約束の指きり

りょう

第36話

               第36話 過ごせなかった夏休み

健と由紀が戻って少しした後、春香が言い辛そうだったので、仕方なく僕からきっかけを作ることにした。
「ねえ二人とも、ちょっといいかな?」
「どうしたの拓?」
「何かあったのか?」
「うん。春香がどうしても話がしたい事があるって、さっき僕に言ってきたんだけど、聞いてあげてくれないかな。」
「春香ちゃんが?」
二人が春香の方に視線をやる。春香は俯きながら小さく頷いた。
「夏祭りにあんまし重い気分になりたくないが、話すなら話してくれ。」
「私もちゃんと聞くからね。」
「ありがとうみんな。」
今さっきまで元気だった彼女が、ここまでテンションが下がるという事は、余程大切な話なのだろうか?少し間を開けた後、春香は語り始めた。
「あのね・・。」
・・・・・・
春香が先程の最初に語った事はやはり、自分は既に死んでいる事だった。勿論由紀と健は知っていることだったが、あたかも初めて知ったかのようなリアクションをしていた。それを話している春香の姿は、どこか悲しげな表情をしていた。本当は話したくない事なんだろう・・。
「それで、ここからは拓も知らない話なんだけど・・。」
次に話す事は僕も知らない事だ。何を話すか分からないから、覚悟をしておかなきゃ・・。
「私ね夏休みが終わったら、もうこっちの世界には居られないんだ。」
『え?』
覚悟を・・。
「私がここに居た目的は、大好きな拓との再会、そして友達を作ること。それは以前話したよね。」
「うん。」
「実はもう一つあるの。それは、送る事が出来なかった小学校最後の夏休みを取り戻す事なの。」
「小学校最後の夏休みを?」
「うん。私事故で亡くなったのが、小学校六年生の夏休み直前だったの。それだけは、死んでからすごく後悔していたの。友達も居ない、夏休みも過ごせないなんて、すごく辛かった。だから私はこうして戻ってきて、過ごせなかった夏休みをもう一度やり直したの。」
「そうだったのか・・。」
過ごせなかった夏休みを取り戻しにきた、つまりそれは夏休みが終わったら、この世界に居る意味が無くなる。だから春香は、夏休み最終日を最後に、居なくなると言ったんだ。
「ごめんねみんな・・。本当にごめんね・・。」
泣きながら謝る春香に僕達は何を言えばいいのか分からなかった。何故なら、大切な仲間との別れが突然やって来たのだから・・。
                                                   第37話へ続く


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