東方魔人黙示録

怠惰のあるま

次元の深淵に潜む者



一方その頃、次元の深淵に向かった終作達はそこが未だに見えない暗闇を沈んでいた。
周りを見渡してもただ闇が広がっているだけで光すら届いていない。その光景はまさに深淵と呼べるものだった。
その時、ボソッとさとりが不思議な事を呟いた。

「似てる...」
「何が似てるんだい?」
「この光景...昔、アルマの心に潜んでいた闇を覗いた時に似ているんです...」
「似てるのも仕方ないかもな。次元の深淵は一片の光すら届かない闇の領域。だが、深淵と似ているほどの闇か...相当深い闇だったんだな」

終作はシミジミと話していると、あるモノに視線が移った。
それは今まさに深淵の闇へと溶け出している者の姿があった。その者は一切の悲鳴を上げず溶けることに身を任せ、深淵の闇の一部に溶け込んでいった。
その光景を見た火御利は背筋に冷たいものを感じた。
闇に溶けることは相当の恐怖があるはずだ。それが今の者は感情が無いかのように一切の悲鳴も抵抗もせずなされるがままだった。
まるで深淵の一部となることが一番の幸せだと言っているかのように......。

「なんで...」
「なんで抵抗もせず闇に溶けていったか? 簡単だ。誰だって恐怖に負ければああなるんだよ」
「恐怖に...」
「俺は他にも深淵に沈む人がいた事にビックリだけどね〜」
「次元の深淵ってのは誰でも来れる場所だ。ただ、一方通行だ。俺みたいに次元を操るものでなければ帰ることもできずにああなる」

今まさに深淵の一部となった者を見つめながら終作は答えた。
恐怖に負ければ最後。この闇一色の世界で孤独に消えていく。次元の深淵はとても危険な場所であった。
それでも彼らは進む。大切な家族を救うため、仲間を救うため、親友を救うため。それぞれの強き思いが恐怖を消し去っていた。
そんな時であった。闇の中に蠢く気配があった。それにいち早く気づいたのは終作だ。

「どうかしましたか?」
「何か来るぞ...」
「何かって...何よ...?」
「知っているようで知らない...何か歪なモノが近づいてくる...!」

そんな終作の曖昧な答えが返ってくるとそれは目の前に現れた。
猛スピードで彼らの眼前に現れたのは異形の怪物であった。
全長10メートルは余裕でありそうな巨躯。体に相応の巨大な手。逆に足は全くと言っていいほどに不相応に小さい。
頭は無く、胴体の胸のあたりに顔があった。口であろう部分は縦に裂け細長い歯がワシャワシャと動き、時折見える舌であろうものは紫色で触手のように何十本もうねっていた。
そして、怪物の双眸は緑眼・・であった。

「キィィィィぁぁぁぁぁァ!!」

突然甲高い叫びを上げた。
終作達は意識が一瞬持ってかれそうになっていた。それほどの叫び声であった。

「な、なによ! この怪物は!?」
「き、気味が悪いね〜...」

怪物の突然の叫びに火御利は驚き、絢斗はその異形な姿に寒気を覚えた。
そんな二人とは全く違う反応を見せる終作とさとり。怪物の姿を見て目を見開いていた。

「というか...この怪物って...」
「パルスィ....の...緑眼の怪物......?」

目の前に佇み奇声をあげている異形の怪物はパルスィが従えているはずの嫉妬の化身。
緑色の目をしたグリーン・アイド見えない怪物・モンスターだった。

「パルスィの...ってことは近くにいるってこと!?」
「いや火御利ちゃん...それはなさそうだ...」
「どうゆうこと...?」
「緑眼の怪物から...パルスィの気配を感じます...」
「え...?」

終作が知っているようで知らない歪なモノと表現していたのは緑眼の怪物に取り込まれたパルスィのことだった。
深淵に沈んでいる内に感情の怪物の絶対的な本能である《主を守る》という行動が発生した結果が今の状態なのだろう。普段は見えないはずの緑眼の怪物の姿が見えているあたり、暴走しているようだった。

「こいつを倒さない限りパルスィは救えないみたいね...」
「この世界のパルスィの強さは異常だ。油断するなよ」
「そんな怖いこと今言わないでよ〜」
「パルスィ...今助けますよ...!」

四人が戦闘態勢に入ったことに気づくと緑眼の怪物は主を守るために一つ大きな声を出し眼前の敵に襲いかかった。

強欲の始祖神 終始終作 &
眠れる紫神 相沢絢斗 &
ナイフの使い魔 火御利 &
怨霊も恐れ怯む少女 古明地さとり
vs
緑色の目をしたグリーン・アイド異形の怪物・モンスター






△▼△






アフェクトゥルは何処からか持ち出した椅子の上で思い出していた。
外なる神達に封印される以前の記憶を。
三次元の生き物では干渉負荷の領域である四次元の空間に彼女は住んでいた。
そこから全ての次元を監視していた。そんな時に彼女はある者とであった。それが桐月アニマ。
自分とは全く正反対の存在である彼にアフェクトゥルは見下すような感情を抱いていたが、そのとっつきにくい性格と絶えない明るさに興味をそそられてもいた。
だが、ある時。アニマとアフェクトゥルの次元で大きな争いが起こった。
天使側と悪魔側での大きな戦い。歴史にも残る戦争だった。元々戦うことが嫌いであったアニマはアフェクトゥルに戦いを終えるように平和条約を持ち込んだ。しかし、彼女はそれを断った。そもそも、その戦争の引き金を引いたのは彼女だ。
様々な感情渦巻く戦争は感情と戯れる彼女にとっては最高の場所。それを終わらせようとするアニマの条約は結べるはずもない。
自らの能力により戦争をさらに悪化させ、外なる神にも害を与えるほどの戦争と化した。それを危惧した外なる神は彼女の感情を奪い、それを鍵として封印を施した。感情の鍵は桐月家に渡され受け継がれるようになる。
だが、アフェクトゥルは封印の隙間を狙い、アニマの弟であるグースの嫉妬の感情を操り兄を殺害させた。
それが桐月アルマの物語の始まりでもあった。

「全ては私の手で始まった。なら、終わりも私自身の手で...終わらせましょう...」
「感傷に浸ってるようだけど。そろそろ始めよう」
「ええ...そうですね。お相手さんも来たようですから」

アフェクトゥルは椅子から立ち上がり、真っ直ぐに敵を見据えた。その後ろでルシファーもダルそうに立ち上がる。
彼女らの視線の先にはこの次元最強の男 博麗霊斗を筆頭とする強者達が集っていた。
ヒシヒシと感じれるほどの殺気と様々な感情が渦巻いていた。
ルシファーは何処か嬉しそうに微笑んでいた。

「ああ...様々な感情が昂ぶってる...! いいよ...! もっともっと私に感じさせて...!!」
「相変わらず嫌な性癖してやがるな」
「博麗霊斗。感情の魔王いない君らに勝ち目があるのかい?」

煽ってくるルシファーの言葉にわざと乗るように幻真は答えた。

「アルマがいなくとも俺たちは戦えんだよ!!」
「それにどんなにボロボロになろうともあいつは絶対に来る。そうゆう奴だからな」
「俺たちはあいつを信じて出来ることをやる...」
「愚かな。感情の魔王がどれだけ苦しんでるかわからないと見た...」

悲しむような素振りを見せるアフェクトゥル。その感情に反応し、彼女の背後に藍色に染まった炎がゆらゆらと浮かび上がった。

「哀れみの炎は強くなりやがて全てを焼き尽くすだろう...」
「これで終わらせるぞ! お前ら気を引き締めろ!」

霊斗の声に皆が頷き、それぞれの武器を構えた。
次元をも巻き込んだ戦いは今、哀れみの独奏曲と共に終局に向かい始める。





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