桜舞う丘の上で

りょう

第5話 歓迎会

                        第5話 歓迎会

1
桜とゆりが買い出しに行っている間に、僕は和樹にゆりの事を聞いてみた。
「ああ、その事か。確かにあいつは、この島一の資産家の所のお嬢様だぞ」
「へぇ。やっぱりそうなんだ」
「まあ、あいつはあいつで色々問題を抱えているんだけどな…」
「? 何か言った?」
「いや別に」
ゆりが何とかって言っていたけど、うまく聞こえなかった。まあ、いいかな。
「そういえばさ、お前って何で高2になって桜島にやって来たんだ?しかも1人で」
「え、あ、いやそれは…」
突然の質問に返事に困る僕。何でってそれは…。
「まあ、深くは尋ねるつもりはねえけど」
「ごめん…」
「何で謝るんだよ。別に答えたくなきゃ答えなくていい、ただそれだけなんだからな」
「うん」
僕はただ逃げて来た。親から、学校から、全てから。それを彼らに話したって、理解できるはずかないんだ。その傷を1番理解できるのは、自分自身だけなんだから…。
2
「じゃあ今日は、ゆーちゃんの入部を祝って、乾杯!」
『乾杯!』
十分後、桜とゆりが買い出しから帰って来て、事実上二回目の歓迎会が開始された。と言ってもする事は、飲んだり食べたりゲームをしたりするだけ。でも、それだけでも充分に楽しい。
「あ、お前俺のジュースに何か入れたな?」
「え? 何の話かしら」
「とぼけるなよ。明らかに俺の飲み物色が変だろ」
「元から緑色じゃなかった? このジュース」
「どんなジュースだよ。さっきまで、透明だったのに明らかに違うじゃねえか」
「じゃあ、私がやったって証拠はあるの?」
「その右手に持ってる得体の知れないやつが証拠だろ」
「え? これ青汁だけど」
「青汁混ぜたのか!」
まあ、主に騒いでるのは桜と和樹だけどね。
「あ、あの。ゆーちゃん」
そんな2人の様子を眺めていると、後ろからゆりに話しかけられた。うわ、もう使われてるよ『ゆーちゃん』。
「どうしたのゆり?」
「1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「うん。いいけど」
僕がそう答えると、ゆりはもじもじしながら、尋ねて来た。
「ゆ、ゆーちゃんは友人部に入って良かったと思いますか?」
その質問って、入部してからしばらく経った後に聞くことじゃないの?結構無茶な質問だな。でもまあ、まだ出会って2日しか経ってないけど、これだけは言えるかも。
「僕は…入って良かったと思う。出会ってすぐに、こんなに優しく接してくれる人今までいなかったし、それに結構この部活名前は無茶苦茶だけど、しっかりとした部活って思えたから、後悔はしてないよ。それに、これからここでの生活を楽しめそうな気がするしね」
これは僕の本心であり、何一つ嘘を言っていない。地元では散々な目に合わされたけど、この部活、この学校、この島ならば新しい人生のスタートを切れるような気がする。誰も傷つかないような人生が…。
「そう言ってくれると、友人部の1人として嬉しいです」
僕の言葉にゆりは嬉しそうにそう答えた。
「ちょっとゆーちゃん、メインが何で盛り上がってないのよ。折角の歓迎会なんだから楽しまなきゃ」
「そう言っている割には、僕を放置している時間の方が明らかに多い気がするけど…。」
「つべこべ言わない、さあ歌って」
「何て無茶ぶり」
こうして僕は高2の春、新しい人生のスタートを切りました。
この桜島で。
                                                         第1章 完
                              第6話  思わぬ提案  へ続く

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