異種恋愛

3

 朝方、あずみは目を覚ました。
 目を覚ましたというよりは、何度も短い睡眠を繰り返した結果、また目が覚めたというだけのことだけど。
 昨日飲んだお酒のせいか、喉が乾く。ノロノロとした動きでベッドから這い出して下に降りた。
 底冷えするような寒さに身を震わせて、あずみはキッチンに向かった。
 冷蔵庫を開けて最初に目に入ったのは、肉じゃが。
 お皿に盛り付けられたそれは、ケイがあずみのために作った昨夜の晩御飯だ。
 ケイには、母のレシピが組み込まれている。
 もちろんケイは学習することができるので、あずみのために覚えたこともたくさんあるが、料理に関しては母の味が多い。死んでもなお、母の味が食べられるのはとても幸せなことだと思っている。
 この肉じゃがも、母がケイに組み込んだレシピの一つだった。
 あずみはそのまま冷蔵庫を閉じた。そしてケイの部屋に向かう。
 一階の一番奥にケイの部屋はある。部屋といっても本当に小さなもので、そこには座り心地の良い大きな椅子しかない。
 静かにドアを開けると、毛布にくるまり椅子に座るケイがいた。
 長い足を投げ出し、深く座っている。顔は少しうつむき、閉ざされている目の、長いまつげがよく見えた。
 アンドロイドは基本的に見目麗しい容姿で作られている。それに職業向けのものは男女問わず長身傾向で、その職業に応じて体格も様々だ。
 反対に、最近流通してきた愛玩型は小柄でかわいらしい要素が多い。
 ケイは元々職業型として設計されていたらしく、長身で細身だけどしっかりとした体型をしている。
 顔は母の好みだったのかは分からないが、アンドロイドの中でもきれいな方だ。
 背の低いのが悩みのあずみには全くもってうらやましい体型だった。
 あずみはケイの顔をのぞきこんだ。作られた顔だと分かっていても、きめ細かい肌と整った顔に思わず見とれる。息のかかりそうなほどの距離にも、ケイは反応しない。
 それもその筈、ケイはシャットダウンしているのだから。
 一日に数時間、人間で言う睡眠に当たる行為らしい。2~3時間程度、アンドロイドは自ら活動を停止する。最低限の機能だけを保ち、体内の負荷を軽減するための行為だった。もちろん、何かあれば再起動は一瞬でできるからあずみは安心して眠ることができている。
 本当にきれいな顔…。
 そっと、ケイの顔に手で触れてみた。柔らかくて、温かい。ずっと触っていたくなる感触に、あずみの顔が思わずほころんだ。
 それと同時に、切なくなる。
 ケイのことが家族ではなくなった自分の感情に、切なくて、嫌になる。
 あんなに楽しかったのに、気持ちに気づいた途端楽しくないことが増えた。
 ケイのやることに、悲しいときが増えた。
 でもそんなことを態度に出したことはなかったのに…。
 ……昨日のことは、私が悪い。
「ケイ、ごめんなさい」
 しんとした部屋にあずみの声が溶けていく。
 あずみは、いつもケイがしてくるように、動かないケイを抱き締めて髪にキスをした。
 ケイの髪は、あずみの天然のウェーブのかかったそれとは違ってサラサラとしている。
 なんか、久しぶりに触った気がする。
 気持ちを自覚してからは、あずみから触ることはなくなっていた。ケイのそばにいるだけで、ドキドキしてしまうのに、触れることなんてできるはずもなかった。
 それがなんだかおかしく思えて笑ってしまう。
 私、何やってるんだろう?
 あずみは無意識ながら、名残惜しそうにケイから離れ部屋を後にした。
 その数分後、ケイは起動した。

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