桜舞う丘の上で

りょう

第19話 前へ歩き出す勇気を 後編

           第19話 前へ歩き出す勇気を 後編

1
という訳でやって来た本番。保健室でずっと寝ていたから、ちゃんと体を動かせるのか正直不安だ。
「ちゃんと練習してきたんだから、大丈夫よ」
「そうかな」
「それに、あの子の為にも頑張るんでしょ? だったらシャンとしなさい」
「分かった」
桜とは反対の位置でのスタートなので、ここで別れる。
「よし、頑張るか!」
僕は気合いを入れて、自分の場所へと向かった。
2
パーン
ピストルの音と共に歓声が湧く。
「始まった…」
観客の方に目をやると、最前列で車イスに座っている加奈がいた。
「よし、頑張ろう」
僕の順番は後半の方なので、軽い準備運動をしながら経過を見る。今の所は一位だ。
(このまま僕に回ってきて、失敗したらどうしよう…)
先程の不安が胸をよぎる。
(駄目だ駄目だ、また余計な事を考えちゃった)
このまま不安を抱えて走ったら失敗する。余計な事を考えちゃ駄目なんだ。余計な事を…
(ここまで練習してきたんだ、信じなきゃ自分を)
僕は気を引き締めて、自分の番を待つのであった。
3
そんな事をしている間に時間は過ぎていき、もう僕の前の走者にバトンが回った。
(桜やみんなが一位で繋げたんだから、僕だって)
「ゆーちゃんが、頑張って!」
「うん、頑張ってくる。必ず一位で回してみせるから」
「行ってらっしゃい!」
先に走り終えた桜に背中を押されて、勇気が湧いてくる。そうだ、僕は人に勇気を与えると同時に、自分も勇気をもらっているんだ。もう、昔の自分とは違う。何もかもから逃げたしていた自分とは違う。仲間がいるから僕は今、ここに立っているんだ。
「結心君、頑張ってー!」
加奈の声も聞こえる。もうすぐバトンが回ってくる、さて練習の成果を見せますか!
僕はバトンをしっかり受け取り、全速力で走り出した。
4
体育祭も無事に終わり、僕達は友人部の部室にて加奈を交えて打ち上げをする事にした。
「で、どうだった今日の体育祭」
僕は飲み物をコップにつぎながら加奈に尋ねた。
「すごく良かった。結心君が頑張ってくれたから、私勇気が湧いてきた。リハビリ頑張るね」
「うん。頑張って」
笑顔で答える加奈。
(変わったなぁ、彼女)
最初はあんなに悲しい目をしていたのに、今は明るい。人に勇気を与える事ってすごいんだなぁ。
「いやぁ、でもすげえよなお前」
「何が?」
「練習したのって二週間ぐらいだろ?よくあそこまで成長したよな」
「そうかなぁ」
「うん。私同じクラスだったから分かるもん。ゆーちゃん、すごく速くなった」
「あ、ありがとう」
何かここまで褒められると恥かしい。でも、これも彼女の為だったし。
「それじゃあ、今日はお疲れ様でしたって事で、いっちょ盛り上がりますか」
和樹がコップを持って前に出る。それに応じて、全員がコップを持ち準備完了。
「じゃあお互いの健闘を讃えあって、乾杯ー」
『乾杯ー』
こうして僕の初めての体育祭は、僕のクラスのリレーの一位と、総合優勝という素晴らしい形で幕を閉じたのであった。
                                    体育祭番外SS へ続く

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