。
 つまり……父さんは血が全て抜き取られた状態だった。
 神降ろしは特殊なもので、三日三晩飲まず食わずで儀式を行う。
 それが成功すれば自ら部屋に課したバリケードを外し、この世界にやってくる。
 しかし、それができなかった。
 父さんは自分にカミが憑いていることを……知ってたんだ。
 そのとき……神降ろし、そして神憑きの恐ろしさを知った。
 あのあとはひどいものだ。母親がヒステリックになり、家を飛び出た。残されたのは俺ら兄妹とその莫大な遺産に虫のように群がる親戚たちだった。中には親戚とは思えねえ奴もいた。しかし、姉ちゃんはそいつらをすべてシャットアウトすると、

「……大丈夫だ、リト」

 俺の背中をさすってくれた。俺は、涙が止まらなかった。
 たぶん、姉ちゃんも泣いていたに違いない。
 俺たちを支えてくれたのは、唯一給仕に来てくれた安崎さんだった。安崎さんは母親よりも少し年上で優しい人だった。たまにお菓子もくれたし、大体危ないことをしたら内緒にもしてくれた。父さんにも信頼されていたのか、父さんもそうとやかくは言わなかった。

「坊っちゃんがこの家の主です。……私は家の主に仕える義務があります」

 そう言って安崎さんは父さんが亡くなった後もずっと俺たちに仕えてくれた。すっごいうれしくて……俺たちは気付けば安崎さんにすべてを任すようになってきた。
 安崎さんは年齢の割にはパソコンで何かを調べることが好きだった。安崎さんは給仕の仕事が終わると自室にあるパソコンを開いて、何か調べ物をしていた。俺も見に行ったことがあるが、その表情はとても真剣なものだった。



 俺たちも歳をとるのは確かだ。俺は中学生になった。その頃になってから、安崎さんの様子がどことなく落ち着かないようにも思えた。だけど安崎さんに絶対的な信頼を置いていた俺たちはとくにそれを不審に思うことはなかった。
 ――思えば、このときそれを問い詰めていれば。
 俺は今神憑きとしていられたのかもしれない。
 なぜ止めなかったんだろう。
 それは夢にも未だに出てくるくらいだ。
 考えたくもない。
 だが、目の裏に――はっきりと残っている。これは俺に対する恨みか……はたまた別の何かか、解らない。

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