約束の指きり

りょう

第43話

             第43話 気付けなかった気持ち

「拓が私の事を・・。」
由紀ちゃんに言われて、私は驚いた。私が拓の事を好きなのは分かっていた。でも、拓が私をどう思っているのかまでは分からなかった。常に近くにいるのに、彼の気持ちに私は一度も気付けなかった。彼は以前言った。
『僕も好きな人が居るんだ。』
と。あの時は私はてっきり、由紀ちゃんの事だと思っていた。でもそれは違ったのだ。
「拓は今まで一度も言わなかったのね、自分の気持ちを。」
「うん。」
「まあ、仕方ないよね。拓も拓で色々迷っていたみたいだし。」
「そうなんだ・・。」
私はどうすればいいのかな・・。由紀ちゃんとの会話でふとそう思ってしまう。今彼の気持ちを知ったところで、明日私はこの世界に居られなくなる。何て言えばいいのだ?私は拓に告白した。なら、彼の告白を待つのがいい事なのだろうか?分からない・・。
「春香ちゃん?」
由紀ちゃんの言葉で我に返る。そうだ、今私は彼女と話をしている途中だったんだ。
「ご、ごめん。話の途中なのに考え事してた・・。」
「寝ようか・・。」
「うん・・。」
本当はもっと時間があるのに、私達は布団に入って眠ることにした。
・・・・・・
眠れない・・。
あれから二時間が経ち、時間は深夜一時。さっきの話を聞いてから、私は眠ろうにも眠れなかった。
(そういえば由紀ちゃんはどう思っているのかな・・。)
拓が私の事を好きと知ってもなお、彼女は拓を好きなら、果たしてどんな思いをしているのだろう。そんなの私に分かるはずがない。
「春香ちゃん起きてる?」
静かな夜の中で、突然由紀ちゃんが寝たまま話しかけてきた。由紀ちゃんも眠れないんだ・・。
「うん。起きてる。」
「じゃあちょっとだけ、私の話を聞いてくれるかな?」
「いいよ。」
何の話だろう?私は目を瞑りながら彼女の話を聞いた。
「私、ついこの間拓に二度目の告白をしたの。」
「え?本当に?」
「うん。」
初耳だった。小学校の時に一度告白したことがあるのは聞いたけど、最近の事は知らなかった。
「その時に拓は言っていたの。私も春香ちゃんも好きだからどちらかを選べないって。」
「私と由紀ちゃん、どちらも好きなの?拓って。」
「本当情けない話だよね。中学生が二股をかけるなんて・・。いい年した大人じゃないんだから・・。」
「そんな事があったなんて・・。」
信じられない。拓は私の事も由紀ちゃんの事も好きだなんて。だから、私に気持ちを伝えられずにいた、という事なのだろう・・。
「二股って言い方は大げさかもしれないけど、拓はどちらかを選ぶ事が出来なくて困っているんだと思う。だからもしかしたら明日、拓に何か起きるかもしれないね・・。」
「・・・・。」
私はそれ以上彼女の言葉に答える事は出来なかった。これ以上何かを言ってもきっと、意味を持たないと思ったから。明日で居なくなる私が・・。
そして、長い夜が明けていく・・。
                                                       由紀編 完
                                                  第44話へ続く


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