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白と蒼の炎

穏やかな日常

「遅刻する!しき早く!!」
「お前がいつまでもグズグズしてるからだろ」
 梅雨の合間の、良く晴れた朝の爽やかな空気を台無しにするかのような声が住宅街に響く。
 咲谷ルカ(さくやるか)と上条織かみじょうしきは生まれたときからの付き合いだ。誕生日が7月で、ルカは7日、織は1日、さらに家も隣通しで家族ぐるみの付き合いも今年で18年目。幼稚園から高校まで殆どクラスも同じだった。
 おてんばな女の子だったルカも、今では近所でも評判の美人になり、物静かだった織は勉強もスポーツもそつなくこなすなかなか優秀な青年に育った。
 しかし二人の間柄は何も変わらない。織がルカを手綱で操っていると言うか、手の上で転がしていると言うか、ボケとツッコミと言うか…。
「ルカ、織も気をつけて行っておいで」
 そんな二人をにこやかに送り出すのは、織の兄の上条麻貴かみじょうまき。自宅で仕事をしている麻貴は必ず、朝二人を見送っている。
 二人より5歳年上の麻貴は、ルカにとっても本当の兄のようで頼れる存在。ルカはにっこり笑って麻貴に手を振った。
「麻貴ちゃん行ってきます!」 
 制服の短いスカートが風で翻るのも気にせず、ルカは先に行った織を追いかけた。
 その後姿に麻貴は苦笑しながら手を振った。
 駅の階段を駆け上がりそのまま電車に乗り込む。大きく息を繰り返しながら二人は顔を見合わせて笑った。
「はぁー…何とか間に合った…。織…ありがとね。待っててくれて」
「いつものことだろ。頼むから明日はもっと早く起きてくれ」
「うん。がんばる」
「それもいつものことだな」
 織は小さくため息をつきながらも、仕方ないなと言った様子でルカの頭を軽く叩いた。
 ルカは織の大きな手にくすぐったそうに肩をすくめて笑った。
「そういえばお前、最近ずっと部屋の電気つけたまま寝てるのか?」
 窓の外の流れる風景を眺めながら織はルカに尋ねた。
「え?」
「夜中に目を覚ましたときにいつもお前の部屋の電気が見えるから。電気つけたままじゃないと寝れなかったっけ?」
 ルカの部屋と織の部屋は向かい合わせになっている。さすがに部屋から部屋に窓からの移動が出来るほど近いわけではないが、それでもお互いの部屋の様子は十分分かる。
「ん…最近ちょっと夢が、ね」
「夢?」
「よく覚えてないんだけど、でも目が覚めると怖かったって思うんだ。同じ夢を何回も見るから気持ち悪いって言うか…だからいつの間にか電気消せなくなったの」
 ルカにしては珍しいと織は内心驚いた。ルカは底抜けに明るい性格だ。しかも結構男前な性格をしている。女の子の好きな占いも信じない。怪奇現象や幽霊なんかも信じない。
 そのルカが夢ごときで寝る時に電気が消せない?何かおかしなものでも食べたのか?それともどこかで頭でもぶつけたか?
「織…なんか言いたそうな顔してるよ」
「そんなこと…ない」
 だめだ、笑ってしまいそうだ。
 織は口元を手で覆ってルカから顔を背けた。
「あんたって、ほんっとムカつく!」
 ルカは肩を揺らしながらも笑いを我慢する織の腕を思い切り叩いた。
「イタッ!」
 顔をしかめる織にフンと鼻を鳴らしてルカは笑い、それからふと顔を背けてため息をついた。
「自分でもおかしいって思ってるよ。たかが夢なんだし…でもさ、ほんとに怖いの。目が覚めてここは自分の部屋なんだって確認しないと安心できなくなって。夢の内容は覚えてないのに怖さだけ残ってるなんてほんと、訳分かんない」
「毎日なのか?」
「毎日じゃない。見ない時もある。でも、少しずつ怖さは増してってるような気がする」
「ふーん…じゃあ怖くて寝れなくなったら電話して来い」
「え…」
 思いがけない織の言葉にルカはぽかんとしてしまった。まさか笑い飛ばさず話を聞いてくれるなんて思ってもなかった。まぁ、最初少しは笑われたのだけれど…。
 織はクールな性格で現実主義者だ。切れ長の目とシンプルな銀色のフレームの眼鏡がいかにも冷たそう見えてしまう。実際織の性格が理解されるまでは誤解もある。
 しかも長年の付き合いであるルカには時々容赦ない。幼馴染であるけれど、そこは女の子なのだから少しは考慮して欲しいといつも直訴するが、織はそれを鼻で笑って瞬殺してしまう。
 だから、夢の話は絶対に馬鹿にされあしらわれると思っていた。
 なのに、この優しさは何?
「なんだ?」
 今度は織がルカを睨んで「なにか言いたそうだな」と言った。
「…なんか…織が優しい…」
 間抜けな返事をしてしまってルカはハッとした。今ここで織の機嫌を損ねてしまったら来週から始まる定期テストで恩恵に与れない。
 織は学年で上位成績者だ。ルカは理系が特に苦手で、織の手厳しいが、それでも根気よく施してくれるご指導ご鞭撻がなければ正直大変なことになる。
「いやっ、あの………織?」
 ルカは恐る恐る織を見た。織は不機嫌そうな顔でルカを見下ろし、そしてため息をついた。
「ごめん…」 
 しょんぼりと肩を落としたルカの肩を織はぽんぽんと叩いた。そして耳元で囁いた。
「テストは自分で頑張れよ」
「!!!」
 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ織は電車を降りていく。
 あーーーー……やっちゃった。
 ルカもがっくりと肩を落としながら、電車を降りて学校へと向かった。
 でも、嬉しかった。誰にも言わなかった、正直自分でも信じられないことを、織は聞いてくれて、あんなことまで言ってくれたことが。

 


 

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