今宵、真紅の口づけを

少女の願い

 私が人間だったら、こんな思いはしなくて済んだのかな。
 こんな悲しい、愛しい思いはしなくて済んだのかな。



 そんな馬鹿なことを考えて、また涙が出る。



 私は魔族。
 生まれたときからそれは変わらないし、これから先も変わらない。
 赤い瞳が綺麗な大人になりたいと思っていた。
 それが当たり前だと思っていた。
 変化の本当の意味もよく知らず、本能なんて絵空事のように思って、ただ憧れていた。



 でも、今は違う。



 怖い。
 赤い瞳が。
 変化が。
 本能が。
 たまらなく怖い。
 あの人に嫌われるのが怖い。
 憎まれるのが怖い。
 あの人を、いずれ苦しめる自分が怖い。



 こんな自分が怖い。



 魔族の私が、神様になんてお願いしてはいけないのかも知れないけど、それでも願わせてください。



 あの人を苦しめることだけはしたくない。
 私の中に、温かく、切なく、苦しいほどに愛しいあの人に、これ以上苦しみを与えたくない。



 だからお願いです。
 私をもう少しこの青い瞳のままでいさせてください。
 この瞳なら、私はまだあの人に会って笑うことができます。
 まだ、笑いかけてもらうことができます。
 私の大好きな、あの人の笑顔を見ることができます。



 それが叶うならば、もう何も望みません。
 それほど今の私には大事なことなんです。
 大切な人なんです。
 好きな人なんです。



 どうか、あと少し。
 次に会えた時、まだ笑いかけてもらえる私でいさせてください。

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