東方魔人黙示録
最終決戦、そして...
心臓がある左胸を貫かれたアルマはその場に力無く倒れ伏した。
「アルマ!!」
幻真がアルマに駆け寄ろうとするがその間にアフェクトゥルが割り込み、彼に近づけさせないようにしていた。
「心臓を穿ったとはいえ可能性がある限り。魔王には近づけさせない」
「邪魔だ! 斬符 ライトニングスラッシュ!!」
「愛ゆえに拒絶する...拒絶の独奏曲」
金切り声を発して歌を奏でるアフェクトゥルに光を放つ幻真の剣が触れる寸前でぶつかり合うように弾かれた。
「邪魔ですよ?」
「お前がな!!」
背後に回っていた磔の攻撃をアフェクトゥルは黒き盾で防いだ。
「そんなダダ漏れの殺気に気づかないとお思いで?」
「囮に決まってるでしょ? 神羅 知を貪るもの」
桜は両手に魔力を溜めるとアルマのよく使う青いレーザーを撃った。だが、その威力は本人の数十倍はあり、完全にアフェクトゥルの死角を狙い尚且つ四方から襲うように拡散した。
その驚異的な攻撃にすら彼女は傲慢の笑みを浮かべる。
アフェクトゥルは磔の腕を掴み桜の攻撃から身を守るように彼を盾にした。全てのレーザーが当たりボロボロになった磔を彼女はゴミのように捨てた。
『磔!』
幻真と桜が叫んだ瞬間、磔の額から白金色の炎が燃え上がった。
「開放 ソウルモード!」
「まだ抗うか」
「当たり前だ! 今ここで諦めたらアルマに顔向けできねえだろぉが!!」
磔は慈悲の銀剣でアフェクトゥルに斬りかかった。それを白き剣で受け止めるがソウルモードによって強化された磔の身体能力に彼女は押されていた。
「流石...と褒めておきます」
「これを喰らっても減らず口を叩けるか!? 連符 ネイルシュート!!」
磔は右手に力を込めアフェクトゥルの白き剣を殴ると彼女の持つ白き剣に殴られた衝撃が何十連と続いた。それは百連まで続き、それを持っていた彼女にも衝撃が走る。その勢いのまま彼女は地面に叩きつけられた。
「無駄なことだ。どのみちあなた達は次の一撃で死ぬんだ」
アフェクトゥルは右手に魔力を溜めると白黒の槍を創り出した。
「白は希望の象徴、穢れなき希望は全てを貫く。黒は絶望の象徴、深き闇を秘めし絶望は全てを呑み込み跡形もなく消すだろう......希望と絶望の二重奏」
白黒の槍を磔に向けて投げた。空気を切り裂くようなスピードで迫る槍を叩き落とそうと弾幕をぶつけるが槍はビクともしない。
術式を組みながら桜が前に出ると何重にも渡る結界を作り出した。だが、それでも槍は止まらず結界を貫きながら突き進む。そして、最後の結界を貫いた瞬間、磔が真桜蒼剣を取り出し切り裂いた。槍は真っ二つに割れると粒子となって砕けた。
「そんな弱っちい槍一本でやられると思うなよ!」
「ええ、思ってませんよ?」
アフェクトゥルは歌を口ずさむ。明るく暗い美しい歌声が辺りを包み込んだ。磔達が歌に聞き惚れそうになっていると彼らを囲うように白黒の槍が出現した。それは視界に映るだけでも数百本はあるだろう。
「さぁ...抗うがいい」
歌い終えると共に数千本にも及ぶ槍達は一斉に動き出した。
まるで雨のように降り注ぐ槍は隙間なく幻真達を襲った。それでも抗うように彼らは武器を一切休まず振り続けた。1分、2分と時間は経っていき、數十分が経過する頃には槍の雨は止み桜達は荒く呼吸をしつつも無傷で生き残っていた。
「ど、どうだ...!」
「流石です。さて、お疲れでしょう? 休ませてあげましょう...永久に」
アフェクトゥルがまた歌い始めると槍が先ほどと同じように生成されていた。
「嘘だろ...?」
「もう...避けれる体力なんてないわよ...」
「絶体絶命か..,」
「終わりだ...」
彼女の歌声が終わった。そして、槍達はまた一斉に動きだす。もはや彼らの命運は決まったと言えるだろう。
その時に介入者がいなければだが。
突如として彼らと槍との間に大きな穴が開いた。それは次元の狭間の穴。槍は全て穴の中へと消えると代わりに介入者が現れた。
「終始終作ここに降臨! いやぁ! 絶体絶命のピンチに駆けつける俺ってかっこいいね〜!」
次元の狭間から現れたのはいつもの調子で陽気に笑う終作だった。彼の姿を見て安堵すると共に幻真は感謝を述べた。
「終作...助かったよ...」
「あれ? 磔に幻真、それに桜ちゃんも相当疲れてるね〜」
「絢斗も無事だったか...と言うことは」
「ええ、パルスィは助けてきたわ。ただ...一人で勝手に突き進むものだから見失って...」
その後ろからヒョコッと顔を出す火御利と絢斗。彼女が言った通り、パルスィの救出に成功はしたが一人で次元を破壊しながら進んで行ったために見失ってしまい仕方なく終作の力で先にこちらに戻ってきたのだ。
「全く...パルスィには困ったものです」
「アルマの世界のさとりも無事か」
「ええ、それで...今はだいぶ終局になってるようですね」
さとりはこちらを睨むアフェクトゥルを見据えて言った。
「全く目障りだ。貴様らが束になってこようと私には勝てない。もう諦めたらどうでしょう?」
「それはお前だアフェクトゥル。お前は一番怒らせちゃいけない人間を怒らせた」
「ほう...それは一体誰でしょうか?」
終作の言葉に嘲笑するように返すアフェクトゥル。そんな彼女の肩を掴む者がいた。首を捻り後ろを振り向くとアフェクトゥルは目を見開いた。そして、終作は彼女を嘲笑しつつ言った。
「まあそいつは人間じゃなくて魔王だけどな」
左胸に大きな穴を開け、禍々しいフォルムをした大剣を杖にして立ち上がり目からは様々な色をした炎を燃え上がらせる魔王 桐月アルマの姿があった。
自分の肩を掴む腕を振り払い後ろに飛び退くと彼のことを指差して動揺しながら叫んだ。
「な、なぜ立てる!? 例え魔王のお前でも心臓を貫かれては死は免れないはずだ!!」
「言っただろ...俺は諦めが悪いんだよ...全身の骨を砕かれようと...四肢が捥げようと...頭を射抜かれようと...俺はお前を倒すまで死なねえよ...」
魔剣・大百足を振り上げるとアフェクトゥルに向けて振り下ろした。しかし、その振りは遅く軽々と躱せるほどだった。
アフェクトゥルは嘲笑するように後ろに飛び退くとアルマの攻撃をかわした。誰にも当たることのない大百足が地面に触れると鈍い閃光を放ち爆発を起こした。
その爆発は途轍もなく爆風で人を吹き飛ばすほどであった。辺りは粉塵が漂い視界を悪くしている。
「視界を奪ったつもりですか?」
「......喰らえ」
アフェクトゥルに向けた言葉か、ただの独り言か。アルマがたった一言呟いた。すると、爆風で舞い上がった粉塵はバクンッ! という音と共に跡形もなく消え去った。
「なっ!?」
「奪い...そして...ひれ伏せ...」
またアルマが呟くとアフェクトゥルは膝の力が抜け跪いた。立ち上がろうと力を入れるが膝に力が入らない。否、立ち上がる勇気がなかった。
目の前にいる幽鬼の如くユラユラと歩く魔王にアフェクトゥルは恐怖を覚えていた。
「ーーーーっ!?」
そして、ある変化にも気づいた。声が出ないのだ。感情の歌を奏でようと声を出そうとしたアフェクトゥルは声が一言も出なかったのだ。
《こんなもので私を止められると思ってるのか!!》
声の代わりにアルマの頭の中に直接言葉を飛ばした。辛うじて動く指を鳴らすとアフェクトゥルは感情の呪いから解放された。
「この怒りは全てを燃やすぞ感情の魔王...! 怒りよ...憎しみよ...恨みよ...! 憤怒という炎となってこの世を灰燼としろ!」
アフェクトゥルの周りを覆うように真っ赤に燃え上がる炎が現れた。それは一斉にアルマに襲いかかると消し炭に変える勢いで燃え上がった。
勝利を確信するアフェクトゥルはニヤリと笑みを浮かべた。しかし、その笑みはすぐに消えた。何故なら目の前で炎に包まれながらも歩みを止めず進み続ける魔王の姿があったからだ。
「な、何故だ! 何故平然と歩いていられる!?」
「こんな炎...熱くもねぇよ...!!」
アルマは右手で炎を振り払うと全身を包んでいた炎は一瞬で燃え尽きた。
その様子を見たアフェクトゥルは一心不乱に魔法を唱えアルマの体を攻撃するがどれだけ体が破損しようとも歩みは止まらない。だが、ダメージは酷くその場に崩れ落ちた。
それを好機と見たアフェクトゥルは両手に魔力を溜めた。
「消えろ! 虚無の独奏曲!!」
白き電流が両手から迸るとアフェクトゥルは立ち上がろうともがくアルマに向けて解き放った。白き虚無は一片の曇りもないレーザーとなってアルマに迫った。まともに避けることもできない状況。アフェクトゥルは勝利の笑みを浮かべる。まあすぐにその笑みは消えるが。
「おい。俺を忘れるなよ」
なぜなら最強の男がそれを止めたからだ。
「き、貴様!?」
「あれ如きで俺を止めれると思うなよ?」
「クソッ! なら今度は闇に沈めてやろう!」
感情の音色を奏でようとしたアフェクトゥルであったが、その音色が響くことはなかった。何度も奏でようと試みるが無駄骨となり、原因であろう者を睨みつけた。
「感情の魔王...!!」
「お前が感情と戯れようと俺はそれを弄ぶだけだ。ほら...聞かせてくれよ? 悲鳴と恐怖の二重奏を!!」
ゆっくりと闊歩するその姿はまさに魔王。
神はただただ恐怖するだけ。
そして、とうとう逃げ出そうと背を向けようとしたアフェクトゥルは背後からの見えない何かに拘束された。
「う、動けない...!!」
「緑色の目をした見えない怪物」
「な、何者...だ...!?」
自分を拘束する何かを召喚した者を見たアフェクトゥルは目を見開いた。
そこにいたのは緑眼を爛々と光らせる怪物を背後に控えさせ、自身も緑色の双眸で彼女を睨む金髪の少女だった。
その者は呆れたようにため息を吐いた。
「自己紹介してなかったかしら? 私は水橋パルスィ。橋姫にして魔王の妻よ」
「なぜ貴様がここにいる!! 次元の深淵へと沈んだ貴様が!?」
「一ついいこと教えてあげる。橋姫の怨みは、深淵に落とされようと必ず追いかけて殺すわ」
橋姫の怨みを買ってしまっていたアフェクトゥルにはもう逃げ場がなかった。
前門の魔王、後門の橋姫。
逃げ出せるわけもなく彼女はただ無意味に言葉を発するだけだった。
「わ、わかった...もう私は手を出さない...! ここから引くし戦争ももう起こさない...!! だから...見逃してくれ...!」
「黙れ...」
「もう手遅れよ...」
醜く命乞いをするアフェクトゥルだが、そんなものは魔王と橋姫には意味がない。彼らの愛する者を壊し、消し、傷つけてタダで済むはずがない。彼らへの罪の償いは死ぬ事でしか解消することはできなかった。
『さぁ...審判の時だ...』
地獄の底から響くような声でアフェクトゥルに言うと、アルマとパルスィは鏡写しのように同じように手を構えた。
『大罪 嫉堕の奈落』
パルスィの手からは緑色でハート型の弾幕が大量に放出され、アフェクトゥルを取り囲むように包囲。逃げ場を奪った。
そして、アルマの手からは黒い炎を纏った漆黒の杭が投げられ彼女の四肢に打ち付けられた。動きの取れないアフェクトゥルはなすすべもなく、ゆっくりと黒き炎に全身を包まれていった。
「私は...また...封印されるのか...?」
「封印なんて甘っちょろいことはしねぇ...」
「あなたは次元の深淵に沈むの...」
『そして...ゆっくりと闇に溶けろ...』
「嫌だ! 死にたくない...!!」
必死の懇願はアフェクトゥルが完全に深淵に沈むまで続いた。
そして...数分後にはその声も消えた。
感情の神 アフェクトゥルはこの世から完全に消え去ったのだ。
戦いは終わったのだった。
力が抜けたようにアルマは地面にへたり込んだ。パルスィは側に近寄り、アフェクトゥルに開けられた心臓の穴を見て目を見開く。
「アルマ...心臓...!」
「ん? ああ、大丈夫だ...元からなかったし...俺の大鎌どこにある?」
「そこ...」
パルスィがすぐそばの地面を指差すとアルマは這って大鎌に近づくと心臓のある位置にしまいこんだ。
「はぁぁ...落ち着く...」
「全く...心配させないでよ」
「それはこっちのセリフだ」
ボロボロの体で立ち上がり、ヨロケながらもパルスィの元に近づき彼女を強く抱きしめた。
突然、抱きしめられたことに戸惑うパルスィだったがすぐにクスッと笑みを浮かべた。
「泣いてるの?」
「うるせぇよ...!! だって...もう会えないと思った...! もう声を聞けないと思った...! もう...一緒にいられないと思ったんだよ!!」
「...本当に心配かけたね」
「もう離さねえぞ...絶対に...!」
「それは嬉しいけど、今はちょっと離してほしいかな。恥ずかしいし...」
パルスィの言葉に我に帰ったアルマはゆっくりと振り向いた。そこにいたのはニヤニヤと笑う終作とさとりや微笑ましそうな表情をする磔や霊斗の姿があった。
「本当におアツいことで」
「ああ...幸せです...」
「ほんと、羨ましいぐらいだ」
「けど、人前でベタベタしすぎだと思うぞ?」
「まあ、いいじゃないか。それほど愛し合ってるってことだ」
「......てめぇら黙って見てんじゃねえよ!!」
そう言ってアルマは弾幕を構えるが破損した体の痛みに耐えれず傷口を抑えて呻き声を上げた。
「うぅ...いってぇ...!」
「とりあえず治療だな。一旦、地霊殿に戻ろう。終作」
「オッケーオッケー! 移動は俺ちゃんに任せとけ!」
「アルマは愛する妻に背負ってもらえ」
「クソ幻真...! 覚えとけよ...!!」
「はいはい...黙って背おられなさい...」
まともに動くこともできずにアルマは抵抗もできずにパルスィに背負ってもらった。
からかうように絢斗や時龍が周りで何か言ったりしていたが治療を終えたアルマの弾幕の餌食になるのは言うまでもないだろう。
△▼△
「......にしてもボロボロね」
桜が呆れるように俺の体を診て言った。
側にはパルスィとさとり様がいる。他の奴らは別の部屋で休んでいる。本当なら絢斗にも治療をお願いしたかったがあいつも相当疲労していたようで地霊殿に着いたところで力尽きていた。
仕方ないから桜にお願いした。
「火傷に裂傷、凍傷に加えて胸に開いた大きな傷口。生きてるのが可笑しいレベルよ。だいたいなんで心臓を貫かれて生きてるの?」
「あ〜...俺の異法で心臓を大鎌に変えてたから貫かれた時には心臓は無かったんだ」
「なるほどね。じゃあ、倒れてた理由は?」
「お前なぁ...心臓が無かったとしても臓器が何個かやられてんだ。そりゃあ気絶する」
それでも呆れた表情の桜。おかしいこと言いました? 
それでまあ今日は安静だな。宴会? バカを言うなやるに決まってんだろ。というかここからでも聞こえてくるがあいつらもう始めてやがる。
全く......堪え性にない奴らだ。
「とにかくもう少し休んでなさい。その怪我で動かれても心配なのはこっちだから」
「へいへい...」
「そういうわけだからパルスィ。ちゃんと見張っててくれない?」
「わかった。動こうとしたら地に沈める」
「うん。やめてね?」
どっと疲れた様子の桜は部屋から出て行った。それについて行くようにさとり様も出てった。気をつか...うわけないよね。さとり様だもん。
「はぁぁ...宴会楽しそうだな」
「言われたでしょ? もう少し我慢」
「言うて動けーーー」
「が・ま・ん」
「はい...」
拳を握って言われたら我慢するしかないじゃないですか。今、パルスィにお仕置きされたら確実に死ぬね。うん。
ため息しつつ天井を見上げるとパルスィがおでこに手を置いてきた。視線を移すと何か言いたげな表情をしていた。首を傾げていると次の彼女の言葉に俺は笑った。
「おかえりなさいアルマ」
そういえば、そうか。俺は帰ってこれたんだ。この地霊殿に家族の元に。
「ただいまパルスィ」
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