比翼の鳥

風慎

第64話:閉じられた村落

 ビビは順調に快走を続け、日が傾きかけたころ、狐族の村近郊へと到着していた。

 俺達は全員、ビビから降り、その巨体に口々にお礼の言葉をかける。
 そんな言葉に満足したのか、それを確認すると、ビビは光の粒子になって消え去った。

 ふと横を見ると、ルナは少しだけ疲れた顔をしていた。
 そりゃ、これだけ長時間精霊を顕現させていれば疲れもするだろう。
 俺は、ルナの頭をそっと撫で、「お疲れ様。ありがとうな。」と、小さくお礼を言う。
 そんな俺の言葉に、ルナは小さな花が咲くように、嬉しそうに微笑み返すのだった。

 ビビの上で、宇迦之さんには、ありがたい注意の言葉を頂いていた。

 曰く、宇迦之さんを馬鹿にするやつが多いが、気にするな。
 曰く、人族である俺を蔑む輩が多いだろうが、気にするな。
 曰く、っていうか、全員蔑んだ眼で見られて不快だろうが、気にするな。

 皆それを聞いて、帰っていいか?と言う目を向けるものの、少なくとも俺と宇迦之さん、レイリさんは逃げ道などあろうはずも無く…。
 結果、リリーとルナ、此花、咲耶とティガ親子達は、礼の如くお留守番と言う結果に。
 今回は、宇迦之さんを貰い受ける話をしなければならず、あわよくば、精霊樹を植える許可を頂かなくてはならない。
 その為には、俺がいないと話が進まない可能性もある。
 そもそも、種の存亡に関わる話なのだ。俺が絡む以上は俺が行くのは筋である。

 そして、居残り組をこんな森のど真ん中に置いて行くのも、心苦しいものがあったので、【土木用:ファミリア】で、簡単な小屋を作らせ、そこに待機して貰う事にした。
 作業時間、30分。周りの木を惜しげも無く使い、さくっとログハウスが出来る。
「相変わらず……無茶苦茶じゃのぉ……。」との宇迦之さんの言葉に、皆が頷くも、俺は苦笑を返す事しかできない。

 ルナは我先にと、ログハウスに突入し、その木の香りを楽しんでいた。
 流石に、窓は、ただ、木枠をはめ込んだ後に、上から戸を付けただけの簡単な構造である。勿論、暖を取る事も出来ない。
 見栄え的には微妙ではあるし、耐久性にも難があるものの、仮の宿としては問題ないだろう。
 ヒビキは、早速出来立ての床に寝そべり、惰眠を楽しみ始める。
 もっとも、耳はぴくぴく動いてはいるので、警戒はしてくれているようだ。
 そこに、クウガとアギトが加わり、更に此花と咲耶、リリー、ルナと続き、皆幸せそうに生もふもふに包まれ、寝転がっていた。
 羨ましい……。「俺も行っちゃ駄目?」と、レイリさん、宇迦之さんに目で訴えかけるも、あっさりと却下された。

 まるで死地へと赴く気分の俺達に、後ろから、半分眠ったように、「気を付けて下さいねー。」とか、「お父様、いってらっしゃいませ!」「父上!ここが踏ん張りどころですぞ!」と、何ともゆるい声でかけられた応援の言葉に、俺は振り向かず黙って手を上げて答えたのだった。

 宇迦之さんを先頭に、俺とレイリさんが村に入った瞬間、ある一人の狐族が声を上げ、たちまち大騒ぎとなった。
 その一声が、「巫女が帰ったぞ!!人族を従えているぞ!」と言うなんとも、コメントに困るものだった。

 村の雰囲気は正に、閑散と言う言葉が適当で、物寂しく、既に栄華は去ったと思わせる程、活気が無かった。
 家は縄文式住居も真っ青な、藁葺の家だった。
 土の上に、丸太で組まれた家の柱。その周りを藁で覆うだけの簡素な家だ。

 皆が着ている物は、着物に似た上品な服で、その生地も良いものを使っているのがよく分かった。
 しかし、良く見ると所々が汚れており、その身なりに余裕という物が感じられないのを、俺は一人理解した。

 きっと村の一人一人が近しい関係なのだろう。
 一人が声を上げてから、次々と人が集まって来て、あっという間に囲まれてしまった。
 いくら全人口23人の小さな村とは言え、10人以上に囲まれれば中々の威圧感である。
 そして、皆が一様に、こちらを睨んだまま一言も発せず、何かを待つように俺等を囲い込む。
 宇迦之さんもレイリさんも、涼しい顔でこの事態を静観していた。
 俺も、2人に習い、静かにこの場を見守る。

 しかし、周りを観察していて気が付いたのだが、この狐族の男女はやたらと美男美女だらけである。
 しかも、背が高く、俺より高い人も多い。そして、皆、着物が似合ってしまうような気品のある佇まい。
 うーむ、確かに、この美男美女軍団の中にいては、宇迦之さんが浮くのも分かる気がする。
 ちなみに、補足しておくと宇迦之さんは美人さんである。ただ、体形的に美少女になってしまうが。
 狐族の例にもれず、宇迦之さんだって、とても麗しいのだ。

 そんな事を俺が考えていると、人垣が割れ、奥から一人の狐族の男性が歩いて来る。
 その姿は、若々しい青年で、目には人を引き付けてやまない力があり、その奥に潜む、野心とも呼べる黒い炎が見え隠れしていた。
 この男は……厄介だ……と、俺は直感で判断する。
 その男は、チラリと俺に目を向けると、すぐに興味を無くした様に、宇迦之さんへと目を向け口を開く。

「巫女よ、随分と帰るのが遅かったではないですか? しかも、汚らしい金狼族と……見るに堪えない人族が一緒ですか。これは一体、どういうことですかな?」

 のっけから中々に厳しい言葉だ。
 レイリさんをチラリと見るが、表情は凍りついたように動いていない。
 俺も、特に表情を動かすことなく、宇迦之さんの反応を待つ。

「相変わらず……村長殿は、言葉が悪いのぉ。このお二人はわらわの客人じゃ。もう少し何とかならんかの?」

「本心から出た言葉ですので……申し訳ありませんね。出来る限り善処いたしましょう。」

 そう言いながらニヤリとした笑みを見せる。
 何となくその笑みに、嫌な物を感じる。
 宇迦之さんはそんな事を気にする様子も無く、更に言葉を続ける。

「まぁ、頼むの。という訳で、そうじゃな……とりあえず、報告をしたいのじゃが? 村長宅で宜しいかの?」

「ふむ……そうですな? いや、ここは巫女の家が良いでしょう。問題ないでしょう?」

「むぅ……わらわの家は、客人を迎えられるほど、綺麗ではないのじゃが……。」

 そんな風に困った顔をする宇迦之さんに、俺は、「気にしませんよ。」と言う意味を込めて黙って頷く。
 それを見た宇迦之さんは、少しだけバツの悪そうな顔をして、

「本当に、汚い所なのじゃが、それでも良いのかの?」

 と、自信なさげに聞いて来た。
 今度はレイリさんも一緒になって、2人で黙って頷く。
 そのやり取りを、何故か村長はニヤニヤと、いやらしい笑みを浮かべて見守っていたのだった。

 俺達はその村長の笑みの意味を、宇迦之さんの家を見て、初めて気が付いた。
 朽ちた藁が覆い、あまり意味をなさない、その屋根と壁。
 隙間だらけの壁から見える家の中は、この1ヶ月空けただけでこうなったのでは無く、前からこの状態であったのだろう。
 床も、風にさらされ、ボロボロになっていた。
 野ざらしよりはマシと言うレベルの、最低限にも満たない住居環境。
 勿論、タンス等の家具など一切なく、本当にただ寝る為だけにあると言う感じだった。

 俺は心の中で静かに怒りゲージを貯めつつ、今はグッとこらえる。
 何故、この様な仕打ちを宇迦之さんに強いるのだろうか?
 俺と話していた時、確かに名ばかりの巫女と言う話はしていた。
 しかし、それでも、巫女が死ねばこの森の秩序が失われるはずなのだ。
 そんな事を望まないのであれば、巫女には少しでも良い環境でその職務を全うして貰うと言うのが、当然の考え方ではないだろうか?
 事実、他のどの種族も、巫女に関しては、村一丸となってサポートしていた。
 それが、この村では、逆に村八分ともいうべき状態だ。

 俺のそんな静かな怒りをたたえた姿を見て、宇迦之さんが申し訳なさそうに、言う。

「こんな家で申し訳ないのぉ。わらわは……あれじゃ。あまりこういう事を気にしない性質での。ちょーっと、放っておいたらこれじゃ。面目ないの。」

「そうですなぁ。これは余りに酷い。まだ、家畜にも劣る子族の住居の方がましでしょう。」

 宇迦之さんの言葉を受け、村長がそんな発言をする。
 一瞬、ラッテさんの申し訳なさそうな笑顔が浮かび、それを貶された気がして、カチーンと来たが、こらえる。
 宇迦之さんがサボったからこうなった? んなわけあるか!?
 そういうレベルの話じゃないだろう!?きっと、最初からこんな状態だったんだ。
 そして、村の誰も力を貸すことなく、このままの家に住み続けた結果がこれだったのだろう。
 事実、ささくれ立った柱や、尖って危なそうな部分は、手を入れた跡がある。
 直す事こそできなかったが、少しでも危なくないように、頑張った後はあちらこちらに見える。

 我慢……我慢!この村長は俺を試しているんだ。
 きっと……俺の度量を計ろうとしているんだ……でなければ、この村長はただの馬鹿でしかない。
 俺は、宇迦之さんに微笑みながら

「大丈夫ですよ。所々に、宇迦之さんの気遣いが見える素敵なお家じゃないですか。」

 そう話しかけた。
 そんな俺の言葉を聞いた宇迦之さんは、一瞬目を見開いて驚愕すると、途端に泣きそうな顔になって、小さな声で
「ありがとう……ツバサ殿……。」と、呟いたのだった。

 俺等は、躊躇することなく、宇迦之さんの家に入っていく。
 村長も最後に嫌々と言った感じで、中に入って来る。
 まるで、汚い場所に足を踏み入れたかのような嫌悪感を、その表情から隠しもしない。
 そして、所々に穴が開いているような家なので、遠巻きにこちらの様子を窺っている狐族の人たちの視線が結構うっとおしい。
 こんな家で、宇迦之さんは暮らしていたのか……。
 家の端には、小さな水瓶が2つ。家の中にあるのはこれだけである。
 服を入れるタンスもないし、食料を備蓄するものも無い。机すらないのだ。
 湯呑も無いため、そのまま話し始める。なんだか色んな意味で、泣けてくる。

 宇迦之さんは、淡々とルカール村の報告を行っていた。
 それを村長は黙って、目を閉じて聞いている。
 俺等も口をはさむことは無い。ただ、黙って、事の成り行きを見守る。

 宇迦之さんは必死だった。
 このままでは狐族が潰えてしまう事を懸念し、俺の力を借りたいと申し出た事。
 建前上、その見返りと言う形で、宇迦之さんを俺の妻に娶る用意がある事。
 俺との間に出来た精霊珠から、精霊樹を生じ、その力を試してみたい事。
 等々、それはもう、真剣に村長へと訴えかけたのだ。
 しかし、その訴えかけは、

「馬鹿らしいですね。」

 と言う、村長の一言で全て、水泡に帰す。
「な、何故じゃ……!?」と言う、宇迦之さんの信じられないと言う気持ちがこもった叫びが、家に響く。
 そんな宇迦之さんを本当につまらないものを見るかのような目で、蔑みながら、村長は口を開く。

「何故も何も……。全て、お話になりません。そもそも、低俗な人族と、野蛮な金狼族の力を借りるなど、その時点でお話になりません。我等は誇り高き、狐族ですよ? 何故、人族と金狼族如きに力を借りる必要があるのですか。」

「ば、馬鹿な!?それでは、お主は狐族がこのまま亡ぶのを、黙って見ているだけなのか!?」

「ハハハハ……。巫女は面白い事を言いますね。何故、狐族が亡ぶと言うのですか? たかだか少しの間、子供が出来ていないだけではないですか。12年など……我らにしたら刹那の時間です。少し大げさすぎるでしょう。」

「そんな事は無いのじゃ! 12年もの間、誰一人として子を宿せなんだ! そんな事、未だかつて無いぞ! 例え子を望む様になるまで時間がかかろうとも、望んでから子が出来ないという事は、殆どなかったと言う話ではないか!」

「やれやれ……。巫女は本当に頭が足りない。だから、村の皆から馬鹿にされるのです。いいですか? 今まで子ができなかったとしても、これからもできないわけでは無いのですよ。それに、根本的な問題として、他種族魔力を受け入れるなど、あってはなりません。我々は、誇り高き狐族なのです。獣人族の中で最も華麗で強く、尊い存在なのです。それに、雑種の魔力を入れて子を宿すなど……。それなら、滅びの道を歩んだ方がましという物です。」

「お、お主は……お主は……皆に滅びよと……そう申すのか!? そんな役にも立たない誇りを抱いて、死ねと言うのか!!」

「口を慎みなさい……巫女よ。我等は誇り高き狐族なのです。その誇り無くして狐族足り得ません。巫女よ、大分……外界の穢れをその身に纏って落ちぶれたようですね? 全く、巫女ともあろう者が情けない。また、私が……清めて差し上げましょうか?」

 そんな言葉を聞いたとたん、宇迦之さんは自分の体を抱きしめ、ガタガタと震えはじめた。
 それはどうやら、宇迦之さんの中に眠るトラウマを呼び起こしたのだろう。
 村長から離れるように、後ずさっていく。
 それを俺は後ろから、柔らかく受け止める。
 一瞬、ビクリと、体を震わせるものの、俺の顔を涙の溜まったうつろな目で見ると、安心した様に顔をほころばせ、ついで俯いてしまった。
 レイリさんは、表情を変えない。いや、変えられないのだろう。
 今変えてしまったら、きっとレイリさんは暴走するほど、激しい激情をその顔の下に隠している。
 そして、俺もそれは同じだった。

 本当なら、こいつらを全て吹っ飛ばして、宇迦之さんをさらっていきたい気持ちで一杯だ。
 こんな奴らを存続させるために宇迦之さんがここまで頑張る必要は無いとさえ思う。
 だが、宇迦之さんには彼女なりの信念があるのは、今までの行動を見ていて感じられた。
 ならば、俺は最大限それを尊重したい。

 そして、それを成すには武力を用いない形にしなければならないのだ。
 頭ごなしに押さえつけて、無理やり存続させる意味など何も無い。
 自分達から存続できる道を、選び取るように仕向けなければならない。 
 だから、俺は、宇迦之さんを抱きしめると、そのままの姿勢で、村長に口を開く。

「誇り高き狐族の長様……いやしい身分ではありますが……この私めに、発言をお許し願えないでしょうか?」

 俺は、宇迦之さんを抱きしめたまま、深く頭を垂れ、村長の言葉を待つ。
 そんな俺の発言に、宇迦之さんは信じられないものを見るかのように、目を見開き、何か口にしようとしたとき、先に村長が口を開く。

「ふん……。汚らしい存在でありながら良くも図々しく……。まぁよい……なんだ?」

 そう、不機嫌そうにしながらも、一応発言を許す。
 これで駄目だったら、一方的に言葉を叩きつけるだけしか思い浮かばなかったから、助かった。

「ありがとうございます。実は、宇迦之様は、私共の村で滞在するうちに、狐族には相応しくない程の穢れをその身に宿してしまいました。特に、私の魔力がその身に宿り、もう誇り高き狐族であるとは言えない状態にまで、変わってしまいました。全て、これは私のせいでございます……。」

 そんな俺の言葉を聞いて、村長はニヤリとイヤらしい笑みを浮かべる。
 これで、宇迦之さんが穢れたのは俺のせいになった。
 それは俺が進んで謝罪したことで、話がすり替わったためだ。
 村長から見れば、宇迦之さんが負うはずだった罪と罰を、部外者である俺になすりつけることが出来るようになったのである。
 そうすれば、人のせいに出来るので、狐族としてのプライドは傷まない。

「そうか……お前のせいか……。して、その責任……どう取るつもりだ?」

「私の命などでは、購う事は難しいかと思います。ですので、まず、巫女様を私が引き取り、以後、狐族の巫女様の血統を大事に育てていきたいと思っております。」

 これは、暗に俺が引き取って面倒も見るし、巫女の一族をしっかりと育ててやるから、宇迦之さんをくれと言っていることになる。
 この話は、実は、狐族の村……と言うか村長にとっては良いことずくめなのだ。
 何故なら、下等な種族たちと嫌々ながら結んだ、結界の契約とその管理を他の奴らに押しつける事が出来る。
 更に、宇迦之さんと言う、村長的に目の上のたんこぶである存在を、厄介払いできる。

 そんな俺の言葉に、長老はフンと、鼻を鳴らすと、

「足りんな……。腐っているとは言えども、我が一族の巫女を汚したのだ。その罪、その程度では購えん。」

「では、この村に食料を進呈したく存じます。ルカール村では、ライヤモ草がたくさん取れます。それを1年間分、贈呈したく思います。但し、運ぶのに時間がかかってしまう為、街道を整備させて下さい。そうすれば、大量のライヤモ草を一度にお渡しする事が出来ます。」

 正直に言って、この村は貧しい。
 そして、住民は慢性的な栄養不足に陥っていると思われた。
 皆、体の線が細いのだ。それは健康的な細さでは無く、恵まれた体には見えない。
 ちなみに、宇迦之さんを除いて、他の狐族の女性は胸が薄い。
 だからこそ、余計に胸のある宇迦之さんは憎まれているのかもしれない。

 そんな俺の言葉を聞いて、村長の眉がピクリと動くのが見えた。
 村長はもったいぶる様に、瞑目しているが、本音で言えば、食料は喉から手が出る程、欲しいはずだ。
 俺は、「何卒なにとぞ!」とか、平伏してみせるが、ここで断られるなら、あっさり引いて、この話は無かった事にするつもりである。
 欲をかくならば、俺は容赦しない。
 正直に言えば、最悪、宇迦之さんをさらって行っても良い位なのだ。
 ここまで家族になる人をコケにされて、いい加減、うんざりなのである。

 そんな俺の気持ちなど知る筈も無い村長だったが、

「良かろう……。本当であれば、お前のような下賤な物には勿体無いが……。我が一族の寛容さを見せつけるのもたまには良いであろう。その条件にて、手打ちとしてやる。喜べ!汚らしい人族よ!」

「はっ!ありがとうございます!」

 と、言いつつ、心の中で、「ふざけんなよ!? 今に見てろよ!?宇迦之さんを馬鹿にした恨み、絶対に忘れないからな!?」と、ののしりまくる。

 しかし、これで、俺の野望は一つ進んだ。
 この村、このままにしておかないからな? 精々、踊れよ? 村長様。
 俺は最初からこちらの条件を呑ませるために、この村に来たと言っても過言ではない。
 正確には……村との間に街道を繋げると言うのが真の狙いだ。

 何故? この村はこんなにも閉鎖的な状態なのか?
 村長と言うカリスマのみで成り立つ、閉鎖空間での滅びゆく王国。
 村民が声を上げないのは、上げられないからでは無く、それが変だと知らないからだ。
 周り近所との関係だけを気にしていれば、平穏に暮らせると錯覚している。

 ならば……教えてやろう。
 知らなくても、知りたくなくても……知らされてしまうことなど幾らでもある事を。
 この村が宇迦之さんにした事は、絶対に許さない!

 俺は、村長に平伏しながら、そう一人決意したのであった。

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