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白と蒼の炎

蒼の炎

「アオ!」
 ルカの呼び止めも聞かず、アオは銀に向かっていく。
 傷ついた体の、蒼と赤のコントラストが妙に綺麗に見えた。
 ルカは思わず追いかけようとしてハクに止められた。大きな体で行く手を遮るように立ちはだかるハクを、ルカは必死で押しのけようとしたがビクともしない。
「ハク!なんでアオを止めないの!?」
 ルカの涙交じりの声にハクは静かに答える。
『我はアオに巫女を頼むといわれた』
「でもアオが死んじゃう。ハクにも分かるでしょ?銀は他の鬼とは違う」
『分かっている。だが我にはどうしようも出来ぬ。アオの決めたことなら』
 ハクの声はとても静かだった。でも、金色の瞳が少し悲しそうに見えた。
「どこまでも邪魔な獣め」
 銀は再び刀を抜く。両手で構え、間を読み取るとアオに向けて斬り込んだ。
 空を斬る音が轟音のように聞こえ、ルカは思わず目を閉じた。
 アオはギリギリの所で銀の刃をかわした。一瞬でも見誤れば貫かれていただろう。
「その傷でそれほど動けるのは褒めてやろう。さすがは獣だな…」
 面白そうに笑う銀は楽しんでいるようにも見えた。
『我は巫女のための存在だ。お前は巫女にとって負にしかならない。ならば我がなすべきことは一つしかない』
 大きく息を繰り返すアオの体力はもう限界なのだろう。体から悲鳴が聞こえてきそうだ。
「アオ…もういいよ。私のことはもういいから」
 嗚咽と共に吐き出されたルカの言葉はアオに届かない。もはやアオは周りの様子に神経を注げない状態だった。
 ただ一人の大切な巫女を守る、そのことだけがアオを立たせているだけだ。
 銀とアオはお互いに攻撃を繰り出すが、どちらも引かず紙一重の所で決まらない。
 銀は正直アオに驚いていた。血にまみれたこの獣を甘く見ていたと。
 そして、人間の姿のアオ、麻貴を思い出す。
 たった一年しか知らないが、麻貴はいつもルカを守っていた。夜遅くなったときは迎えに行き、雨が降れば傘を差し、車が通ればさりげなくかばう、喫茶店の前をルカと二人で歩いていたのを何度も見て来た。
 今も、ルカのために自分に立ち向かってくる姿はそれらと何も変わらない。
「姿は違えど、最初からお前は守り手だったのだな」
『当然だ。我はそのためにいる』
「だが、もうお前に我を食うことは無理であろう?立っていることも辛そうではないか。そろそろ諦めてこの刀で斬られてみろ。楽になるぞ…」
 切っ先をアオに向けて、銀は諭すように語り掛けた。
 一筋の髪の毛すら乱れていない銀と、満身創痍のアオ…一目瞭然の差。 
 ハクは、その姿を黙って見ていた。
 ハクとアオは一つの細胞を分け合った双子のようなものだ。遺伝子に刻み込まれた使命を果たすために生まれて来る。
 アオはハクに比べて体力が高く戦闘能力も高い。体も少しだがハクより大きい。万が一の時、アオは先頭を切って挑んでいくのを役割としてとらえていた。
 だから銀に向かっていったことも、ハクもアオも当然のことだと思っている。
「さぁそろそろ終わりにしよう。まだ一匹邪魔物がおるからな」
 地を這うような、低く艶めいた声で言った銀の瞳が光り、身の回りに風を纏う。銀色の豊かな髪の毛がふわりと舞い上がり、そのきれいな体を彩った。
 アオは牙をむき出しにして飛びかかろうと低い体勢を取る。その身体が蒼く発火した。
「ア、オ…?」
 ルカはハクを押し退けるのも忘れ、その姿に目を奪われた
 静かな炎。
 激しい炎。
 美しい炎。
 穏やかな炎。
 深い炎。
 淡い炎。
 どの言葉にも当てはまるような、不思議な、初めて見るそれはアオを飲み込み大きくなる。
 銀は眉一つ動かさずアオを睨み、刀を振るった。同時にアオも飛びかかる。
 瞬間、ルカはアオの行動に目を疑った。
 明らかにアオは刀を避けずに銀に飛び込んだ。
「アオ!」
 ルカの叫び声があたりに響く。ルカの目の前でアオは体を貫かれ宙に浮いている。
 銀はアオの巨体を刀に刺したまま悠然と立っていた。
 返り血を浴びた銀の姿はより美しさを増す。その顔は残忍に優しく微笑んでいた。
「お役目ご苦労だったな、可愛い獣よ」
 かろうじて息をしているアオに向かって、温かさすら感じさせる口調で銀は話しかける。
 アオは言葉を発することはなくうっすらと目を開け、笑った。
 虎のアオにそんな表情が出来るはずはないのだが、それでもルカも銀も、ハクも、アオが笑ったと思った。
 そしてアオを包んでいた炎が銀を飲み込んだ。



 

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