桜舞う丘の上で

りょう

第31話 大切な人

                   第31話  大切な人

1
「結心、学校に最近学校に来てないけど、どうしたの?」
鍵を掛けた扉の向こうから声が聞こえる。この声は凛々?
「何で凛々が居るの?」
僕は布団にくるまりながら答える。勿論、扉を開けるつもりはない。
「心配して来てあげたの。あなたがこんなんだから、流石にお母さんも通してくれたわ」
「だから何なの? 僕はもう学校には行かないよ」
「どうしてよ! 行かなきゃ駄目でしょ!」
「凛々や愛華には関係ない事だから放っておいてよ!」
あまりにしつこかった彼女に僕はつい怒鳴ってしまった。それでも彼女は折れなかった。むしろ彼女は声を張り上げた。
「関係ない訳ないじゃない! あなたは私や愛華にとって、大切な人だもん!」
「だったらどうして…、同じクラスだったのにどうして…」
彼女とは一応同じクラスだった。だから尚更…。
「どうして助けてくれなかったのさ!」
「そ、それは…」
また怒りが湧き上がる。
「どうせ大切な人って言うのは、表面上の話で、本当は僕の事なんてどうでもいいんだよ
!」
「違うよそれは! 結心が勝手に決めているだけでしょ!」
「そうだよ。それの何が悪いんだよ! もう僕は誰も信じたくないんだよ! どうせ…裏切るんだから…」
ついには怒鳴りあいの喧嘩になってしまった。これでいいんだよね…もう。これで…。
「だったら…」
「だったら?」
「もう一度結心が私や愛華を信じられるように、努力してみせるから。いつかこの扉を開けてくれるまで、私待つから…」
凛々は泣いていた。顔を見なくても分かる。声だけではっきり分かる。僕は凛々を…。
たいせつな幼馴染を泣かしたんだ…。
2
その次の日から毎日、凛々と愛華が僕の部屋の前まで来て、楽しい話ばかりをしてくれた。それはまだ小さかった頃と同じ光景で、お互い顔を合わせなくてもとにかく笑わせてくれて、僕の心を少しずつ癒してくれた。
「ねえ結心お兄ちゃん」
「何?」
「私そろそろ結心お兄ちゃんの顔が見たいよ…」
そんな日々が一ヶ月続いたある日、愛華がそんな頼みをしてきた。
「クラスが違うから、ずっと私顔を見てなかったし、お姉ちゃんだってきっと見たいはずだよ」
「愛華…」
「愛華の言う通りよ。私達はあなたの為に一ヶ月頑張ってきた。あの時の約束を守り通してきたのよ。そろそろ信じて欲しいんだ。私達を…」
一ヶ月前の約束、彼女は一度も破らなかった。だったら僕も答えなければならないのではないか?彼女達をもう一度信じてもいいのではないか?
「もう僕を裏切らない?」
「うん。もう二度と見て見ぬ振りはしないから。お願い結心」
「…分かった」
僕はベッドから降り、扉に向かって歩き出す。
(もう、裏切らないよね?凛々、愛華)
僕はもう一度彼女達を信じる事を決め…。
新しい日々への扉を開いた。
                          第32話 凛々の気持ち へ続く

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