約束の指きり

りょう

第9話 一人ぼっち

                       第9話   一人ぼっち

そんな訳で自己紹介はまともにせず、三人は意気投合してしまい、僕はツッコミまくったせいで序盤から完全に疲れきってしまった。
「はぁ~、疲れた…」
「何で疲れてるの拓は?」
「いや、それは…」
もはや反論する気力も出てこない。一日保つかなこの体。
「おーい、二人とも行くぞー」
いつの間にか健と春香は公園の外で、僕達を呼んでいる。
「何か二人が呼んでいるけど、どこかに行くの?」
「うん。今からカラオケに行く事になったわよ」
「何で由紀達が勝手に決めちゃってるの?何か二人とも春香に会った時からテンション変になってない?僕を放って置いて…」
「文句言ってないでさっさと行かないと、置いてっちゃうよ」
「あ、ちょっと待ってよ!」
いつの間にか主導権を握られてしまった僕は、本日何度目になるか分からないため息をつきながら、三人の後を追った。
                      ・・・・・・・
それから約三時間、僕達はカラオケへ行ったり、ゲームセンターに行ったりと、空が真っ暗になるまで楽しい時間を過ごした。相変わらず主導権はあちらに持っていかれていたが、僕も短い時間を精一杯楽しむ事ができ、実に楽しい日だった。
「あー、今日は楽しかった」
そな帰り道、用事があるとか何とかで先に健と由紀は帰り、四人で帰る予定だった帰り道は僕と春香だけになっていた。
「楽しんでもらえたなら良かったんだけど・・。流石に僕は疲れたよ」
「あんたは良いの、私が楽しめれば良いの」
「何て自己中発言!」
僕はそうは言ったものの、別にそれでも良いかなって思った。彼女が楽しいと思えたなら、それで充分なのかもしれない。
「あ、僕家こっちだから。じゃあまた今度」
そこはこの前、春香と別れた場所だった。僕は彼女にそう言って、真っ直ぐ自分の家に向かおうとしたが、知らぬ間に春香に手を握られている事に気付いた。
「待って拓」
「春香?」
今名前で呼ばれたような気がしたけど、そんな事はどうでも良い。春香がその大きな瞳で僕をずっと見てきているのだ。相変わらず手は離してないし…。
「あ、あのね拓。さっき言いそびれたけど…、き、今日は私と遊んでくれてありがとう。約束も守ってくれて」
「そんなの改めてお礼を言われると恥ずかしいな。僕はただ約束を守っただけだし。それに、一番遊んでくれたのはあの二人じゃないかな?」
「ううん。私は拓だけにお礼を言いたいの。だって、一人ぼっちの私をこんなにも楽しませてくれたから…」
「もしかして春香、ずっと一人だったの?」
「うん。」
失礼かもしれないが、もしかしたらそうだったのかもしれない。春香は本当はずっと一人ぼっちで、あの雨の日はもしかしたら、母親を待っていたんじゃなくて、ずっと一人で遊んでいたのかも。
「私せっかく中学生になったのに、一人も友達が出来なくて…。いつもこの公園で一人で遊んでいた。本当は皆でワイワイしながら、遊びたかった…なのに…」
「春香…」
彼女はいつの間にか泣いていた。相当寂しかったのだろう…。その痛みがどんな物か分からない僕は、ただ泣き続ける彼女を見続ける事しか出来なかった。
                                                   第10話へ続く


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