比翼の鳥
第40話 マチェット王国動乱(9)
俺は、なおも断続的に炎の槍を打ち込み続ける。
一度に生成できるのは、精々10本程度だが、それがコンマ数秒の間隔で発射できれば何とかなるものだ。
知覚強化された俺の世界の中でなら、そんな神がかった事も可能となる。
勿論、それ相応の魔力は消費してしまうが、背に腹は代えられない。
まるでマシンガンの様に、全方位にバラまかれた炎の槍は、瞬く間に周辺の魔物達を、焼き尽くした。
魔物に飛びかかられる光景を目の当たりにし、反射的に頭を抱えしゃがみ込んでしまったお姫様だったが、何時まで経っても、攻撃が来ない事を不思議に思ったのだろう。
「えっ? ……ぇ?」
恐る恐る顔を上げた彼女が見た光景。それは、周囲数百メートルにわたり焼け焦げた大地だった。
その奥から遠巻きに魔物達が、こちらの様子を伺っている。
ふう。しかし、炎の槍は、思った以上に燃費が良いな。
なんせ、魔力1の消費で1匹以上倒せているし。もう少し苦戦するかと覚悟もしていたのだが、思った以上に魔法の通りが良い。
ビビに【ライトニング】を撃った時にも感じていたが、こちらの想定以上に俺の魔法が効いている感がある。
もしかしたら、俺の魔力を取り込んだから、何か相乗効果が起きているのかもしれない。
しかも魔物は倒した端から魔力に戻るため、魔力も取り込めるし、消耗も無く戦う事ができる。
俺は、魔力を輪転させながら、周囲の魔物を屠った事で発生した魔力をかき集める。
結果として、先程、ビビの砲撃で消費した分を、補ってなお余りある量の魔力が確保できた。
ふむ。このペースなら、もう少しで、もしかしたら届くかもしれないな。
そんな風に考えていると、魔物達がじわじわと、その包囲網を狭めて来た。
それを見て、我に返ったのか、慌てて弾倉に何かを装填し始めるお姫様。
チラリと盗み見れば、それは俺も見た事がある、元の世界の弾丸の様な形をしている物だった。
それを一つ一つ、弾倉に手で籠めていくお姫様。
だが、勿論、そんな隙を見逃すはずも無く、先程と同じ様に、一斉に飛びかかって来る魔物達。
「っ!?」
声も出せず、避ける事も出来ず、硬直するだけで何の対応も出来ない彼女を見ながら、俺は再度、力ある言葉を世に解き放つ。
「あう、うぇうあ~う」
先程と同じ様に、一瞬にして何百と言う魔物が、炎の槍に貫かれ、魔力に帰った。
打ち出される1つの槍は、精々、長さ1m程で直径は数センチもない細い物だ。
だが、それは飛びかかって来た魔物達を引き裂き、その威力を殺すことなく、後列の魔物達をも容易く貫通し、地面へと突き刺さり爆炎を上げる。
それが、360度、微妙に上下左右の角度を変えながら、スプリンクラーで水を撒くような気やすさで、断続的に発射されていくのだ。
俺らの直上から見れば、それは綺麗な炎の大輪が咲いている様子が見て取れただろう。
「これは、なん、なの?」
ふと、呟き漏れたお姫様の声が、またも焦土と化した大地に溶ける。
まぁ、そう言いたくなる気持ちは分からないでもない。
この世界に来てから魔法に関しては常に最適化を続けている俺が、この魔力をロクに生み出せない体になって到達した一つの形が、この魔法なのだから。
魔力の消費は極小、だけど効果は最大限に。それを追求したらこうなった。
勿論、魔法陣は論外だ。あれは、魔力を食い過ぎる。
ぶっちゃけ、今持っている魔力をすべて使っても、魔法陣を構築できるかは怪しい。
こうなった今なら、皆の気持ちがよく分かる。
その位、あの魔法発動方法は、規格外だったのだ。あれは、無尽蔵の魔力があった俺だったからこそ出来た、一種の反則技である。
まぁ、ただ、今のお姫様の反応を見るに、やはり、この魔法はこの魔法で、規格外なのかもしれない。
だって、今の俺からしても、何なのって言われても、魔法としか言いようが無いからなぁ。
それに、俺から言わせれば、お姫様の使っている小手の様な器具の方が、気になる。
発動原理が全くわからない。恐らく、魔法陣の様な物を、もっと小規模で発生させる機構が存在するのだと思う。
だが、そうにしても、魔力の消費が、俺の知っている魔法陣と比べても、著しく低い。
弾丸の様な物に込められた魔力は、せいぜい、数千程度。それでは、魔法陣は逆立ちしても発動できないはず。
何か、きっと特殊な媒体か、方法があるに違いないのだが……。
そう心で独り言をつぶやきつつ、俺は周囲の魔力をかき集め、更に充填する。
集まってくる魔力の感触は中々のものだ。
地道に数日間、集め続けていた魔力に相当する量が、今の戦闘で集まった。
この調子なら、この群れを全滅させれば、もしかしたら、足りるかもしれない。
先程と同じ様に、また単純に特攻してきてくれれば、悪くない効率で魔力を収集できるのだが、如何せん、流石に、魔物側も警戒しているらしく、今度は闇雲に包囲を狭めて来る事は無かった。
そう言えば、そろそろリリーが合流しそうな時間なのだが。彼女は、何処かな?
何気なく彼女の向かった渓谷の方に【サーチ】を飛ばすと、どうやら、戦闘中の様だ。
こちらに集まった程では無いにせよ、数百匹の魔物の群れに囲まれていた……が、たった今、大部分が消失した。
何ともまぁ、無茶苦茶な物である。
せっかくなので、魔力の輪転を上げ、渓谷で発生した魔力もこちらに引き寄せておく。
時間はかかるだろうが、回収できるだろう。
まぁ、彼女の足ならば、あそこから2~3分もあれば、こちらに到着するはずだ。
魔物達が様子見で時間を引き延ばしてくれるのであれば、こちらも、それに乗ればいい。
リリーと合流できれば、より安全に戦う事も可能だし。
しかし、そんな俺の思惑を知る由も無いお姫様が、何やらブツブツ言いながら、身構える。
「魔王だとは知ってたけど、ここまでなんて……。いえ、私だって、まだまだ……」
そんなお姫様の言葉に、非常に嫌な予感を覚えた俺が、口を開く前に、彼女は行動を起こした。
「私だって、戦える!!」
そのまま、折角様子見をしていてくれた魔物の群れに、わざわざ突っ込んで行くお姫様。
こらぁ!! どんだけ、戦いたがってんのよ!?
待ってれば、その内、リリーと合流できるのに!?
「たぁ!!」
彼女の突きと共に、爆発が起こる。そして響く金属音。
観察していて気がついたが、どうやら、この金属音は、リロードの音の様だな。
「まだまだぁ!!」
更に爆発が視界を覆う。響く金属音。
先程盗み見た感じでは、彼女の手首に巻き付いている弾倉は、恐らく8。
つまり、8発しか魔法を発動できないのだろう。
「私だって、リリーに!!」
今度は魔法が発動する前に、金属音が数回鳴る。
そして、今迄に無い規模での爆発が、目の前に起こる。
それは、まるで群れを割る様に駆け抜け、彼女の直線状の魔物を一掃した。
ほう、これは面白い。なるほどね。弾薬を多く消費する事で、威力の嵩増しも可能と。
中々に面白い道具だ。
だが、こういう状況での運用は、かなり厳しいと思う。
消耗戦や持久戦においては、弾薬交換のリスクは、無視できるものではない。
ましてや、今回の敵に関して、彼女の攻撃方法が、いささか効率が悪いように思える。
この彼女が放つ爆発は、基本的に球形にその力が発生する様だ。
しかし、今回の敵は全て地上戦力なのだ。
敵に攻撃を当てた場合、その威力の半分以上は地面と虚空へ……敵のいない所へと流れてしまう。つまりは、無駄になる。
もし、有効に使うなら、上から爆風を叩きつけた方が、まだマシだろう。
しかし、彼女は、横向きに爆発を起こしているため、その殆どの威力が無駄に拡散してしまっている。
一緒に散弾でも打ち出せるなら、全然違うんだろうけどなぁ。
そこまで考えて気がついた。
あ、そうか。こっちでサポートすればいいのか。
「認めて、貰うんだから!!」
彼女の叫びと攻撃で爆発が起きる場所は、必ず魔力が一瞬、凝縮する。
その場所を確認すると同時に、【石の弾丸】を魔物の群れ方向に発動。
爆発が起きると、俺の魔法で現出した石の飛礫が、一気に推進力を得て、魔物達に牙をむく。
そして、響く金属音。
先程までは爆風に巻き込まれた数体が消し飛ぶ程度だったが、今回は、扇形に数十体がその身に小さな穴を開け、魔力に帰る。
しかし、俺が思っていた程の威力は出なかった。やっぱり、打ち出すのが小石だと、強度の問題で駄目らしい。
爆風に負けてかなりの数が、細かい礫となってしまって、期待通りの威力を発揮できなかったようだ。
「あ、あれ?」
だが、当のお姫様は、最後の攻撃が明らかに今までと違った威力だった事が不思議だったようで、首を捻りながら、小手をしきりに確認していた。
いや、だから、そう言う事は、ひと段落着いてからやって欲しかった……。
勿論、今はまたもや、魔物の群れのど真ん中であり、どうもこのお姫様、色んな意味で周りが見えてないと言うか。
案の定、好機とばかりに背後……つまり、俺へと飛び込んでくる魔物達。
もう、面倒なので、再度、炎の槍で、周りを焼き払う。
今度は少し遠くまで狙ってみたが、流石に精度が落ちるらしく、遠くの方は殲滅とまでは行かなかった。
閃光と爆音で、お姫様も我に返ったようだが、時すでに遅く、またもや数百メートルに渡る、緩衝地帯が出来た後だった。
呆然とするお姫様を他所に、俺は、しれっと、魔力を回収し、充填する。
お姫様は、首を傾げながらも、またも弾薬を充填していく。
しかし、この武器、あれだな。使い勝手が悪いな。
せめて、装填の手間が無くせれば、大分、化けると思うんだが。
そんなどうでも良い事を考えていると、【サーチ】に目を引く反応が飛び込んできた。
街の方からこちらに向かってくるその反応は、常人とは一線を画す魔力量を示している。
そして、それ以上にこの反応、俺はつい最近にも見たことがある……。
あれ、何でこっちにくるんだ? え? まさか。
凄く嫌な予感がしたと同時に、今度はその反応を塗りつぶすかのような強大な魔力反応が、一瞬、捉えられたかと思うと……。
「ツバサ様! お怪我はございませんか!?」
もう目の前に降ってきた。
文字通り、それはもう、気持ち良い位、空から、砲弾宜しく突っ込んできたのだ。
そして、その結果、ド派手に周りの魔物を木っ端微塵に吹き飛ばし、どでかいクレーターをこさえる、金色の獣人。
魔力が全身から噴出し、金色のオーラに包まれているように見える。
獣人の証である、耳や尻尾も毛が逆立ち、天へとなびくように揺れていた。
俺がいた時は、まだセーブしていたようだが、全力を出すとこうなるか。
だが、その出で立ちが、あれですよ。どこからどう見ても、スーパー何とか人です……。
しかも、あれだね。ちょっと派手な登場過ぎませんかねぇ?
ほら、お姫様、呆然としているから。
彼女、頑張ったんだよ?
数匹ずつだけど、一生懸命ぶん殴るように倒していったんだよ。
それを、登場一発目で、あっさりとほぼ、半数を消し飛ばすって……。まぁ、楽だから良いんだが。
「り、リリー……相変わらず、貴女……」
呆然としながらも、どうやらお姫様も慣れているようで、すぐに言葉を発する。
「ああ、良かった。リザも無事でしたか」
リリーのその一言を聞いて、お姫様がムッとしたようだったので、思わず俺は肩を優しく叩いて、落ち着けと意思表示をしてしまった。
だが、その行動がかえって彼女の気を逆なでしてしまったようだ。
「気安く触らないでくださる!?」
若干、言い回しは柔らかかったものの、やっぱり虫の居所が悪い。
やはり、お姫様より、俺の様を優先してしまうリリーの様子が、腹に据えかねるようだ。
リリーにも、何回か言い含めているのだが、あまり効果がない。彼女はなぁ……信念に関しては、そう簡単に曲がらんからなぁ。
徐々に、折り合いをつけていくしか無いんだろうなと、長期戦で行くことに決めている。
そんなお姫様の癇癪も、察する所があったのだろう。
俺が、手でストップの合図を送ったことも、功を奏したのか、リリーが口を開くことはなかった。
なんか、あれだ。俺って、文字通りの板挟みである。むしろ、三角関係の修羅場が適当な表現なのか?
疲れる……。
そんなアホな事を考えている内に、先程の、街から来たであろう反応が、直ぐ側まで来ていた。
あ、しまった。リリーの登場ですっかり忘れてた。
どうやら、その存在は、丁度、俺達から死角となる小高い岩場に到着したらしく、裏でゴソゴソやっている。
また、都合の良い場所があったもんだな。
リリーが少し安心した様子でこちらにゆっくりと歩み寄り……そして、何かに気づいたように耳をピクピクと震わせながら、怪訝な表情を浮かべた。
あ、この様子だと、リリーは、まだ気づいてなかったんだな。
そして、小高い岩場に視線を向けると、彼女にしては珍しく、表情が一気に嫌悪も顕な物に変わった。
同時に彼女は魔力の噴出を抑え、完全にいつもの姿になるが、もう遅いと思うぞ。
そんなリリーの不思議な行動に釣られるように、お姫様も岩場へと視線を向け、何もないことを確認すると、首をかしげる。
俺は、お姫様の肩越しに、これから起こることをちょっと期待しながら、様子をうかがう。
「ツバサ様、早くこの場を……」
リリーがちょっと焦ったように、口を開いた次の瞬間。
小高い岩場に、突如爆発が起こり、聞き覚えのある曲が流れて来た。
思わず天を仰ぐように立ちすくむリリー。
こんな彼女の姿を、俺は今まで見たことがなかった。
どうやら、それはお姫様も同じだったようで、困惑した表情を浮かべている。
そんな微妙な雰囲気をもたらした元凶が、高らかに声を上げる。
「この私がいる限り、悪の栄えた試し無し!!! フィジカルレッド、ただいま参上!!」
その名乗りとともに再度、激しく上がる爆発を見ながら、俺はいらっしゃい、ヒーローさんと心で呟くのだった。
一度に生成できるのは、精々10本程度だが、それがコンマ数秒の間隔で発射できれば何とかなるものだ。
知覚強化された俺の世界の中でなら、そんな神がかった事も可能となる。
勿論、それ相応の魔力は消費してしまうが、背に腹は代えられない。
まるでマシンガンの様に、全方位にバラまかれた炎の槍は、瞬く間に周辺の魔物達を、焼き尽くした。
魔物に飛びかかられる光景を目の当たりにし、反射的に頭を抱えしゃがみ込んでしまったお姫様だったが、何時まで経っても、攻撃が来ない事を不思議に思ったのだろう。
「えっ? ……ぇ?」
恐る恐る顔を上げた彼女が見た光景。それは、周囲数百メートルにわたり焼け焦げた大地だった。
その奥から遠巻きに魔物達が、こちらの様子を伺っている。
ふう。しかし、炎の槍は、思った以上に燃費が良いな。
なんせ、魔力1の消費で1匹以上倒せているし。もう少し苦戦するかと覚悟もしていたのだが、思った以上に魔法の通りが良い。
ビビに【ライトニング】を撃った時にも感じていたが、こちらの想定以上に俺の魔法が効いている感がある。
もしかしたら、俺の魔力を取り込んだから、何か相乗効果が起きているのかもしれない。
しかも魔物は倒した端から魔力に戻るため、魔力も取り込めるし、消耗も無く戦う事ができる。
俺は、魔力を輪転させながら、周囲の魔物を屠った事で発生した魔力をかき集める。
結果として、先程、ビビの砲撃で消費した分を、補ってなお余りある量の魔力が確保できた。
ふむ。このペースなら、もう少しで、もしかしたら届くかもしれないな。
そんな風に考えていると、魔物達がじわじわと、その包囲網を狭めて来た。
それを見て、我に返ったのか、慌てて弾倉に何かを装填し始めるお姫様。
チラリと盗み見れば、それは俺も見た事がある、元の世界の弾丸の様な形をしている物だった。
それを一つ一つ、弾倉に手で籠めていくお姫様。
だが、勿論、そんな隙を見逃すはずも無く、先程と同じ様に、一斉に飛びかかって来る魔物達。
「っ!?」
声も出せず、避ける事も出来ず、硬直するだけで何の対応も出来ない彼女を見ながら、俺は再度、力ある言葉を世に解き放つ。
「あう、うぇうあ~う」
先程と同じ様に、一瞬にして何百と言う魔物が、炎の槍に貫かれ、魔力に帰った。
打ち出される1つの槍は、精々、長さ1m程で直径は数センチもない細い物だ。
だが、それは飛びかかって来た魔物達を引き裂き、その威力を殺すことなく、後列の魔物達をも容易く貫通し、地面へと突き刺さり爆炎を上げる。
それが、360度、微妙に上下左右の角度を変えながら、スプリンクラーで水を撒くような気やすさで、断続的に発射されていくのだ。
俺らの直上から見れば、それは綺麗な炎の大輪が咲いている様子が見て取れただろう。
「これは、なん、なの?」
ふと、呟き漏れたお姫様の声が、またも焦土と化した大地に溶ける。
まぁ、そう言いたくなる気持ちは分からないでもない。
この世界に来てから魔法に関しては常に最適化を続けている俺が、この魔力をロクに生み出せない体になって到達した一つの形が、この魔法なのだから。
魔力の消費は極小、だけど効果は最大限に。それを追求したらこうなった。
勿論、魔法陣は論外だ。あれは、魔力を食い過ぎる。
ぶっちゃけ、今持っている魔力をすべて使っても、魔法陣を構築できるかは怪しい。
こうなった今なら、皆の気持ちがよく分かる。
その位、あの魔法発動方法は、規格外だったのだ。あれは、無尽蔵の魔力があった俺だったからこそ出来た、一種の反則技である。
まぁ、ただ、今のお姫様の反応を見るに、やはり、この魔法はこの魔法で、規格外なのかもしれない。
だって、今の俺からしても、何なのって言われても、魔法としか言いようが無いからなぁ。
それに、俺から言わせれば、お姫様の使っている小手の様な器具の方が、気になる。
発動原理が全くわからない。恐らく、魔法陣の様な物を、もっと小規模で発生させる機構が存在するのだと思う。
だが、そうにしても、魔力の消費が、俺の知っている魔法陣と比べても、著しく低い。
弾丸の様な物に込められた魔力は、せいぜい、数千程度。それでは、魔法陣は逆立ちしても発動できないはず。
何か、きっと特殊な媒体か、方法があるに違いないのだが……。
そう心で独り言をつぶやきつつ、俺は周囲の魔力をかき集め、更に充填する。
集まってくる魔力の感触は中々のものだ。
地道に数日間、集め続けていた魔力に相当する量が、今の戦闘で集まった。
この調子なら、この群れを全滅させれば、もしかしたら、足りるかもしれない。
先程と同じ様に、また単純に特攻してきてくれれば、悪くない効率で魔力を収集できるのだが、如何せん、流石に、魔物側も警戒しているらしく、今度は闇雲に包囲を狭めて来る事は無かった。
そう言えば、そろそろリリーが合流しそうな時間なのだが。彼女は、何処かな?
何気なく彼女の向かった渓谷の方に【サーチ】を飛ばすと、どうやら、戦闘中の様だ。
こちらに集まった程では無いにせよ、数百匹の魔物の群れに囲まれていた……が、たった今、大部分が消失した。
何ともまぁ、無茶苦茶な物である。
せっかくなので、魔力の輪転を上げ、渓谷で発生した魔力もこちらに引き寄せておく。
時間はかかるだろうが、回収できるだろう。
まぁ、彼女の足ならば、あそこから2~3分もあれば、こちらに到着するはずだ。
魔物達が様子見で時間を引き延ばしてくれるのであれば、こちらも、それに乗ればいい。
リリーと合流できれば、より安全に戦う事も可能だし。
しかし、そんな俺の思惑を知る由も無いお姫様が、何やらブツブツ言いながら、身構える。
「魔王だとは知ってたけど、ここまでなんて……。いえ、私だって、まだまだ……」
そんなお姫様の言葉に、非常に嫌な予感を覚えた俺が、口を開く前に、彼女は行動を起こした。
「私だって、戦える!!」
そのまま、折角様子見をしていてくれた魔物の群れに、わざわざ突っ込んで行くお姫様。
こらぁ!! どんだけ、戦いたがってんのよ!?
待ってれば、その内、リリーと合流できるのに!?
「たぁ!!」
彼女の突きと共に、爆発が起こる。そして響く金属音。
観察していて気がついたが、どうやら、この金属音は、リロードの音の様だな。
「まだまだぁ!!」
更に爆発が視界を覆う。響く金属音。
先程盗み見た感じでは、彼女の手首に巻き付いている弾倉は、恐らく8。
つまり、8発しか魔法を発動できないのだろう。
「私だって、リリーに!!」
今度は魔法が発動する前に、金属音が数回鳴る。
そして、今迄に無い規模での爆発が、目の前に起こる。
それは、まるで群れを割る様に駆け抜け、彼女の直線状の魔物を一掃した。
ほう、これは面白い。なるほどね。弾薬を多く消費する事で、威力の嵩増しも可能と。
中々に面白い道具だ。
だが、こういう状況での運用は、かなり厳しいと思う。
消耗戦や持久戦においては、弾薬交換のリスクは、無視できるものではない。
ましてや、今回の敵に関して、彼女の攻撃方法が、いささか効率が悪いように思える。
この彼女が放つ爆発は、基本的に球形にその力が発生する様だ。
しかし、今回の敵は全て地上戦力なのだ。
敵に攻撃を当てた場合、その威力の半分以上は地面と虚空へ……敵のいない所へと流れてしまう。つまりは、無駄になる。
もし、有効に使うなら、上から爆風を叩きつけた方が、まだマシだろう。
しかし、彼女は、横向きに爆発を起こしているため、その殆どの威力が無駄に拡散してしまっている。
一緒に散弾でも打ち出せるなら、全然違うんだろうけどなぁ。
そこまで考えて気がついた。
あ、そうか。こっちでサポートすればいいのか。
「認めて、貰うんだから!!」
彼女の叫びと攻撃で爆発が起きる場所は、必ず魔力が一瞬、凝縮する。
その場所を確認すると同時に、【石の弾丸】を魔物の群れ方向に発動。
爆発が起きると、俺の魔法で現出した石の飛礫が、一気に推進力を得て、魔物達に牙をむく。
そして、響く金属音。
先程までは爆風に巻き込まれた数体が消し飛ぶ程度だったが、今回は、扇形に数十体がその身に小さな穴を開け、魔力に帰る。
しかし、俺が思っていた程の威力は出なかった。やっぱり、打ち出すのが小石だと、強度の問題で駄目らしい。
爆風に負けてかなりの数が、細かい礫となってしまって、期待通りの威力を発揮できなかったようだ。
「あ、あれ?」
だが、当のお姫様は、最後の攻撃が明らかに今までと違った威力だった事が不思議だったようで、首を捻りながら、小手をしきりに確認していた。
いや、だから、そう言う事は、ひと段落着いてからやって欲しかった……。
勿論、今はまたもや、魔物の群れのど真ん中であり、どうもこのお姫様、色んな意味で周りが見えてないと言うか。
案の定、好機とばかりに背後……つまり、俺へと飛び込んでくる魔物達。
もう、面倒なので、再度、炎の槍で、周りを焼き払う。
今度は少し遠くまで狙ってみたが、流石に精度が落ちるらしく、遠くの方は殲滅とまでは行かなかった。
閃光と爆音で、お姫様も我に返ったようだが、時すでに遅く、またもや数百メートルに渡る、緩衝地帯が出来た後だった。
呆然とするお姫様を他所に、俺は、しれっと、魔力を回収し、充填する。
お姫様は、首を傾げながらも、またも弾薬を充填していく。
しかし、この武器、あれだな。使い勝手が悪いな。
せめて、装填の手間が無くせれば、大分、化けると思うんだが。
そんなどうでも良い事を考えていると、【サーチ】に目を引く反応が飛び込んできた。
街の方からこちらに向かってくるその反応は、常人とは一線を画す魔力量を示している。
そして、それ以上にこの反応、俺はつい最近にも見たことがある……。
あれ、何でこっちにくるんだ? え? まさか。
凄く嫌な予感がしたと同時に、今度はその反応を塗りつぶすかのような強大な魔力反応が、一瞬、捉えられたかと思うと……。
「ツバサ様! お怪我はございませんか!?」
もう目の前に降ってきた。
文字通り、それはもう、気持ち良い位、空から、砲弾宜しく突っ込んできたのだ。
そして、その結果、ド派手に周りの魔物を木っ端微塵に吹き飛ばし、どでかいクレーターをこさえる、金色の獣人。
魔力が全身から噴出し、金色のオーラに包まれているように見える。
獣人の証である、耳や尻尾も毛が逆立ち、天へとなびくように揺れていた。
俺がいた時は、まだセーブしていたようだが、全力を出すとこうなるか。
だが、その出で立ちが、あれですよ。どこからどう見ても、スーパー何とか人です……。
しかも、あれだね。ちょっと派手な登場過ぎませんかねぇ?
ほら、お姫様、呆然としているから。
彼女、頑張ったんだよ?
数匹ずつだけど、一生懸命ぶん殴るように倒していったんだよ。
それを、登場一発目で、あっさりとほぼ、半数を消し飛ばすって……。まぁ、楽だから良いんだが。
「り、リリー……相変わらず、貴女……」
呆然としながらも、どうやらお姫様も慣れているようで、すぐに言葉を発する。
「ああ、良かった。リザも無事でしたか」
リリーのその一言を聞いて、お姫様がムッとしたようだったので、思わず俺は肩を優しく叩いて、落ち着けと意思表示をしてしまった。
だが、その行動がかえって彼女の気を逆なでしてしまったようだ。
「気安く触らないでくださる!?」
若干、言い回しは柔らかかったものの、やっぱり虫の居所が悪い。
やはり、お姫様より、俺の様を優先してしまうリリーの様子が、腹に据えかねるようだ。
リリーにも、何回か言い含めているのだが、あまり効果がない。彼女はなぁ……信念に関しては、そう簡単に曲がらんからなぁ。
徐々に、折り合いをつけていくしか無いんだろうなと、長期戦で行くことに決めている。
そんなお姫様の癇癪も、察する所があったのだろう。
俺が、手でストップの合図を送ったことも、功を奏したのか、リリーが口を開くことはなかった。
なんか、あれだ。俺って、文字通りの板挟みである。むしろ、三角関係の修羅場が適当な表現なのか?
疲れる……。
そんなアホな事を考えている内に、先程の、街から来たであろう反応が、直ぐ側まで来ていた。
あ、しまった。リリーの登場ですっかり忘れてた。
どうやら、その存在は、丁度、俺達から死角となる小高い岩場に到着したらしく、裏でゴソゴソやっている。
また、都合の良い場所があったもんだな。
リリーが少し安心した様子でこちらにゆっくりと歩み寄り……そして、何かに気づいたように耳をピクピクと震わせながら、怪訝な表情を浮かべた。
あ、この様子だと、リリーは、まだ気づいてなかったんだな。
そして、小高い岩場に視線を向けると、彼女にしては珍しく、表情が一気に嫌悪も顕な物に変わった。
同時に彼女は魔力の噴出を抑え、完全にいつもの姿になるが、もう遅いと思うぞ。
そんなリリーの不思議な行動に釣られるように、お姫様も岩場へと視線を向け、何もないことを確認すると、首をかしげる。
俺は、お姫様の肩越しに、これから起こることをちょっと期待しながら、様子をうかがう。
「ツバサ様、早くこの場を……」
リリーがちょっと焦ったように、口を開いた次の瞬間。
小高い岩場に、突如爆発が起こり、聞き覚えのある曲が流れて来た。
思わず天を仰ぐように立ちすくむリリー。
こんな彼女の姿を、俺は今まで見たことがなかった。
どうやら、それはお姫様も同じだったようで、困惑した表情を浮かべている。
そんな微妙な雰囲気をもたらした元凶が、高らかに声を上げる。
「この私がいる限り、悪の栄えた試し無し!!! フィジカルレッド、ただいま参上!!」
その名乗りとともに再度、激しく上がる爆発を見ながら、俺はいらっしゃい、ヒーローさんと心で呟くのだった。
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コメント
ノベルバユーザー601714
ランキングから拝見しました。人と人のふれあいが丁寧に描かれていて良かったです。
ノベルバユーザー85202
更新がんばれー