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白と蒼の炎

穏やかな日常2

 学校からの帰り道、ルカは一人で自宅に向かって歩いていた。
 部活に入っている織とは別々に帰ってくることが多い。小さいころから足の速かった織は陸上部に所属している。ルカには走る事に対してああも頑張れる気持ちが理解できないが、走っている織は結構カッコいいと思っている。
「ルカちゃん」
 ぼんやりと携帯を弄りながら歩いていると、声をかけられた。見ると、少し離れた前方にはにこやかに手を振る人がいる。
はじめさん」
 創と呼ばれた男はルカを手招きしてさらににこやかに笑った。
 加賀美創かがみはじめはルカと織の家の近所で喫茶店を営んでいる。ここ一年ほど前に引っ越してきた人物で、自称30歳だがもっと若く見えた。そんな創を、ルカは明るくて気さくなお兄さんとして認識していた。
「ぼんやりしてたら転ぶよ」
「そんな子供じゃないもん。創さんはお店の前で何してるの?」
「ルカちゃんがそろそろ帰って来るかなと思って待ってた」
「私?」
「そ。オレはルカちゃんのこと好きだから」
 爽やかな笑顔で言われたけれど、爽やかさも度が過ぎると胡散臭くなるんだとルカは思った。
「はいはい。ほんと、創さんって何考えてるか分からない」
「えー?そんなことないよ。オレほんとにルカちゃん好きなのに」
「創さんくらいカッコよければこんな子供からかわなくてもいくらでも女の人寄って来るでしょ?」 
 創はとても綺麗な顔立ちをしている。なぜこんな住宅街で喫茶店なんかをしているのか不思議なほどだ。背も高く、バランスのいい体つきはモデルでも出来そうな。この近所の奥様たちに人気があるのも頷ける。
「こんなしがない喫茶店にお嫁に来てくれる女の子なんていないよ。それより、お茶していかない?」
 店のドアを開けながら創は言う。
「おいしいおやつある?」
「あるよ、俺が作ったパイで良いなら」
「創さんのパイ好き!」
「じゃあ決まりね。どうぞ」
 創と二人で店に入ろうとした時、再び誰かに声をかけられた。
「あ、麻貴ちゃん」
 振り返ると、紙袋を手にした麻貴がいた。
「何してるの?」
 穏やかな目は、本当に織と兄弟なのかと思ってしまうほど似てない。でも、織も麻貴も、創に負けてない綺麗な顔立ちだ。
「お茶しようと思って」
「お茶、ね」
 そう言って麻貴は創を見た。
「こんにちは、麻貴くんもどう?」
 創は変わらずにこやかな笑顔で麻貴に問いかける。しかし麻貴は笑顔ではあるけども何となく冷たい目で創を見ている。
「ルカ、遅くなるといけないから一緒に帰らないか?」
「え?まだ大丈夫だよ。うちのお母さん今日少し遅くなるって言ってたし。それに創さんのパイ食べたいもん」
「心配なら、麻貴くんも一緒にお茶して行けば?」
 創に言われて麻貴は少し考えたが、同意してルカと共に店に入った。
 店の中はシンプルな黒と白でまとめられた空間。夕方で、常連の奥様たちはそれぞれの家庭に帰り、静かで落ち着いた空気になっている。
 創は慣れた手つきでコーヒーを準備していく。ルカと麻貴はカウンターに座りそれを眺めていた。
「もうすぐテストだろ?勉強してるか?」
 麻貴にそう言われて、ルカは朝のことを思い出してため息をついた。
「織の機嫌を損ねちゃった。今回はだめかも」
「織の機嫌?あいつの機嫌なんかいつでもすぐ悪くなるじゃないか」
「そうかもしれないけど…でもこのテスト前に損ねさせたのは失敗だったよ」
 カウンターに顔を突っ伏したルカの頭を、麻貴はくしゃくしゃっとしてクスクス笑った。
「じゃあオレが教えてあげるよ。まだ高校生の教科書くらいなら理解できるはずだし」
「ほんとっ!?……あ、でも麻貴ちゃん忙しいでしょ?」
「今はそんなに忙しくないよ。ルカの理数系の成績はほっとくと壊滅的だからな。何とかしないとおばさんたちが倒れてしまう」
「言い返せないのが恥ずかしいです…」
「でも、なんだかんだで織が教えてくれると思うけど」
「え?」
「織はルカの成績を上げることに情熱燃やしてるから」
 目元を楽しげに細めて麻貴は笑った。
「ほんと、ルカちゃんと織くんは仲良しだよね」
 コーヒーとパイを差し出しながら創が会話に混ざる。
「そりゃまぁ、幼馴染だし」
 ルカは早速創お手製のパイを頬張った。肉厚のりんごの甘味と酸味が口いっぱいに広がる。
「おいひい」
 もごもごと口の中で言ったルカに対して、大人二人は呆れながらも優しい笑顔を見せる。
「ありがとう。ルカちゃんに褒めてもらうのが一番嬉しいな。それにしても、ルカちゃんと織くんはほんとに幼馴染なだけ?」
 意味深な色を瞳に浮かべ創はルカを見つめる。
「ん?そうだけど…なんで?」
 キョトンとするルカをよそに創はただ笑って首を振るだけだった。
 その様子を黙って見ていた麻貴は、ルカの口元についたパイの欠片をそっと拭って笑う。
「ルカはまだまだそんなこと分からなくていいよ。それよりも来月誕生日だろ?なんか欲しいものある?」
 ルカは来月18歳になる。そしてその数日前には織の誕生日もある。だから毎年ルカと織の誕生日は二つの家族で一緒にするのが小さい時からのイベントだった。
「欲しいもの?そうだなぁ」
 ふと、頭に浮かんだのは夢のこと。あの妙な夢を見るようになってからあまり眠れない。
「あ、枕!」
「まくら?」
 いつも落ち着いて穏やかな麻貴にしては珍しく素っ頓狂な声を出した。
「うん。最近あんまり眠れないから、眠れる枕が欲しい」
「枕で眠れるようになるかは分からないけど…良いものがあるか探しておこう」
「可愛いのにしてね」
「はいはい」
 もうすぐ18歳とは思えない幼い笑顔のルカに、麻貴はクスクス笑いながらコーヒーを飲んだ。
「眠れないって、なんで?」
 創は閉店の準備しながらルカに聞く。それに対してルカはあいまいに「夢見が悪くて」とだけ答えた。
「なんか悩み事とかあるの?オレでよかったら話してよ。これでも伊達に30年生きてないし」
 そう創はにこっと笑ってルカに言った。しかしその瞳はなんとなくだが、笑っていないように麻貴は感じた。
 それから、一時間ほど創の店で過ごした二人は並んで家に向かう。
「創さんのパイおいしかったなぁ」
 お腹をポンポンと叩きルカは満足げに笑った。
「晩御飯食べれるのか?」
「その辺は大丈夫。まだまだ余裕ですから」
「はは。ルカは元気だな」
 夕焼けに染まるルカの顔を麻貴は優しく見つめる。ルカの栗色の髪の毛が夕日にキラキラと輝いているのが綺麗だった。
 子供のころはやんちゃで、ルカと織、どちらが男の子なんだと周りの大人たちはため息をついていたけど、今ではどこから見ても綺麗な女の子になった。
 まぁ、性格は基本的には変わっていないけど、それでも黙って立っていればなかなかの美人だ。
 身長も伸びて女の子にしてはやや背が高い。それでも麻貴にとっては、いつまでたっても自分の後ろをついていた小さなルカと変わらない。
「なぁ、ルカ。どんな夢を見るんだ?」
「え?あー…んとね…」
 ルカは朝織に話した事と同じ事を麻貴にも話した。麻貴は織と違い笑わず聞いてくれた。
「そうか。内容は分からないのか。確かに気持ち悪いね」
「でしょ?もう寝るのがちょっといやになりそうだよ」
「よし、分かった。すごく良い枕をプレゼントしよう」
 ルカの癖のない艶やかな髪の毛を撫で麻貴は微笑んだ。
「朝までぐっすり眠れるような枕を」
「うん。楽しみにしてるね」
 ルカの幼い笑顔を麻貴は目を細めて眺めていた。

 

 

 

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