桜舞う丘の上で

りょう

第36話 零から始める

                第36話 零から始める

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「それが結心の答えなの?」
「うん」
振り返りながら僕は答える。二人は既に涙目になっていた。本当は自分の望みが叶って欲しかったのかもしれない。でも僕にはそれを叶える事が出来ない。僕には好きな人がいるんだから。
「ねえ結心、一つ聞いていいかな?」
「何?」
「結心は桜島へ行ってよかったと思う?」
「え? そんなの…」
決まってるじゃないか。
「それを聞くのも野暮だったかな」
「うん。結心お兄ちゃんの目に何一つ曇りがないもん」
二人は目を合わせて、頷き合った。そして…。
「結心、今までごめんなさい」
「ごめんなさい」
何故か謝られた。
「ど、どうして謝るの?」
「だって、ねぇ?」
「ねぇ?」
「いやいや、二人で頷き合われても困るんだけど」
「まだ分からないの? 私がさっきあなたに怒ったじゃない?」
「え? あ、うん」
「あれはお姉ちゃんの演技なの」
「えーー!」
え、演技? 僕殴られたよ?
「不安がってた事に対して怒ったのは本当だよ。でもね、今すぐ答えを出してって言うのは嘘。本当は気がついてたんだ、結心の中で答えは既に出ているって事を。私は知っていながらもあえて結心に問い詰めたの」
「どうして?」
「私もさっき教えてもらったんだけど、結心お兄ちゃんが、本当に成長したのか試したかったんだって。でも今見て分かった。結心お兄ちゃんはもう昔の結心お兄ちゃんじゃないんだって」
「そんなぁ」
「本当は私達、あの事を気にしてなかったの。でもどうしてか分からなくて、結心を避けちゃっていた。その後いじめをまた受けてたのも知っている。本当は私達が守ってあげられたのに、その事から逃げて何にもできなかった。だから転校したって聞いた時にはショックだった。自分達のせいなんだって。それが情けなかった…。謝りたかった。私達のせいで結心の人生を変えてしまったんだから。だから、謝れて良かった…」
「うん」
あれ? 涙が出てきた。何でだろう…。悲しくないのに…。
「あ、結心お兄ちゃん泣いてるぅ」
「情けないね本当」
「だって…」
さらに涙が溢れ出る。四年間報われなかった思いが、今日報われた。それが嬉しくて…。
「だから、今度からはまた幼馴染として、一緒に遊ぼう?」
「うん…」
まさか僕が泣く形になるとは思っていなかった。でもこれで終わりなんかじゃない。僕と凛々と愛華の三人はもう一度、幼馴染として零から始めるんだ。仲が良かったあの頃に戻れるんだ…。
それは何て…。
「うわぁぁん」
何て幸せの事なんだろう。
                           第37話 今度会う時は へ続く

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