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白と蒼の炎

変化する巫女

 ルカは考えていた。
 自分の身におきたことをまとめようとして、懸命に考えたが、答えは出ない。
 当たり前だ。誰も経験したこともなければ話を聞いたこともない。
 巫女?
 鬼?
 何かの映画かゲームの中にでも出て来そうな単語に、現実感の欠片もない。
 しかし、確実に変化は起きている。
 ルカの背中にはうっすらと幾何学模様が浮かび上がっているのだ。
 それは織の部屋で不思議な体験をした翌日から始まった。
 お風呂上がりに背中の異変に気づいて鏡を見たルカは、驚きのあまり卒倒しそうになった。
 赤の紋様は痛みもなく、ただ白く滑らかなルカの肌を這うように広がっていく。
 日が過ぎるごとに紋様は広がり、色は濃さを増した。
 5日たった今夜はとうとう腹部にまで回ってきた。二の腕にも差し掛かり、うなじや尻の双丘にまで。
 この事は織や麻貴には言ってない。どう説明していいのかも悩むし何よりルカがこの事実を受け止められないでいるからだ。
 不思議な夢を見ていた麻貴もそれ以上のことは分からず、織にも何か変化があった訳ではない。
 だが、不思議にも、夢は見なくなった。それだけでもルカにとってはありがたかった。
 そして、創はあれっきり姿を見ない。
 喫茶店があった場所は更地になっており、周りの人たちは創を知らないと言った。
 最初からそんな人物はいなかったことになっているのだ。
 あまりにも周りが創を知らないと言うので、ルカは自分が記憶違いをしているのではないかと思うほどだが、体に起こっているこれはどうすれば説明がつくのだ?
 いや、そもそも説明のつかないことばかりなのだけれど…。
「よし」
 ルカは勢いよく立ち上がり家を出た。行き先は隣の織の家だ。
 勝手知ったるなんとかで、玄関を明けそのまま織の部屋まで階段をかけ上がる。
 そしてノックもせずドアを開けた。
 そんな突然の不躾な訪問に、織は目を見開き固まった。
 この前、ベランダを飛び越えて部屋に入った自分を睨み付けたのはどこの誰だ?この登場の仕方の方がよっぽどひどくないか?
「お前なぁ、ちょっとは考えろよ。俺にだってプライバシー位はあるぞ」
 メガネのブリッジを上げながら織はルカを睨んだ。
「ごめん。勢い余っちゃった」
「そんなもん余らすな。で、何だ?真剣な顔して」
「ん…今日麻貴ちゃんもいる?」
「麻貴?いるんじゃないか?夕方から作業してるはずだけど」
 織が答えるや否や、ルカは織を引きずるようにして麻貴の部屋に向かった。
 そしてまたそのまま部屋のドアを開けた。
 ドアの開く音に、作業していた麻貴は驚いて振り返る。でもルカを見つけるとふんわりと微笑んだ。
「ルカかぁ。びっくりしたよ。開けてもいいけどせめて声をかけながら開けて欲しいな」
 ノックじゃなくて声をかけながらなら突然開けてもいいのか?
 織には時々この穏やかで天然な兄が理解できない。
「ごめんね麻貴ちゃん。忙しいのに。ちょっと二人に見てもらいたいものがあるの」
「見てもらいたいもの?いいよ。じゃあそんなとこに立ってないで入っておいで」
 麻貴はパソコンの前から立ち上がり二人を部屋に招き入れた。
 織は床に座り、麻貴は再びパソコン前の椅子に座った。 二人とも何事かとルカを見つめる。ルカはそんな二人の前で背を向けおもむろに着ていた服を脱ぎ出した。
「お、おいっ!!何やってんだ!!」
「ルカ!?」
 織は思わず声を荒げ、普段滅多なことでは動じない麻貴も慌てて立ち上がった。
 しかし夏で薄着のルカはあっという間に服を脱ぎ捨て下着姿になった。
「これ見て」
 織も麻貴も、幼馴染みの度肝を抜く行動に、恥ずかしいやら驚愕するやらで俯いたまま身動きできない。
「ちょっと、恥ずかしいのは私も一緒なの!だからさっさと見て!」
 真っ赤になりながら叫ぶルカの声に二人は戸惑いながらも顔をあげ、そして息を飲んだ。
 うなじから尻の双丘にまで及ぶ赤い紋様は、ルカの美しい体を更に際立たせるように刻まれている。
 先日見たルカの体には紋様はなかったはずなのに。そう二人は思った。
「なん、だ…これ」
「夢と同じだ…」
 そしてさらに驚くことが起きる。
 二人の目の前で、紋様が広がっていく。二の腕から前腕、大腿部へ、脹脛へと。
 ルカもまた自分の胸元を見下ろして絶句する。音も痛みもなくそれは広がっていく。
 真紅の紋様は瞬く間にルカの顔以外の場所に広がってしまった。
 さらに変化は止まらない。次に変わり始めたのは髪の毛。
 根元からじわじわと輝く金色に変わっていく。絹糸のようなそれは滑らかに靡き、腰までしかなかった長さも床に届きそうなほどに伸びた。
 織も麻貴も、ただ呆然とするしかない。まるで目の前でマジックでも見ているような感覚に陥る。
 また、自分の体の変化にルカは意識が飛びそうなほど驚愕した。目に映る体は本当に自分のモノなのか?現実感などない。
 腕を動かしてみる。もちろんルカの脳と直結している腕は易々と動いた。
 ざわざわとルカは恐怖に襲われる、こんな姿になってしまってはそれも当たり前なのだが。
 そして、恐る恐る振り返り二人を見た。
「織…麻貴ちゃん…これ、何なのぉ…」
 涙をためたルカの瞳は、何色とも表現しがたい美しい虹色になっていた。




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