東方魔人黙示録

怠惰のあるま

天邪鬼、逃走中

人里から離れ、妖怪の山の中の洞穴に隠れるように座る少女がいた。
その姿は黒髪に白と赤のメッシュが混在した頭に、小さな二本の角を持つ。瞳の色は赤色。 
服装は矢印がいくつも連なったような装飾がなされて、なぜかボロボロとなっているワンピース、腰には上下が逆さのリボンを付けている。足元は素足にサンダルを履き、右腕にのみブレスレットを付けている。 
少女の名は鬼人正邪、先の異変を起こした張本人で今も指名手配をされて追われていた。

「はぁ...はぁ...何とか逃げ切れた......」

ここに来るまで博麗の巫女や姫、草の根妖怪の奴ら、ましてやスキマ妖怪にまで襲われる始末......まさに地獄だったわ。
しかし、あたしは逃げ切ったよ!あいつらも流石に諦めたはずさ。

「さぁて...そろそろ移動するか」
「あ、いた」

びくっ!と体が勝手に反応し洞穴の奥に逃げようとしたが、すぐに手を掴まれてしまった。

「くそっ!触るな!」

思いっきり弾幕をぶつけるが手の力は緩まず、相手は平然と立っている。

「いきなり弾幕かよ」
「離せ!変態!」
「泣くぞ...流石に泣くぞ...」

そういうとあたしの手を掴んでいる男は本当に泣きそう。少し言い過ぎた...?い、いいや!急に女の手を掴む方が悪いんだ!
というか...いつまでこいつは掴んでるんだよ!

「いいから離せ!!」
「はいはい...」

パッと素直に手を離されたことに驚く。けど、こいつの姿を見てもっと驚いた。
暗い青色の髪で毛先がやや赤く染まる独特なショートカット。返り血のようなデザインがついた白いタンクトップ、頑丈に作られた武装ズボン。右肘から手にかけて鉄のガントレット。
奇抜な格好の人間に見えるが、頭からはあたしと同じように生えたツノがあった。

「あ、あんたも天邪鬼なのか...?」
「はぁぁ?俺は魔人だ、妖怪じゃねえよ」
「魔人だろうと妖怪じゃなかろうと、そのツノの生え方は絶対に天邪鬼だ!!」
「た、確かに天邪鬼の血は流れてるが...」

じゃあ、こいつはあたしの仲間?いやでも、まだ信用できない。

「あんたはあたしに何のようだ?」
「まあ、なんというか...本心を聞きに来た」
「...はぁ?」

こいつは何を言ってるんだ?本心?天邪鬼が本心を言えるわけないだろ。
素直になれないから天邪鬼なんだから...って何一人でしんみりしてるんだよ。だいたい初対面の相手に本心を聞きたい?バカじゃないのか?

「もうちょっとわかりやすく言うぞ?異変を起こした本当の理由を聞きたい、異変の元凶であるお前に、な」
「な、なぜそれを!?いや、幻想郷中に手配されてるんだ...知られて当然か。けど捕まるわけには......!!」
「待て待て!俺はそんなつもりはーーー」
「問答無用!逆符《イビルインザミラー》!」

スペルカードを使用すると男はフラフラとバランスが崩れたように地面に腰をついた。
目が回ったようにぐるぐると忙しなく動かす姿は見てて滑稽。
トドメを刺すためもう一枚のスペルカードに手が触れると、パキンッ!と割れる音が鳴る。そんな音を気にも止めず、スペルカードを発動。

「逆符《天地有用》!」

光弾が雨のように降り注ぎ、天邪鬼もどきの男に当たるはずだった。

「い、いない?」

目の前で目を回していた男の姿は無く、あたしの弾幕は誰に当たること無く降り注ぐ。
ギリリ...と歯が鳴るほどに噛み締めていると肩をトントン...と軽く叩かれ後ろを振り向けば、さっきの男が平然と立っていた。

「中々面倒な能力を持ってるな、解除させてもらったけどさ」
「な、何者だあんたは!」
「俺は桐月アルマ、ただの天邪鬼の血を受け継ぐ魔人さ」

パチンッ!という音が聞こえた後、あたしの意識は途切れた...

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