東方魔人黙示録

怠惰のあるま

尽きぬ暴食と復活の魔王



頭が痛いです。
何故かって? アブホースが俺に無理矢理力を与えやがったから拒否していた俺は激痛を伴い今も軽く頭痛がするのです。

「まじでふざけんなよ!!」

俺は目の前にいる灰色の湖のような姿のアブホースに向けて叫んだ。

《お主が素直に受け取らないからだ!!》

要らないと言っているのに無理矢理渡す方が悪いと思うんですが? 俺は何一つ悪くないよ? むしろ被害者だから。
クソッ! 無駄に強くなってしまった! これじゃあ変に強者を求める戦闘狂に狙われてしまう...! 勇儀さんとか勇儀さんとか勇儀さんとか勇儀さんとか...!!

《勇儀という者しかいないではないか》

うるせえよ! あの人一人でだいぶ被害が大きいんだよ!! 俺は戦いが嫌いだというのによ!! ああ...パルスィと子供達四人で静かに暮らしたい......!

《あーっと...落ち込んでいるとこ悪いが誰か来るぞ?》

あん? 誰かって誰だよ?

《誰かは知らぬが...次元の狭間を渡って来ておるな》

次元を...? おかしいな。今は次元の壁が消え去ってるはず。次元、ましてや狭間を渡ることなんて不可能だ。
誰かが次元の壁を再生させない限りは......いや、なんかあいつらの中の誰かだったらあり得る...チート級の奴らしかいないんだ。次元の壁の再生ぐらい楽勝だろ。うん。
さぁて...後ろの方から七人ほどの気配を感じるが......構えておこう。

「終始終作ここにとうーーーーがはっ!?」
「やっぱりお前か...」

後ろから俺を驚かせようとしたんだろうがそうはいかん。感情を感じることができなくても気配ぐらいは感じれる。
とりあえず終作に回し蹴りを食らわせてみたが結構いい感じに入ったみたいだ。軽く気絶してる。

「あ、お父さん!」
「は?」

俺の胸に飛びついたのはリティアだった。何故ここにいる? その後ろから続くように桜や磔達が次元の狭間から現れた。

「本当にアルマいた」
「というか終作はなんで気絶してるの?」
「お前らまで来たのか...」

はぁぁ...やっぱり誰も俺の警告聞かないか。こいつら我が強いから絶対に来るとは思っていたが、何もこんな地下深くまで来なくても...

「おいアルマ」
「なに?」
「一発殴らせろ」
「...はぁぁ!?」

なになに? 急に再開したと思った矢先に一発殴らせろって磔よ。俺が何をしたというんだ。

「そうね。私も殴りたいわ」
「私もパルスィの分と合わせて二発」
「火御利と桜まで!?」
「勝手に呼んでおいて自分を助けるな、だ? 何を心配したか知らないが俺らはそんなヤワじゃないぞ」

ど、どうしよ。言い訳したところで収まりが聞かないだろうし...潔く殴られても俺の身があぶねえ...!! クソォ...! カッコつけて最後にあんなこと言わなければよかった!!
こうなったら...!

「逃げるが勝ち」

はっは〜!! 悪いな! こんな危ない場所に居られるか! 俺は逃げさせてもらう!

「何処に行く気だ?」

結構な速度で逃げたつもりだったんですが、なぜか目の前には磔君がいました。

「あ、あっれれ〜? おかしいな〜...磔くん? いつの間に俺の前にいたの?」
「縮地を使った。それよりも能力の使えないお前が逃げ切れると思ってるのか?」
「......話し合いで解決しませんか?」
「ダメだ」

あ...終わった。






◇◆◇






「それで能力を奪われた後、ここの近くで捨てられた。ということね」
「は...はい...」

結局、みんなに殴られました。十発ぐらい殴られたけど気のせい? いや気のせいじゃない。なんだというんだ...主に俺が悪いんですけどね!!

「にしても...お前は何が起きても緊張感がないな」
「そんなこと言われても...」
「パルスィが心配してたわよ?」
「......それに関しては申し訳ないと思ってる」

こんなに心配をかけるんだったら最初から一人で行くんじゃなかったぜ。殴られるし...能力奪われるし...はぁぁ...俺ってば本当に不幸ね。

「それで...俺の世界はどうなってる?」
「今の所は私の力で次元の壁を復活させたわ。これで異次元からの脅威は免れてる」
「他のみんなは?」
「まだわからない。たぶん俺達みたいにニャルラトの刺客に襲われてると思う」
「刺客?」
「その刺客がこちらになりま〜す!」

俺が首を傾げるといつの間にか起きていた終作が次元の狭間から気絶している千代春と悠飛を放り出した。
こいつらが刺客? てっきりもっと異形で禍々しい敵かと思っていたが......見た目で判断しちゃダメか。こいつらを手こずらせる程の奴らだ。

「さて、これからどうする?」
「とりあえず俺はこの真上から感じる巨大な気配に特攻する予定だが、お前らはどうする?」
「私は次元の壁をもう少し補強する」
「なら私と玉木はその手伝いをするわ」
「俺は終作と一緒に他の奴らの手助けをしてくる」
「なら私も行く。パルスィが心配だもの」

磔、終作、火御利は他の異世界メンバーの救出。桜、祭、玉木は次元の壁の補強。
これなら心配しなくても大丈夫そうだな。これで心置きなく暴れられる。地上に向かう準備をするとリティアが俺のズボンを引っ張る。

「あたしお父さんと行きたい!」
「リティアはここで桜達と居てくれ。もしかしたら力になれるかもしれないから」
「わかった...じゃあ終わったら遊んでね!」
「ああ、パルスィとイラと四人でな」
「うん!」

リティアの頭を撫で、灰色の地底湖 アブホースに近づいた。

《準備は良いか...?》

その場にいた全員に声が届いたのだろう。皆が顔をキョロキョロとし、声の主を探していた。

「ああ、大丈夫だ」
「アルマ。この声は誰だ?」
「ん? この地底湖。アブホースっていうんだ」

あれ? 皆さんお顔がポカーンとしてらっしゃいますが、どうかいたしましたか? 
先に元に戻った桜が慌てた様子で質問をしてきた。

「ア、アブホースって...あの外なる神の?」
「らしいよ」
「なんでこんな地底深くにいるのよ!!」
「知らん。こいつ自身に聞いてくれ」

本当にこいつがここにいる理由なんて俺は知らない。第一に俺はストーカー被害にあってたし、外なる神とか大層な肩書きを持ってる割にやってること犯罪だからさ。
まあ、そんなことはどうでもいいんだ。さっさと行動に移さないとな。

「ほら、こんなストーカーほっといて俺らは俺らでやることがあるだろ?」
「わ、わかってるわよ...!」
「そうだな。行くぞ終作、火御利」
「俺の拒否権は?」
『ない』
「ですよね〜」

半ば強引に磔と火御利に連れてかれた終作たちを見送り、俺はアブホースに貰った力を使う。使い方知らんが適当にブワァ...ってやればできるだろ。全くもって要らぬ力だ。あっと...そうだった。

「桜。リティアを頼む」
「ええ、任せなさい。指一本も触れさせやしないわ」
「任せるぞ。んじゃ、行ってくる」

アルマはアブホースに差し出された灰色の触手の上に乗り、地上から感じる気配に視線を向けるとニヤリと笑った。
そして、アルマは地上に向けて思いっきり投げられた。









△▼△








ところ変わり、こちらは幻真と佐藤快の二人が戦う場所。相手は半神半霊の少女 魂魄妖緋。ただならぬ殺気を放ち二人と向かい合っていた。

「さて...どうやって気絶させようか」
「そもそも攻撃を全部防がれてますからね...」

先ほどから二人は妖緋に攻撃を与えてはいるのだがこの次元で随一とも言える剣術を持っている彼女は幻真の剣撃と快の拳撃をまさに言葉の通り防ぎ切っていた。
だが、防御ばかりしている妖緋も逆に攻撃を繰り出せていない。
両者の戦いは拮抗していた。しかし、戦いというのはたった一つの要因で変化するもの。それが今、妖緋に舞い降りた。

「ぐっ...! うぅう......!!」
「な、なんだ?」
「急に妖緋さんが苦しみ始めた...?」

頭を抱え痛みに耐えるように悶える妖緋。時折、目の奥で紫色の光が爛々と輝くのが見えた。

「今がチャンスか?」
「そうみたいですね。卑怯かもしれませんが...今のうちに攻撃しましょう!」

快は両手にグローブタイプの武器 イクスグローブを装備。そして、左手を後ろに右手は妖緋に向け力を溜め始める。
幻真は自分の得物である真神剣を持ち妖緋に剣先を向けた。

「行くぞ! ソードブレイブ!!」
「炎符 フレアバーナー!!」

炎、氷、雷、光、闇などの全属性を纏わせた真神剣と快の右手から力を溜めて放たれた炎の極大レーザーが今だ頭を抱え苦しむ妖緋に襲いかかった。
何処から見ても、そして誰から見ても決着は付いたように見えた。だが...近距離から攻撃をした幻真は見た。自分達の攻撃が直撃する寸前、妖緋の口から舌がベロンと出されそれが紫の炎を纏っていたのを。その舌が激しく動き、快のフレアバーナーを喰らい幻真の真神剣を受け止めたのだ。

「う、嘘...僕の攻撃が消された...?」

攻撃を消されたことに驚いている快のすぐ横に幻真は急いで退避し、それを否定した。

「ち、違う! 消されたんじゃない喰われたんだ!!」
「く、喰われた...? はっ! げ、幻真さん! 妖緋さんが居ません!!」

快が叫んだ通り、妖緋の姿は消えていた。だが、二人は感じていた。ただならぬ殺気と圧倒的な力を...!
二人は背中合わせをし、相手の背後を守るように警戒した。

「神経を研ぎ澄ませ...! 何処から来るかわからない...!!」
「わ、わかってますよ...!」

神経を必要以上に研ぎ澄ませ見えない敵からの攻撃へ身構える。
一種の硬直状態が続くと快はある方向に気配を感じ、両手をその方向に向けて力を溜めた。

「幻真さんちょっと踏ん張ってください! 大炎符 デュアルバーナー!!」

先ほどのフレアバーナーを両手から放たれた。威力は絶大に変わった。だが、威力がある分放った時の衝撃は途轍もなく後ろに吹っ飛ぶ。それを支えるように幻真も地面を踏み締めた。

「うぐぐ...! き、キツイぜ...!」
「まだ耐えてください!」

快のデュアルバーナーが放たれた方向で紫の光が輝いた。

バクン!!

そんな音が聞こえると、快のデュアルバーナーが一瞬抉れた。同時に地面にも歯型の跡が付いていた。

「おい!? 今の音はなんだ!!」
「ぼ、僕の攻撃が...喰べられた...?!」
「とても美味しい力ですね...もっと貰えないでしょうか...?」

獲物を求める獣のように爛々と眼を輝かせる妖緋は舌舐めずりをする。

「今...舌に炎が...!」
「何回か見たことあるからわかる...あれはアルマの感情解放だ...」
「感情解放...?」
「簡単に言えば...快で言う本気モードだ」
「じゃあ...強くなったってことですか!?」
「それだけで済めばいいけどな...」

暴食の炎に飲まれつつある妖緋が神勝剣・グラムを抜き、剣先から氷塊を放った。咄嗟に幻真はナイフを投げ相殺を図ったがナイフは触れた瞬間に凍りつき砕け散った。氷塊は何事もなかったかのように幻真に迫っていった。

「嘘だろ!? びくともしないのか!」
「幻真さん! 離れてください! 炎符 サモンフェニックス!!」

掌の上に気力を溜め、快は不死鳥の形を模した弾幕を妖緋に向けて放った。氷塊と不死鳥が激突すると大量の水蒸気を放って相殺した。だが、水蒸気のせいで視界が一気に悪くなってしまった。

「な、何も見えない!」
「ですが相手も状況は同じはず...慎重にいきーーーー」

そこで声は途絶えた。
幻真は快の声が途絶えたことに対し警戒が高まった。何故なら敵には自分たちの場所が把握されているからだ。全神経を集中させ幻真は構えた。
すぐ横で動く気配を感じた。

「そこか! 魔砲 ブラッドスパーク!!」

闇属性が付与されたマスタースパークのようなものを気配を感じた方へ水蒸気を晴らしながら放った。
しかし、バクン! という擬音がまた響いた。だが幻真は見た。妖緋が紫色の炎に侵食されながら自身が放ったブラッドスパークを喰らう姿を。その姿は食欲に従順な暴食の獣の姿であった。
そして、その横には快が倒れていた。

「快!!」
「うふフふ...もっとクダサい...空腹が...消えルマで...!!」

理性を失いかけている妖緋はヨロヨロと千鳥足で歩き幻真に近づく。それをチャンスと見た幻真は瞳を閉じる。
敵前で目を閉じるという余裕を見せられ本能的に屈辱を感じたのか妖緋は獣の様に両手に獲物を持って襲いかかった。
迫る妖緋に幻真は瞳を開いた。右手を横に払うと二人の間に見えない壁が現れ妖緋は衝突した。

「ぐぅ...うぅ...!!」
「ここからは本気で行くぞ!」

幻真は金色に輝く瞳で妖緋を見据えた。

「気符 超本気モード!!」

快も立ち上がり自身のリミッターを解除。全身を覆うオーラと髪がが金色へと変わる。

「食べる....食べル...タベルタベルタベル!!」

まるで駄々をこねる子供の様に叫ぶ妖緋。その体はすでに感情の炎に包まれ、完全に理性は消え去っていた。口からは舌が垂れ五芒星のマークが浮かんでいた。
感情の炎によって覆われた姿はまるで巨大なベルゼブブだった。

「完全に化け物じみたな...」
「早く決着をつけないと妖緋さんの身がもたなそうですね」
「ああ、行くぞ!」

幻真は地面を蹴り、妖緋との距離を縮めた。

「斬符 サンダーフリーズ!」

氷と雷を纏った斬撃を妖緋に与える。切られた部分が凍りつき雷が内部に浸透した。

「ぐるるぅうぅう!!!」

それでも効いてる様には見えず闇雲に当たりのものを舌で抉り始めた。それは地面だけでなく、空間すらも抉り動いていないはずが妖緋との距離が狭まれていく。

「やたらめったら喰い始めましたよ!?」
「なら...炎符 勾玉炎弾!」

妖緋の周りに赤と白の炎を纏った勾玉を大量に出現。妖緋はそれを容赦なく喰らっていくがそれが体内で破裂。体内で勾玉が火花を撒き散らした。
それには妖緋も効いた様でうめき声を上げる。立つのもままならなくなった妖緋のすぐ後ろに快が立っていた。両手に力を溜めて今まさに放とうとしていた。

「ラストワード 気符 二百連ツインパンチ!!」

快の拳が直撃。妖緋は余裕そうに立っていたがすぐに二撃目、三撃目とダメージが入りそれが二百回も続くと妖緋を覆っていた感情の炎は消え去り彼女は地面に横たわって気絶した。
刺客を倒したことの安堵感により快は地面に座り込んだ。

「か、勝てた...」
「大丈夫か快」
「ちょっとしんどいです......それにしても妖緋さんのあの姿は一体何だったのかな...?」
「あれはアルマの感情解放だと思うけど......軽く暴走してたな」

幻真と快が妖緋の暴走について考え込んでいると目の前の空間に狭間が生まれた。
そこから現れたのは磔と火御利、そして終作であった。

「幻真! 快! 無事だったか!」
「磔! それに火御利と終作も!」

再会を喜ぶ二人だが状況も状況。早速情報の交換を始めた。
刺客達の情報、次元の壁が回復したこと、アルマを見つけたこと、そして殴ったこと。
磔達から教えてもらった情報でアルマが無事なのを聞いた幻真であったが小さくため息をした。

「......なんか心配して損した」
「俺も同じ気持ちだ。会ったら一発殴っとけ」
「そうするよ。それでこれからどうする?」
「これから終作の力で他のメンバーと合流する予定だ。来るか?」
「ああ!」







△▼△






「全てを吞み込み、無に帰す暴食の封印が無くなった...あと三つ...!!」

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