妖精の記憶。
妖精の記憶。
僕の最後のご主人様は、赤い髪の綺麗なお嬢様だった。
もう長くない命と知った姫は、僕に自分のしたいことを願った。
外に出て花を見ること、おいしいものを食べること、雨の日の散歩、珍しい書物を読むこと、絵を描くこと。友人と話をすること。旅行に行くこと、そして姫を愛してくれる周りの人を幸せにすること。
短い時間で姫はたくさんのことをした。僕もできる限りのことをしたつもりだけれど、それでもやっぱり、姫が最期の呼吸をした瞬間には後悔があった。
まだまだ、姫の為に出来た事があったんじゃないかって。
冷たくなっていく姫の頬を、僕は触れていることしかできなかった。
そのバラ色の頬の色がなくなっていくのを、僕は見ているだけしかできなかった。
僕は、泣くことしかできなかった。
どうして僕には寿命を延ばすことが出来ないんだろうって、すごく悔しくて、悲しくて、腹が立って、自分のことが嫌いで、たくさん泣いた。
姫のいない世界が、ぼんやりして見えて、色がなくて、寂しくて。
何にもなくなったような気がして、姫の眠る場所で、ただ存在していたら。
迎えに来てくれた。
着物姿の、長い髪の毛を後ろで結った優しい目元のご主人が。
僕を見つけて、それからふんわり笑って、そっと手を出してくれた。
「さあ、帰りますよ」
その手には、僕の指輪があった。
姫の手にはめられたままで、土の中にあったはずの指輪が、ご主人の掌で光っていた。
僕はご主人の手に乗せられて、その綺麗な唇から紡がれる、呟く言葉に解かされるように、指輪に中に入った。
そのまま、姫から永遠に離れた。
姫、ありがとうございました。
僕は何度も何度もその言葉を繰り返しながら、指輪の中から遠ざかる姫のお墓を見つめていた。
「あのお嬢様は、お前のことを褒めてくれていましたよ」
ご主人の声が僕に聞こえる。静かで優しいその声が、すごく切なくて、嬉しくて、また姫を思い出してしまう。
「人は必ず死ぬものです。お前や私とは違うんですから…。ですが、この出会いはお前の生きてきた証でもあるのですよ。悲しいですが、またいつか…違う魂となったお嬢様に会える時が来るかもしれません」
ご主人の細く長い指が、僕の指輪をそっと撫でてくれた。それがあんまりにも心地よくて、僕はまた涙が止まらなくなった。
プライドの高い赤毛のお嬢様。僕はたくさん怒られたけど、それでも、貴女といた、短いけれど楽しかった時間は宝物です。
「今は、眠りなさい。そして、次のご主人が決まった時は、とびきりの笑顔を見せるのですよ」
そう言って、ご主人は、また、僕の指輪に何かつぶやいた。それは僕の意識を蕩けさせ、深い眠りに誘ってくれる言葉だったようだ
そのまま、僕は長い間眠ることになる。
紫の暖簾のお店、「聖堂」の片隅で。
もう長くない命と知った姫は、僕に自分のしたいことを願った。
外に出て花を見ること、おいしいものを食べること、雨の日の散歩、珍しい書物を読むこと、絵を描くこと。友人と話をすること。旅行に行くこと、そして姫を愛してくれる周りの人を幸せにすること。
短い時間で姫はたくさんのことをした。僕もできる限りのことをしたつもりだけれど、それでもやっぱり、姫が最期の呼吸をした瞬間には後悔があった。
まだまだ、姫の為に出来た事があったんじゃないかって。
冷たくなっていく姫の頬を、僕は触れていることしかできなかった。
そのバラ色の頬の色がなくなっていくのを、僕は見ているだけしかできなかった。
僕は、泣くことしかできなかった。
どうして僕には寿命を延ばすことが出来ないんだろうって、すごく悔しくて、悲しくて、腹が立って、自分のことが嫌いで、たくさん泣いた。
姫のいない世界が、ぼんやりして見えて、色がなくて、寂しくて。
何にもなくなったような気がして、姫の眠る場所で、ただ存在していたら。
迎えに来てくれた。
着物姿の、長い髪の毛を後ろで結った優しい目元のご主人が。
僕を見つけて、それからふんわり笑って、そっと手を出してくれた。
「さあ、帰りますよ」
その手には、僕の指輪があった。
姫の手にはめられたままで、土の中にあったはずの指輪が、ご主人の掌で光っていた。
僕はご主人の手に乗せられて、その綺麗な唇から紡がれる、呟く言葉に解かされるように、指輪に中に入った。
そのまま、姫から永遠に離れた。
姫、ありがとうございました。
僕は何度も何度もその言葉を繰り返しながら、指輪の中から遠ざかる姫のお墓を見つめていた。
「あのお嬢様は、お前のことを褒めてくれていましたよ」
ご主人の声が僕に聞こえる。静かで優しいその声が、すごく切なくて、嬉しくて、また姫を思い出してしまう。
「人は必ず死ぬものです。お前や私とは違うんですから…。ですが、この出会いはお前の生きてきた証でもあるのですよ。悲しいですが、またいつか…違う魂となったお嬢様に会える時が来るかもしれません」
ご主人の細く長い指が、僕の指輪をそっと撫でてくれた。それがあんまりにも心地よくて、僕はまた涙が止まらなくなった。
プライドの高い赤毛のお嬢様。僕はたくさん怒られたけど、それでも、貴女といた、短いけれど楽しかった時間は宝物です。
「今は、眠りなさい。そして、次のご主人が決まった時は、とびきりの笑顔を見せるのですよ」
そう言って、ご主人は、また、僕の指輪に何かつぶやいた。それは僕の意識を蕩けさせ、深い眠りに誘ってくれる言葉だったようだ
そのまま、僕は長い間眠ることになる。
紫の暖簾のお店、「聖堂」の片隅で。
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