桜舞う丘の上で

りょう

第59話 これから始まる

             第59話 これから始まる

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宮崎家に帰宅して早々に、凛々や愛華に色々言われたが、それを無視して桜の部屋の前へと辿り着いた。
(鍵は…かかってる)
とりあえずノックをする。すると向こうから「誰…?」とか細い声が聞こえてきた。
「僕だよ桜」
「え…? ゆー…ちゃん?」
「うん」
僕がそう返事をすると、鍵を開ける音がした。どうやら入れてくれるようだ。
「入るよ?」
「うん…」
僕は扉を開けて中に入った。

中に入ると、ベットに俯いた状態で座っている桜が居た。
「桜…大丈夫?」
声をかけるが返事はない。僕は適当な所に腰掛け、桜の言葉を待つ。
「ご…なさい」
しばらく待つと微かに声が聞こえた。
「何?」
「ごめんな…さい」
ようやく聞き取れたそれは、謝罪の言葉だった。
「どうして謝るの?」
「だって…私のせいでゆーちゃんは…」
「それは違うよ」
「え?」
桜は下げていた頭を少し上げる。彼女の目は、涙のせいか真っ赤になっていた。
こんなにも僕の事を心配してくれた。なのに僕は、彼女に何かをしてあげられただろうか?
「桜は何一つ謝る事なんてないよ。寧ろ謝るべきなのは僕の方だよ」
「どうして?」
「桜はあんなに僕は怒ってしまったのに、ずっと心配してくれていた。なのに僕は帰るのを嫌がり、桜に対して怒りの感情しか持てなかった。桜を信じられなくなりそうだった。でも冷静に考えてみれば、桜の気持ちを理解できてなかったのは僕だったんだ。誰だって親の元で暮らしたいのは当然なのに、僕はそれを否定してしまったんだ。おまけに手を出そうとしてしまった。そんな最低な人間が謝らなくてどうする」
「ゆーちゃんは最低な人間じゃないよ。私の方がムキになったから…」
まだ何かを言おうとする桜に僕は歩み寄り、そして抱きしめた。
「桜…ごめん…心配かけて…」
「ゆ、ゆーちゃん?」
桜は少し驚いていたが、ゆっくり後ろに手を回して僕を受け止めてくれた。
「僕、桜が好きなのに手を出そうとしちゃった。男として決してやってはいけない事をしてしまった。それはいくら謝っても許されない事だよね」
「そんな事ないよ。ゆーちゃんは私を心配してくれて、怒ってくれたんだもん。私が身勝手な事を言っちゃったから、ゆーちゃんを怒らせちゃったんだもん」
「桜…」
途端に大粒の涙が流れ始める。それを見た桜は、僕の頭をゆっくりと撫でてくれた。ああ、何て優しい手なんだろう。
「僕はもっと桜と一緒に居たい…これから何があっても…」
「私もゆーちゃんと…ずっと居たい…だから…桜島を出るのはやめる…」
「いいの? 本当は会いたいんでしょ?」
「うん…でも私はそれよりも大切な事を見つけたから…もういいの…」
「そう…なら良かった…」
「だからこれからも…この桜島で二人で沢山の思い出を作ろう?」
「うん…」
八月二十四日 晴れ
絶対に途切れる事のない糸で結ばれた僕達二人の思い出作りは、これから始まる。
              第60話 たった一つの物語  へ続く

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