東方魔人黙示録
愛は奇跡をも起こす
「キュルルル!!」
緑色の目をした異形の怪物は甲高い声を上げながら襲いかかる。大木と大差ない巨大な腕が四人に振り下ろされた。
見た目に反して異常な速さで腕は振り下ろされたが難なく四人は回避をする。それでも音速の域に達してる攻撃は直撃はしなくともソニックブームが起こり、彼らは吹き飛ばされた。
「なんつぅ速さで振り下ろしやがる!」
「キィィィアアアア!!」
緑眼の怪物の強さに愚痴を漏らす終作に追い討ちの雷弾が迫りくる。緑色の雷弾なのを見ると緑眼の怪物が放ったのだろう。
「洒落せぇぇぇぇ!!」
終作は溜まった鬱憤を晴らすように次元の狭間から大量の重火器が現れた。
その量は目に映る範囲だけでも数百丁はあった。それが緑眼の怪物を取り囲むように出現し、銃口は全て怪物に向けられている。
普通の生き物なら絶体絶命の危機であろう。そう。普通の生き物なら、だ。
「蜂の巣にしてやるよ!!」
パチン! という終作の合図と共に全ての銃口から一斉射撃が始まった。
その全ての銃弾が緑眼の怪物に撃ち放たれたが怪物の肌に触れることはない。パチパチとスパークが聞こえた。それは緑眼の怪物の全身を纏うように走る緑の雷。
体に蓄電できる限界を超えているように溢れる雷は徐々に強まり、そして爆音と共に緑の雷は放電した。
放電は全ての銃弾を蹴散らし、次元の狭間から覗いていた銃口すらも溶解させるエネルギーを周りにはなった。
手痛い反撃を食らった終作は次のプランを練ろうと次元の狭間に逃げようとしたが叶わず。いつの間にか回り込んでいた緑眼の怪物に捕まってしまった。
「終作!?」
なんとか抜け出そうと試みる終作だが、それ以上の力で鷲掴みにされ徐々に彼の体は握り潰されようとしていた。
「ぐぅぅ.......なんつぅ力だよ...!」
「キィィィィィィアアアアアアアア!!!」
「パルスィちゃん。痛いと思うけど許してね〜...!!」
踠き苦しむ終作を嘲笑うように甲高い声を上げる緑眼の怪物に終作を助けようと絢斗の刀が怪物の腕に振り下ろされた。だが、それは無駄に終わった。
絢斗の攻撃は緑眼の怪物に当たったが尋常ではない皮膚の硬さによって刀は通らず、大きな金属音を立てて絢斗は弾かれてしまった。
「か、刀を弾く皮膚ってどんだけ硬いの〜!?」
空中で無防備の状態となった絢斗に握られていた終作がぶつけられた。二人は重なった状態で吹き飛ばされたが何とか体勢を戻し、怪物に視線を向けた終作は絢斗に問いかける。
「絢斗! どうにかあれを抑えれるか!?」
「私がやるわ...!」
火御利が緑眼の怪物に向けてナイフを構える。だが、一瞬躊躇を見せた。
姿は変わろうと彼女の友人であるパルスィなのだ。それを傷つけるのは容易ではないだろう。
「ごめんパルスィ...! 斬符 連刀清桜剣!」
怪物の周りにナイフを投げるとその上の空中に何十本ものナイフが出現した。刃先は全て怪物に向けられ一斉に襲いかかると怪物の肌に突き刺さる。何本か外れたが付いていたワイヤーが巻きつき動きを制限した。
それが何十本も降り注ぎ緑眼の怪物をワイヤーで押さえつけた。さらに追い討ちをかけるように二つの巨大な弾幕が怪物を挟むように現れ、怪物を押しつぶそうとした。
「ギィィィグゥゥぅぅ......!!」
しかし、抵抗するように弾幕を押し退ける。両手を広げ無防備になった怪物に終作は一斉攻撃を提案する。
「今だ! 一斉に攻撃しろ!!」
「霊符 奥州縁扇墳」
「斬符 遣らずの雨」
「感情 儚く散るは恋心」
四人の一斉攻撃が怪物に向けて放たれた。
前方からは一本の刀が霊力で造られた刀を率いてくるように迫り、頭上からは巨大な緑の弾幕が落ちて来ていた。
さらに周りを取り囲むように次元の狭間から数百丁もの銃口が向けられ、紫色のハート型の弾幕がまるで檻のように囲っている。
緑眼の怪物は完全に退路を断たれていた。
その光景は怪物にとって抵抗が無駄だと分からせるのに十分だった。怪物は弾幕を抑えていた両手から力を抜き全ての攻撃を受けた。
断末魔の叫びすら上げずに緑眼の怪物の体が崩壊していった。
怪物の体が崩壊して残ったのは静かに眠るパルスィの姿だった。
『パルスィ!!』
火御利とさとりの呼ぶ声に反応するようにパルスィは目をゆっくりと開いた。そして、目の前にいた終作達を見つめて首を傾げた。
「終作...絢斗...さとり様...火御利...? なんでここにいるの...?」
「あなたを連れ戻しに来たのですよ...! さぁ、一緒に帰りましょう?」
「...どうして」
「え...?」
「どうして迎えに来るの...私はもう...闇に沈もうと思ったのに...もう楽になりたかったのに...」
パルスィの瞳は暗かった。美しかった緑眼は鈍く輝き澱んでいた。深淵に居続けたせいか彼女の心は完全に闇に溶けてしまっていた。
「パルスィ...」
さとりはショックだった。助けに来たはずの家族がもう死にたいと言っている。それほど辛いことはないだろう。終作と絢斗もパルスィを救うのは無理ではないかと諦めかけていた。だが、火御利はそんな彼女の頬を強くぶった。
頬がぶたれた音に火御利以外の三人は目を見開き驚く。パルスィは未だ変わらない澱んだ緑眼で火御利を見つめた。
「楽になりたい...? ふざけたこと言わないで!! あなたが居なくなって辛い人が何人いると思ってるの!?」
「私が居ないと...辛い...?」
「そうよ! 私も終作も幻真も磔も桜も...さとりだってイラだってリティアだって...! それに一番あなたが居なくて辛いのはアルマでしょ!?」
「......アルマ...!」
「あなたも彼と会えなくなるのは辛いでしょ!」
その言葉を聞いたパルスィの目から涙が零れた。その瞳には光が灯り、エメラルドのように輝く瞳へと戻っていた。涙とともに彼女の口からは本心が零れた。
「......辛い...辛いよ...!」
「なら、こんな暗いところにいないで一緒に帰りましょう...?」
優しい声をかけ火御利はパルスィに手を差し伸べた。パルスィは涙を拭い、差し伸べられた手を掴んで頷いた。
「ええ、帰りましょう...!」
「よぉし! じゃあ俺が帰り道をーーーーーーーー」
「その必要はないわ」
終作の言葉を遮り、パルスィは答えた。
その言葉の真意をさとりを除いて気づく者はいない。パルスィはそんな三人に気づかず、くるっと方向転換すると何もない闇の空間に向けて一つ弾幕を放った。何の変哲もない手のひらサイズの緑色のそれは数メートルほど飛んでいくと、大きな音を立ててはじけ飛ぶと空間に大きな穴をあけた。
その光景に三人は茫然と空いた穴を見つめ、さとりはクスクスと笑っていた。そして、パルスィはと言うと大きな穴を背に指差した。
「ね?」
「そうだった...この世界のパルスィちゃんは規格外だった...」
「俺もうパルスィちゃんに変なことするのやめよ~...」
「アルマのこととなるといつもこうですよ?」
「愛のなせる業ってレベルじゃないわ...」
「ほら、グズグズしてないで行くわよ」
四人にそういうとパルスィは先に空間の裂け目と飛び込んだ。
愛する者の元へ急ぐために。
△▼△
「あなたが私に勝てるわけないでしょう...アルマ...!」
哀れみを含んだ声で桜は地面に倒れ伏すアルマに向けて言い放つ。
至る所がボロボロで、徹底的に打ちのめされたのは一目瞭然。しかし、それでも尚アルマは立ち上がろうとしていた。
「退いてくれ...俺は...アフェクトゥルを...!!」
「今のあなたじゃ無理よ。気付いてないの? あなた弱くなってるわ」
「黙れ...」
「多種多様な感情を弄ぶあなたがたった一つの虚無という感情だけで強くなれたと思うの?」
「黙れ...黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!」
アルマは地面から起き上がり巨大な金槌を創り出すと桜に振り下ろした。それは黒鉄によって創られ、漆黒に燃え上がる炎を纏っている。それは彼の中から消えかけていた憤怒を具現化させた武器であった。
「憤怒...それを向けるべき相手が違うんじゃないの?」
「!!」
桜の言葉で止まったのか、それとも自分の消したはずの憤怒が湧き出たからかアルマは動きを止めた。
そして、頭を抱え込み苦しむように叫んだ。
「いらねぇ...いらねぇんだよ...! こんな胸糞わりぃ感情なんかよ! 心の奥底から尽きることのないマグマが俺を苦しめるんだよ!!」
「そう...そうゆうこと...」
「だから...そこを退いてくれ...!!」
「悪いわね。私に勝てない時点で戦いは目に見えているわ」
「関係ねぇよ!!」
「死にたいだけだから?」
その言葉にアルマは目を見開く。自分の真意を見破られたからだ。自分の予想が的中したことに桜はため息を吐いた。
「確かにパルスィとあなたは依存し合うほどの仲。あなたがどれだけ苦しんでいるか、私の想像の域を超えているかもしれない。けど、そのまま死んでいいの?」
「俺には...俺にはもう何も残ってないんだよ...」
「本当に...本当にそう思ってるの? パルスィだけがあなたにとって生きる糧なの?」
桜の問いかけにアルマは何も言わずに頷いた。その反応に彼女は悲しそうな表情を浮かべ、小さく呟いた。
「そう...なら...」
静かにソードブレイカーを握ると桜は常人では目で追えないほどの速度でアルマに接近した。突然の攻撃に驚くものの辛うじて腕を硬化させ防いだ。
「私の手で...殺してあげる」
「なっ!?」
「あんたみたいな最低な親には生きる価値ないわ」
どこか怒りを含んだ彼女の攻撃は確実にアルマを追い込んだ。本気だった。彼女は本気でアルマを殺そうとしていた。
なぜなのかアルマは分からなかった。自分の過ちに気づけていない彼により怒りを増す桜は高速で術式を組むとアルマの周りを取り囲んだ。
その術式を見たアルマは目を見開き、顔を青ざめた。
「まさか...これは!?」
「退魔の術式。それも飛びっきり上級のやつよ」
「俺に効くと思ってんのか...? 感情解放:虚無!!」
感情解放を試みたアルマだったが、感情の炎は現れず不発に終わった。
「なっ...!」
「虚無はあらゆる感情を捨ててこそ効果がある感情。さっき憤怒を抱いた時点でもうあなたは虚無は使えない」
「く、くそ...」
「さぁ...消えなさい...」
アルマの周りを囲んでいた退魔の術式がゆっくりと迫っていく。絶体絶命の状況にアルマは死を確信した。その時だ。迫り来る退魔の術式が跡形も無く消滅した。
桜は何が起こったか分からず戸惑いを見せる。しかし、すぐに原因が分かった。彼女の視界には二人組が立っていた。
その片方の手に退魔の術式が握られていた。
「なぜあなた達が...どうやってあの結界を...?」
目の前にいた二人組は桜の結界に閉じ込められていたはずのリティアとイラだった。桜の言葉に二人はクスクスと笑い、リティアが術式がある手とは反対の手を見せた。その手には桜の結界が握られていた。
「簡単だよ桜お姉ちゃん。リティアに奪えないものは何もないよ?」
「そうそう! 私にはあの結界を奪い取ることなんて簡単! 時間はかかっちゃったけどね」
明るく笑う双子は自分の親であるアルマの側に寄った。だが、アルマは力無くうな垂れていた。そんな父親の手を二人は優しく握った。
「お父さん...結界の中から全部聞こえたよ。お父さんの心の叫びが」
「お母さんを失った事への悲しみや怒りを私達は感じたよ。それがどれだけ辛いかも」
「けど...お父さんは一人じゃないよ! 」
「まだ私達がいる」
『だから...死にたいなんて思わないでお父さん...!』
より一層、父親の手を強く握り二人は本心を言った。その言葉はアルマにちゃんと響いていた。
「......そうか。俺は見えてなかったんだな」
「アルマ...」
「悪い桜...やっと分かったよ。それにリティアとイラもごめんな...こんな子供達を忘れるような最低な父親で...」
アルマの言葉にリティアとイラは首を横に振った。
「私達はお父さんが最低だと思わないよ...!」
「僕達のお父さんはとても優しくて...強くて...かっこいい最高のお父さんだよ!」
「ギヒヒ...そうか...ありがとうリティア、イラ...」
アルマは自分の子らを優しく抱きしめた。
その目には涙が浮かんでいた。そして、その瞳の色は元の赤と青の混じる不思議な瞳へと戻っていた。
「やっと戻ったわね」
「ああ、完全復活だ。迷惑かけたな」
「ほんと...大迷惑だった。ちゃんと借りは返してちょうだい」
「当たり前さ。俺とアフェクトゥルの因縁もここで終わらせる」
「ならさっさと行くわよ。みんながあなたを待ってる」
桜が移動用の術式を展開すると先に行ってると言い残し、術式へと消えた。
俺はリティアとイラの頭を優しく撫でた。その意味を理解した二人は何も言わずに頷き手を振った。
『いってらっしゃいお父さん!』
「ああ、いってくる」
術式の上に立つと浮遊感を感じると視界が光に包まれた。
ふと、パルスィの顔が頭に浮かんだ。なぜか心配そうな表情だった。
「大丈夫だ。もう死にたいとおもわねぇよ」
独り言を呟くと思い浮かんだパルスィの表情は微笑んでいた。
さぁ...ラストバトルだ。
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