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白と蒼の炎

守り手

 ルカの目の前で、二頭の虎が自分を守ろうとしてくれている。
 それは限界まで引き裂かれたルカの心にどんなに頼もしく見えたか。
「何を笑っておるのだ?」
 創が怪訝そうに眉をしかめた。
 その言葉に、ルカは初めて自分が笑っていたことに気づく。先ほどまで頬を流れていた涙は止まり、口元に柔らかい笑みが浮かんでいる。
 この美しい、自分を守ってくれる者たちの姿が心強いせいか。
 一方創はハクとアオを忌々しげに見る。
「我の邪魔をすることなど、誰にも出来ぬ。巫女は必要だが、お前たちに用はない」
 一瞬強い風が吹いた、すると創の後ろの地面が轟音と共に盛り上がり、中から何かが出てきた。
 血管の浮き出た大きな体、ぎらつく目には本能をみなぎらせ、だらしなく開いた口から覗くのは牙と赤い舌。
 醜悪な姿の鬼たちは瞬く間に増えた。
 中には少しばかり人間に近い姿の鬼もいる、それらは剣や斧など武器を持って不気味に笑っていた。
「なに、なにが起こったの?」
 ルカは息を呑みその光景に見入る。
『鬼だ』
『それも下等で下劣な』
 ハクとアオは前を見据えて言う。
「その通りだ。これらにまともな知能などない。言葉もなく、ただ食らうことだけを目的とする。こんな姿の鬼しか…もはやおらぬ」
 苦々しく吐き捨てた創は、突然思い出したかのように笑んだ。
「そうだ。言い忘れておったが、我の名は創ではない、あれはお前に近づくための姿の名だ。我の名はしろがね。夫の名前くらいは覚えておいてもらおうか」
 口の端を上げ笑う姿に、ルカはくっと唇を噛み締め睨み付けた。
「ハク、アオ…一緒に帰ろうね」
 小さな声で言うとハクもアオも尻尾でルカの手をひょいと撫でた。それが返事かのように。



 鬼たちが一斉にこちらに走り出す。
 土煙を纏い、怒号を響かせながら押し寄せる様は、ルカの夢のなかと同じ光景だった。
 夢のなかのルカはなすすべもなくそれを見ているだけだった。
 しかし今は違う。
 目の前に立ちふさがるハクとアオがいた。
 二頭は同時に走り出すと向かってくる鬼のなかに飛び込んだ。
 大きくて、しなやかな身体は跳びはね宙を舞う。爪で鬼の強靭な身体を裂き、牙でその喉を掻き切る。
 血が飛び散り、肉が裂け目玉がとび、内臓が噴き出す。
 断末魔のような鬼たちの声がルカの鼓膜を震わせる。
 二頭の美しい毛並みも、自ら負った傷の血と、帰り血のせいで鮮烈な赤に染まった。
 どちらの血か分からない多量のそれを振り払うこともなく、ただひたすら虎たちは立ち向かう。
 はねのけられ、地面に打ち付けられても立ち上がり、再び牙を剥く。
 剣で斬りつけられても、真っ向から臨んでいく。
 数で勝ろうとする鬼たちと、たった二頭しかいないハクたちの力は拮抗していた。
 ルカはその様子を眺め徐々に不安になる。
 人間の姿から虎になって、生きてはいるけども、ではこの姿で死んでしまったら?
 もう次はない。
 織と麻貴が死んでしまう。
 そう思うといてもたってもいられなくなり、前へ出ようとした瞬間、
『巫女よ、心配入らぬ』
 アオの声が脳に響いた。
「え…」
『我らは巫女の憂いは必ず払う。もしそれで命がなくなろうともそれは本望』
「何言ってるの…?」
『我らは巫女のための存在だ。巫女の憂いに比べたら死ぬことなど恐れるに足りぬ』
 ハクもアオに同調するかのように声を響かせる。
「そんなことダメ…。ハクもアオも…織も麻貴ちゃんも生きてなきゃ許さない…」
 ルカの掠れた、懇願とも言うべき言葉。
 ハクとアオはそれに対して変事はしなかった。
 その代わり、空に轟くほど大きく吠えた。

 
 

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