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異種恋愛

9

 あずみはケイの顔をじっと見つめる。ケイもまたあずみの顔を見つめている、優しく。
 吐息のかかる距離にも関わらず、あずみは驚きすぎて気にならない程だった。
「何にも変わらないよ」
「嘘…」
「ほんと。俺もアズが他の人と話したり、楽しそうにしたりしてるとムカつくし…オレのそばに置いときたくて仕方ない。浩輔やハイネにもそんな風に思う時がある。アズのこと考えると幸せだし、時々苦しいし、甘い気持ちになる」
「でも、ケイにはお母さんのプログラムが…」
「それは確かにそうだけど。いつからだろうな…気落ちが変わってきたのは」
 大切そうにあずみの髪の毛を撫でながらケイは言葉を続ける。
「晴香のプログラムの中じゃない気持ちが出てきて…俺、壊れたのかと思った時もあった。自分じゃこの変化の理由も、気持ちの名前も分からないから、すごく悩んだ。でもさっきアズの言ったことを考えたら、俺の気持ちも同じじゃない?…俺の中には、晴香の娘だから守っていかなくちゃって思うのと、俺自身が感じて、アズを大切にしたいって思う気持ちと両方あるんだ」
「本当?」
「こんなこと嘘ついてどうするの。アズが本当のこと言ってくれたから俺もちゃんと話したよ。……本当は言っちゃいけないことなんだろうけどね」
「なんで?」
 あずみが尋ねると、ケイは眉を顰めた。
「だって。俺はアンドロイドだから」
 その顔は悲しそうで、あずみの胸まで痛くなる。深い緑色の瞳の中に影を見た気がした。
「そんなの関係ないよ。私はそんなことでケイを好きなんじゃないし、嫌いにならないもん」
 あずみはそっとケイの頬に触れた。自分と変わらない感触と温かさににっこりほほ笑んだ。
「私にとって、ケイはケイだから」
 あずみの言葉に、ケイが少し泣きそうな顔になって、それから穏やかに笑った。
「良かった」
「何が?」
「アズに嫌われたかと思ったから。それに、ハイネにも怒られるし…」
 ケイが子供のように呟く。
「ハイネに?」
「あんたが馬鹿だからこんなことになるのよ。脳みそ取り替えてやる!…て」
 見てはいないが、あの美しくて男前な性格のアンドロイドのことを考えると容易に想像できた。
「でもまぁ、良いか」
 ケイはあずみの体を抱きしめて髪に頬を埋めながら、あずみの香りを体いっぱいに吸い込んだ。
「何がいいの?」
 あずみは髪にかかるケイの呼吸に恥ずかしいのとくすぐったいのとで、小さくもがいて離れようとしたが、ケイは優しくも強い力であずみを離さない。
「アズに嫌われてないって分かったから。それに、自分の気持ちも分かったし」
「ん…」
「あずみ?」
 珍しく、ケイがあずみと呼ぶ。それにあずみはキョトンとしてケイを見つめた。ケイはふんわりと笑い、あずみの顎にその長い指をかけ、そのまま顔を近づけてきた。
 あずみの視界にケイが溢れる。近づいてきたケイの唇があずみのそれに重なり、柔らかい感触にあずみは大きく目を見開いた。
 目を閉じたケイの顔が少しぼやけて見える。さすがにこんな近くにケイを見たことはなかった。
 睫毛の一本一本まで見える近さと、温かい唇の感触。これは家族では知りえないことだ。
 そう思うとあずみの目から涙が溢れて止まらなくなる。
 どのくらい時間がたったのか分からないけど、最後にケイは少しだけ強く唇を押し当ててあずみから離れて行った。
 そして幸せそうに眼を細めて、あずみのおでこに自分のおでこをコツンと重ねて大きく息を吐いた。
「これって、家族じゃしないだろ?オレは、あずみが好きだよ。ちゃんと、好きだから」
「ケイ…」
「何?」
 あずみは体を捻ってケイに抱き着いた。言葉にはできない思いがあずみの中に渦巻いて、こうするしかなかった。
 もう心の片隅から聞こえていた嘲笑も聞こえない。あずみの中でケイが満ちていく。
 ケイは、自分よりずっと小さなあずみの体を壊してしまわないように、優しく抱きしめた。
 

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