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白と蒼の炎

冥界

 部屋の中は静寂に包まれていた。
 誰もが息を呑み動けない。
 美しい紋様、神々しく輝く髪、涙に濡れた虹色の瞳。人間の枠を超えた存在となった幼馴染に、織と麻貴はすっかり取り込まれてしまった。



 どのくらい時間がたったのか、不意に部屋の空気が変わった。
 身を震わせるほどのおぞましさを持った空気は、次第に濃くなり霧が立ち込めるように三人の視界を奪った。
「ルカ!」
 織と麻貴、二人同時にルカのいた方向に手を伸ばす。ルカもまた二人の名前を呼び手を伸ばした。
 織がルカを抱きしめ、さらにその上から麻貴が二人を守るように覆いかぶさった。
 やがて、目を閉じていても突き刺さる程の閃光を感じた。閃光は数十秒か続き消えていった。まぶたの裏がちかちかと瞬いている。
 何の気配も感じなくなった時、
 「いつみても、我が花嫁は美しい」
 低い声が鼓膜に響く。ルカは驚いて目を開いた。
 しかし、閃光の名残か視界はぼやけてうまくものを見ることは出来ない。
 織と麻貴も同様らしく目を眇めて辺りを確認している。
 次第に視界がはっきりしてくる、目に映ったものは果てしない荒野とくすんだ色の空だった。
 草木一つない岩が大小点在する大地、灰色と黒とに覆われた日差しのない空。混沌とした空気。
 すべてのものが退廃的だ。
 そんな中で、一際美しい姿の創がいた。
 赤く妖艶な瞳を楽しげに細め、口元は優雅に弧を描く。
 豊かな銀髪と高貴な装束は、この世界に似つかわしくないことこの上ない。
「花嫁衣裳は気に入ってもらえたか?」
 ルカは投げかれられた言葉にとっさに自分体を見た。
 先ほどまで下着だけだったはずの体は、滑らかで手触りの良い白い装束を纏っていた。
 控えめな金と銀色の装飾が施されたそれは薄く、胸も下半身も、紋様すら透けて見える。
「せっかくの美しい紋様を隠してしまうのはもったいないからな」
 そう言って創は上から下まで舐めるようにルカを見た。
 それから織と麻貴に視線を投げ、見下すように鼻で笑う。
「お前たちまで来るとは…我も長い時間このような場所にいた為に鈍ったか?まぁよいわ。人間などここいれば捨て置くだけで朽ち果てる」
 喉の奥で笑いながらルカに近づき、その頬を長い指ですうっと撫でた。
 冷たい指にルカは全身総毛立つ。じっと目を覗き込まれ叫びだしそうなほど恐怖を感じた。
「それにしても心配したぞ。お前は生まれた時は普通の人間と変わらなかったからな。巫女なのか信じることが出来なかった。それに、なかなか覚醒せず…あまりにも長き時間の中で本当に巫女の血が絶えたのかと思ったが…」
 創の指は頬から耳朶、そのまま首に下がり、ルカの綺麗な鎖骨をなぞる。そして再び指は這い上がり恐怖に震える唇をなぞった。
「こうして覚醒してくれたことに感謝せねばなるまいな」
 心底楽しそうに、創はルカの耳元へ吐息ごと流し込むように囁いた。
「!!」
 ルカは慌てて身を引き座り込んでいる織と麻貴に寄り添う。二人は意識はあるもののぐったりとしていて今にも地面に倒れそうだった。
「織と麻貴ちゃんに何したの!?」
「我は何もしてはおらぬ。ここは冥界、生身の人間の来る世界ではない。すべての精気は吸い取られ死に至る…ただそれだけのこと」
 言うが早いか、創はルカの腕を取り自分の胸の引き込んだ。
 赤い瞳に自分の姿が移りこむほど近く迫られる。ルカは離れようと暴れたが創の腕は腰に巻きつきビクともしない。
「何するの!!」
 恐怖でろくな文句も出てこない、余裕の顔で自分を見つめる創にルカは泣き出したい気持ちだった。
「こんな聞き分けのない巫女は初めてではないのか?やはり時の流れで巫女も変化するのか」
 クスクスと笑い、創はルカの足がつかないように少し高く抱き上げた。
 ルカの視界の端には織と麻貴が映る、二人は倒れこみ虫の息になっているのが見て取れた。
「やだ!織!麻貴ちゃん!!」
 ルカの虹色の目から大粒の涙が流れる。必死で創から逃れようとしてますます暴れた。
「やれやれ、我が花嫁はなんと勇ましい。少しおとなしくしてもらおうぞ」
 創はそう言って自らの指先を噛み血を滲ませる、そしてそれをルカの口に押し当てようとした。
「我の血が体内に入れば、我の意のままになる。我はもう少しおとなしい女子のほうが好みでな」
 ニィッと笑った顔は残忍な表情に見えた。口調は優しくともやはりルカにとっては敵。
 ルカの知る創とは程遠いものなのだと思い知る。
 その時、事切れる寸前の織と麻貴の体から光が放たれた。
 一瞬創の力が弱まり、ルカは腕からすり抜けた。
 慌てて視線を二人に戻すと、そこには大きな二頭の虎がいた。

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