桜舞う丘の上で

りょう

第37話 今度会う時は

                 第37話 今度会う時は

1
翌朝、早めに帰る事に決めた僕は、起きてすぐに準備を済ませ、二人を起こさないように家を出た(勿論置き手紙はした)。
「これで良かったんだよね?」
昨日はあの後、朝方まで色々な事を話した。桜の事、友人部の事、桜島の事。そのせいで僕は一睡もしていない。でもその時間がすごく楽しかった。だから、別れるのが辛くなりそうなので、二人には黙って出てきたのだった。
「何が良かったのよ?」
駅で電車を待っていると、後ろから声がした。勿論誰なのかは分かる。
「何だついて来てたの? 全然気づかなかったよ」
そう言いながら振り返る。そこには寝間着姿の凛々が立っていた。
「黙って帰ろうとするなんてずるいじゃない」
「まあね」
「まあねじゃないわよ。本当に馬鹿なんだから」
2
ここの電車は出てる数が多いわけじゃないので、次まであと三十分はある。なのでその間、ベンチに座りながら凛々と話をする事にした。
「ねえ結心、一つだけ聞いてほしいお願いがあるんだけど」
「お願い?」
「うん」
彼女のお願い、それは…。
「夏休み中に一度だけ、私と愛華で桜島に遊びに行っていいかな?」
「え?」
「駄目かな?」
思わぬ彼女の願いに僕は驚いた。でも勿論、答えは決まっている。
「いいに決まってるじゃん。大歓迎だよ」
「本当?」
「うん。夏休みに限らず冬休みでも、何度でもいいから来なよ桜島に」
「ありがとう!」
凛々は笑顔でお礼を言ってきた。ああ、彼女の笑顔を見るのはいつ振りかな。本当に幸せそうな顔をしてるよ。
「あ、電車来たみたい」
そんな会話している内に時間は過ぎていき、いつのまにか遠くに電車が見えていた。
「じゃあ私もそろそろ帰るね」
「僕も電車に乗らなきゃ」
僕と凛々は同時に立ち上がり、それぞれの方向へ歩く。
「じゃあね結心。今度会う時は、笑顔で会えるといいね。この前は泣いていたから」
「あ、あれは…」
恥ずかしくなってそっぽを向く僕に凛々は笑いながら片手を挙げ、こう言った。
「また今度、連絡するから。元気でね」
「うん」
そう言うと凛々は、駅の出口に向かって歩き出した。多分もう振り返らないと思い、僕も彼女に背を向けて、ホームから見える景色を眺めた。
「この景色も今日で見るのは最後か…」
一面に広がる住宅街。もう僕はこの街には帰ってこないだろう。僕はもう、桜島で暮らすって決めたんだから。
「さようなら、僕の故郷」
こうして色々あった二泊三日の帰省は幕を閉じた。新しい希望を胸に秘めながら…。
                    第38話 帰宅とハプニング へ続く

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