約束の指きり

りょう

第44話

                  第44話 夏休み最終日

あれから僕は一度も春香と出会う事なく、夏休み最終日を迎えてしまった。
「何やってんだろう僕・・。」
彼女に自分の気持ちを伝えられてないし、由紀にああは言ったものの、僕自身は一歩も前に進めて居ない。本当に僕は何をやってるんだろう・・。
ピンポーン
ベッドの上で寝転がっていると、玄関のチャイムが鳴った。誰だろう?
「はーい。」
一階に降りて玄関を開けた。
「春香、どうしたの?こんな朝早くに。」
やって来たのは春香だった。
「おはよう拓、遊びに来たよ!」
「あ、遊びに来たって・・。」
訪問理由があまりに突飛つ過ぎて、僕はついてけなかった。
・・・・・
「じゃあ春香は既に、健と由紀の家には行っているから、最終日は僕の家に来たってわけか。」
「うん。だから、時間がある限り沢山遊ぼうよ。」
「そう言われても・・。」
正直春香が今日家に来るとは思っていなかった。会えるのはほんの少しかもしれないと思っていた。だからこうして会えたのは嬉しい。けど、遊ぶって言われても何をすれば良いのだろうか?
「ねえねえ、何かしようよ?、」
「うーん。何かっていわれても・・。」
家には特に遊べるような物がない。じゃあ出掛けるか・・。どこか行ける場所は、あったかな・・。
「あ。」
「どうしたの拓?」
「ねえ春香、これからプールに行かない?」
「え?プール?」
「うん。まだ時間があるし行こうよ。」
「二人で?」
「うん。せっかく春香が僕に会うためだけに来たんだから、二人でだよ。」
「でも水着が・・。」
「それは行きがけにでも買っていけばいいから、行こう!」
「・・うん。分かった!プールに行く!」
少し迷っていた彼女だったが、すぐに子どもモードになり、プールへ行くのを賛成してくれた。僕はそれがとても嬉しかった。最後の最後に春香と一緒に行きたかった場所に行けるんだから。でも、その嬉しい気持ちと同時に・・。
(今は別れの事は考えないようにしなきゃ・・。)
少しでも寂しさを紛らわせようとする自分がいた。いくら楽しい時間が過ごせても別れは必ず来る。いくら遊んでも時間が止まる事がない。いくら・・。
「どうしたの拓?早く行こうよ!」
「あ、うん。」
彼女の無邪気な笑顔を見て、僕はそんな事を考えるのはやめた。今日居なくなる本人があんなに元気なのに、僕が落ち込んでいたら意味がない。だから・・。
「よし、行こう春香!」
僕は春香の手を掴んで、まるで子供みたいに目的地へと走って向かった。
                                                   第45話へ続く


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