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異種恋愛

7

 あずみはケイのことに対する気持ちを、ゆっくり言葉を選びながら話した。
 ケイのことが、いつの間にか家族じゃなくなって、自分でもどうしたら良いのか分からなくて。
 それでもケイが好きで、でも自分は人間で、ケイはアンドロイドで。
 ケイに今までみたいにしてもらいたい。だけどそれが悲しくて仕方がない自分がいる。ケイの特別になりたい。
 母の作り上げた愛情じゃなくてケイの愛情がほしい。
 そんな心情を、ハイネは黙って聞いていた。
 全て話終わるとあずみは息を吐き出した。
「そっかぁ、ケイをねぇ…あんたったら…」
 そこでハイネは言葉を切り、いきなりあずみを抱き締めた。
「ちょっと、ハイネ?」
 驚いてあずみはハイネの腕の中でもがくが、ハイネはあずみを離そうとしない。
「ハイネ…」
 あずみの言葉が途切れる。ハイネの体が震えていたからだ。抱き締めるハイネの顔は見えないけど、泣いてることは分かった。
「あずみ、ありがとうね」
「……ありがとう?」
「ケイを好きになってくれて、ありがとう。アンドロイドを、好きになってくれてすごく嬉しい」
 ハイネの声が自分の中に降っていく。ハイネの涙があずみの肩を濡らす。温かな涙は人間のものと何ら変わりない。あずみは言葉に詰まって何も言えなくなってしまった。
 それに、ありがとうなんて言われること自体、想像もしてなかった。
 不思議で、それと同時に、救われたような気がした。ケイのことを好きな自分が、どこかおかしいのかとすら悩んだ時期もあった。なのに、そんなあずみにハイネは泣いてくれて、感謝の言葉まで…。
「やっぱり、晴香に似てるね」
 ハイネは涙を拭きながらあずみに笑いかける。
「あ母さんに?」
「そうよ。晴香は誰よりもアンドロイドを愛してくれていたのよ。作る過程も本当に楽しそうだったって浩輔が言ってた。それに私たちのことを機械じゃなくて子供だって言ってくれてたの」
「子供?」
「世の中に私たちのようなのがたくさん増えたけど、人間との関係はどうしても、使う側と使われる側でしかないのよね。あ、愛玩型は少し違うかもしれないけど。だから晴香が言ってたたくさんの言葉は私の中でずっと励みになってるわ」
 あずみは小さい頃の記憶を呼び起こす。何回も母の仕事を見たことがあった。いつも母は笑顔で完成されていくアンドロイドたちを眺めて、お客様の元に出荷される時にはまだ冷たい体を抱きしめて見送った。ケイのことも、「あずみのために作ってるの」と、いつも話してくれていた。今日は何をしたとか、ここまでできるようになっとか、ハイネが言うように、試験段階のケイのことを楽しそうに笑って話していた。
 ケイは、登録上はカタカナで「ケイ」と表記するが、母曰く、恵みの「恵」、よろこぶの「慶」、繋ぐ意味の「繋」に兄の「兄」、憩いの「憩」、敬うの「敬」。そんな意味があると言う。
 ケイに限らず、自分の手で生まれたアンドロイドはすべて名前を付けて愛していた母の顔が脳裏に浮かぶ。勿論、他のスタッフが作った者たちも含めて晴香は愛していた。ハイネはケイよりも早くに本格的に起動していたので、そんな晴香の姿を間近で見ていたのだ。
 そのせいだろうか、あずみがどのアンドロイドたちにも親しみを持つのは。
「本当に、親子で嬉しいことしてくれるじゃない」
 ハイネは先ほど泣いたことが恥ずかしいのか、少し乱暴にあずみの頭を撫でまわした。
「私は、言えば良いと思うよ」
「え?」
 あずみの目を見て、ハイネはその綺麗な顔に笑みを浮かべた。
「確かに、ケイは晴香のプログラムで構成されてるけど…自分の感情だってあるんだから。私たちだって成長してしてるの。浩輔も私によく言うわ、「お前はどんどん変わる」って。そりゃ毎日生活してればいろんなものを見て吸収するし、そのための人工知能じゃない」
 自分の頭をトントンと指で示して、「ナメてもらっては困る」と意地悪っぽく笑った。
「でも、言ってもし嫌われたら?」
「そんなことあるわけないじゃない。あんたケイを信用してないの?」
「信用はしてる…でも怖いよ」
 膝の上で両方の手をギュッと握ってあずみはまた俯いた。
「もしよ、万が一、ケイがあずみを泣かせたら…っていうか今も泣かせてるんだけど。あずみの気持ちをないがしろにしたらその時は、私が怒ってあげる。あずみが望むなら壊してやってもいいわよ」
「そ、そんな…壊してほしくない」
 ハイネの何やら本気を含ませた言い方に、あずみは慌てて首を振った。それを見てハイネは笑いだした。
「冗談よ。でも、これからいうことは冗談じゃないからよく聞いて」
 不意に真剣な声になってハイネはあずみに言う。
「ホントに、ありがとう。あずみの気持ちに私は今日すごく幸せよ。…それと、誰かを好きになってしまうのって、止められないと思わない?」
「止められない…」
「そう。世の中には妻子ある人を好きになってしまったり、同性だったり。他にもいろんな条件があったりするでしょ。でもだからって諦めることが出来なくて悩むんじゃないのかな。道徳とかきれいごと並べてもいざ好きになったら、はいそうですかって簡単にはいかないのは、自分じゃどうしようもないからじゃない。それに決着をつけるには、一歩踏み出すしかないって、私は思うワケ」
「踏み出すって、ケイに気持ちを言うってこと?」
「今のあずみにはそれが最善かと。……このままでケイに笑える?」
 そんなこと、無理だ。
 言葉にはしないけど、あずみは体で答えを現していた。
「じゃあ、頑張りなさい。あ、その前に」
 ハイネはテーブルの上のトレイをあずみの前に差し出してにっこり笑う。
「これは命令。食べなさい。食べないと前向きになんてなれないわよ。それに、もったいない」
 母がよく言っていた言葉をハイネは言う。偶然なのか、知っていたのかは分からないけど、あずみはその言葉に驚きつつも笑った。
「あら、目さえ晴れてなかったら可愛い顔なのに」
 憎まれ口をたたきハイネが大輪の花のような笑顔を見せた。それにつられてあずみの笑顔も深くなる。
「分かった。ハイネ、ありがとう」
「良いわよ、あずみとこんな話するのもたまには良いものね」
 ハイネが、もう一度、あずみの頭を撫でる。その手にあずみはくすぐったそうに肩をすくめた。





 

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