一から始める異世界ギルド
18 目標
結局あの後病院に足を運ぶ事はなかった。
偶々向かった先の病院が休みだったとかそういう訳じゃない。ただ単に躓いて転んだ際に地面と右肩が直撃して奇跡のドッキングを果たしたので、態々病院に行く必要がなくなっただけである。
とまあ言葉にするだけなら簡単だが……正直死ぬかと思った。病院の代わりに何処かに逝ってしまう所だった。
この世界に来てドラゴンと戦い、トロールと戦い、そしてロベルトと戦い。特に最後の戦いでは脱臼を含め相当なダメージを負った筈なのに、実感的に一番酷いダメージだったのは肩が嵌った時ってどうなのよ。多分マジで一瞬気絶してたぞ。
だけど流石にそれで死にはしない。その後しっかりと回復魔術でケアを行い、終われば服を買いに行き、そして結局食べそこなった昼飯を兼ねた晩飯をアリスと共に食べに行き就寝。
そうしてまた朝が来る。
目覚めは……正直に言って最悪だ。
「……あのおっさんも脱臼も、完全に俺のトラウマになっちまってんじゃねえか」
本日の夢は例のおっさんに撥ねられ、一命を取り留めたものの右肩を脱臼するという物だった。頼むから明日の夢には出てこないでほしいが、二度ある事は三度ある。
体力的に回復しても精神的には酷い気分になるので、願わくば三度目の正直という事で楽しい夢を見せてほしいところだ。
「まあいいや……とにかく起きよう」
俺はゆっくりと立ち上がって、昨日買って用意してあった服に手を伸ばす。
一応現代日本のポピュラーな服装とはズレた異世界ファッションな訳だが、あまりにもズレているという訳では無いので、あまり着る事に違和感は無い。海外で服買いました的な感じだろうか。
そして着替えが済めばリビングへ。
「あ、おはよう裕也」
リビングには既にアリスがいて、昨日同様コーヒーを呑んでいた。
「アンタも飲む?」
「頼む」
昨日と同じ様な流れでコーヒーを淹れてもらう事になった俺は、アリスの前の席に座る。
「……もう十時じゃねえか」
文字が読めない俺でも、時計位は理解できる。
部屋に掛けられた時計の針は十時を示しており、俺が日曜日でもなければ寝坊と評される様な時間に起床した事を告げていた。
「一応八時半位に起しに言ったんだけどね、なんか楽しそうな夢でも見てるんじゃないかって思わせる様な寝事喋ってたし、起すに起せなかったの」
そう言いながらアリスはコーヒーを淹れ、俺の元へと持ってきてくれる。
「あ、ああ、そうか……まあそんな時期もあった気がするなぁ」
そういえば、どんな夢かは全く思い出せないけれど、おっさんに撥ねられる前までは比較的楽しい夢だった気がする。起せよ、起こしてくれよ、ノリノリで馬車を操る悪魔がやってくる前に。
「あ、そうそう。裕也が楽しい夢を見ている間に、こっちにも良い事があったわ」
「いい事?」
「依頼の電話が来たの」
アリスは嬉しそうに笑ってそう言う。
「連続で仕事が回ってくるなんて、なんかこう……軌道に乗った気がする!」
そう言ってアリスはガッツポーズ。ほんと今までどんだけ仕事無かったんだよと同情すると同時に、今後の先行きが不安になってくる。ある程度生活できるレベルの給料でますよね?
「ちなみに、どんな仕事だ?」
俺がコーヒーを啜った後にそう尋ねると、アリスは少しだけ悩む様に答える。
「護衛……いや、この場合警備なのかしら?」
「まあ何にしても、何かを守る仕事って事か?」
「そんな感じ。とある大企業のお偉いさんに誘拐予告が出されちゃってね。それを阻止する為に複数のギルドに依頼を出して厳重に警備するらしいわ。で、それがウチにも回ってきた」
……成程。
「まあ大体分かったんだけど、大企業って事は相当金とか持ってんだよな? で、ウチのギルドはお前と俺しかいない上に、言っちゃなんだが弱小ギルド。お金持ちが雇う対象になるのかよ」
セオリーを考えれば普通は有名なギルドを集める事だろう。だとすればどうしてその中に俺達を加えるなんて事になるのだろうか。
「まあ普通はならないでしょうね。規模はどうであれギルドってのは結構乱立しちゃってるから数はある。私達を呼ぶくらいならランク持ちのギルドを呼ぶでしょ」
ランク持ちという聞きなれない単語は出てきたものの、話の腰を折ってまで聞く事でもない。今聞きたいのはそこでは無い。だからそれは後だ。
「じゃあ結局、なんで俺達が選ばれた」
「裕也のおかげとでも言っておこうかしら」
「俺のおかげ?」
「そう。昨日のロベルトとの戦いを目撃した人が居たみたいで、偶然裕也の情報が依頼主に届いたの。そこから情報屋経由でウチのギルドに辿りついたってわけ」
多分俺の事を把握してそうな人ってリーア位だから、そこに調査依頼を出したら知人だったって事だろうか。
まあ俺の情報の出所は別にいいんだ。
「でもそれだけで、そんな無名のギルドを探し当ててまで依頼するのか?」
「まあ微妙な所でしょうね。確かに裕也の活躍は功績って言っても良いかもしれないけれど、他のギルドはもっと数多くの功績を残している。たった良いかい勝ったくらいじゃ、きっとその差は覆せない。だけど今回に限っては、裕也の功績を考慮して依頼するに値すると思われたのかもしれないわ。事が事だから」
「というと?」
「その誘拐予告を出したのが、ロベルトなのよ」
……ああ、そういう事か。
俺はアイツを返り打ちにした。つまりはロベルトより強いと認識されている訳だ。
そんな中でロベルトが誘拐予告を出せば、依頼が来るのも一応頷ける。
「だから依頼主は裕也目当てで私達に依頼した。一応受けるとは言ったけれど……良かったわよね」
「当然だろ。断る理由はねえよ」
そもそもこのギルドのトップはアリスだ。アリスがやると言ったらやる。
それに、もしかするとこの一件に関わる事で俺の中のモヤモヤが解決するかもしれない。
だとしたら断る理由なんてどこにもねえよな。
「で、色々と詳しい詳細は?」
「詳細っていうと待遇とか? それはもう結構な額を提示されたわ。流石大企業!」
アリスがすごいニッコニコな笑顔でそう言うが、俺が聞きたいのはそうじゃない。いや、まあ確かにそれが一体どの位の額なのかは、先行きが不安な現状を考えると凄く知っておきたいのだけれど、今はそうじゃないんだ。
「いや、そういう事じゃなくてだな、当日の動きだとかの警備を行う上で必要な情報の詳細な」
「ああそっちね。それは後で律儀にも、説明に来てくれるらいいわ。電話で伝えられても警備に付く前に口頭ででもどっちでもよかったんだけど、あっちが一度お伺いしたいって」
「いつ来るんだ?」
「二時頃」
……まだ結構時間があるな。
「それまでどうする? 案内兼ねてまた何処かに行く?」
「いや、また何かに巻き込まれでもして間に合わなくなったらまずいだろ」
まあそうそう何かに巻き込まれるもんでもないと思うけども、無いとも言い切れないからな。
「そうね。じゃあ昨日一昨日と色々あったんだし、ゆっくりしてましょうか」
「そうだな。」
本当に、この世界に来てから色々ありすぎた。睡眠時以外にまともに休んだ記憶がねえ。
時間が空いたからと言って無理に動き回る必要なんてない。きっと日曜日のお父さんは大体こんな感じ。
「……そうだ」
まあこうして暇な時間ができた時こそ、さっきの疑問を解決しておくべきだ。
「ん? どうしたの?」
「ああ、ちょっと気になったんだけどさ……さっき話に出てきたランク持ちって何の事だ?」
なんとなく意味合いは予想できるが、それでも詳しい事が分からないのならギルドに所属している身としては聞いておくべきだ。
「そういえば話してなかったわね。じゃあ簡単に説明してあげるわ」
「よろしく頼む」
難しく説明されても困るからな。
「まずギルドとして活動するにはギルド協会に申請しなくちゃいけないの。そして登録した際に基本的にはDランクの称号が与えられる。そこから功績などに応じてランクは最高Sランクまで上がって行くの。ここまで聞いて分かったと思うけど、ランクっていうのはギルドの格付けみたいな物よ」
うん……まあ、大体予想通りの回答だったよ、ただ一か所を除いたら。
アリスの説明によれば、登録する事によってDランクが付与される。即ちDランクが最低ランクという事になるのだけれど……なんか引っ掛かる。
さっきまで俺は、最低ランクはそのランクすら貰えていない状態の事を指すと思っていた。なぜなら、アリスの言葉を考えるに、ウチのギルドはランクが与えられていない状態に思えるからだ。
つまり……どういう事だよ。
「えーっと、アリス。なんで俺達にはそのランクが与えられていないんだ?」
俺が単刀直入にそう言うと、アリスは言いにくそうに答える。
「言ったでしょ、基本的にはって。その基本から外れる例の一つが……そもそも正式にギルドを構成する為の最低人数に達していないとか」
「何人いるんだ?」
「最低五人」
……三人足りねえ。
「まあ協会の方が回してくれる様な仕事はDランクもランク無しもそんなに変わらないけど……協会を通さず直接依頼してくる人は、やっぱりランク付きに頼むでしょ」
だからあまり仕事が無いのよ、とアリスは肩を落として言う。
仕事が無い。活躍できない。宣伝できない。人来ない。故にランク上がらず仕事無い。なんだこの負のスパイラル。
……これ端から四人集めて結成しないと詰んでるんじゃないのか?
俺は思わずげんなりしそうになるが、それでも恐らく他のランク無しギルドと、このギルドは色々と違う。
一応アルドやリーアといった情報屋のバックアップを受けているし、今日、こうしてランク無しのギルドには来ない様な依頼も獲得できた。アリスがさっき言った通り軌道には乗っているんだ。
だからきっと、残り三人位集められる。
「まあ今はあんまり仕事ねえかもしれねえけどよ、今回の仕事でランク無しでも依頼が舞い込んでくる様に派手に活躍して依頼も人も集めて、さっさとDランクに上がっちまおうぜ。軌道に乗ってんだろ?」
「……そうね。軌道に乗ってるんだもん。なんとかなるわ」
そう言った後、アリスは気合いを入れるように笑みを浮かべてから俺に言う。
「じゃあ……次の仕事、頑張りましょ!」
「そうだな」
目の前の仕事は、俺のモヤモヤの事を取り除いたとしてもそう簡単にこなせる物じゃないだろう。それはきっとこれから先に受ける仕事だって変わらない。前途多難だ。
だけどギルドとして向かうべきところは把握した。
ならそこに全力で向かってみようじゃないか。
そしてその道のりで俺が付いた嘘の壁を壊せると思える様になればいい。胸を張って肩を並べられる様になればいい。
その為にまずは第一歩だ。
「絶対に成功させようぜ」
「おーッ!」
まだ詳しい話も聞いていない段階だけれど、こうして俺達のモチベーションは最高潮になったのだった。
偶々向かった先の病院が休みだったとかそういう訳じゃない。ただ単に躓いて転んだ際に地面と右肩が直撃して奇跡のドッキングを果たしたので、態々病院に行く必要がなくなっただけである。
とまあ言葉にするだけなら簡単だが……正直死ぬかと思った。病院の代わりに何処かに逝ってしまう所だった。
この世界に来てドラゴンと戦い、トロールと戦い、そしてロベルトと戦い。特に最後の戦いでは脱臼を含め相当なダメージを負った筈なのに、実感的に一番酷いダメージだったのは肩が嵌った時ってどうなのよ。多分マジで一瞬気絶してたぞ。
だけど流石にそれで死にはしない。その後しっかりと回復魔術でケアを行い、終われば服を買いに行き、そして結局食べそこなった昼飯を兼ねた晩飯をアリスと共に食べに行き就寝。
そうしてまた朝が来る。
目覚めは……正直に言って最悪だ。
「……あのおっさんも脱臼も、完全に俺のトラウマになっちまってんじゃねえか」
本日の夢は例のおっさんに撥ねられ、一命を取り留めたものの右肩を脱臼するという物だった。頼むから明日の夢には出てこないでほしいが、二度ある事は三度ある。
体力的に回復しても精神的には酷い気分になるので、願わくば三度目の正直という事で楽しい夢を見せてほしいところだ。
「まあいいや……とにかく起きよう」
俺はゆっくりと立ち上がって、昨日買って用意してあった服に手を伸ばす。
一応現代日本のポピュラーな服装とはズレた異世界ファッションな訳だが、あまりにもズレているという訳では無いので、あまり着る事に違和感は無い。海外で服買いました的な感じだろうか。
そして着替えが済めばリビングへ。
「あ、おはよう裕也」
リビングには既にアリスがいて、昨日同様コーヒーを呑んでいた。
「アンタも飲む?」
「頼む」
昨日と同じ様な流れでコーヒーを淹れてもらう事になった俺は、アリスの前の席に座る。
「……もう十時じゃねえか」
文字が読めない俺でも、時計位は理解できる。
部屋に掛けられた時計の針は十時を示しており、俺が日曜日でもなければ寝坊と評される様な時間に起床した事を告げていた。
「一応八時半位に起しに言ったんだけどね、なんか楽しそうな夢でも見てるんじゃないかって思わせる様な寝事喋ってたし、起すに起せなかったの」
そう言いながらアリスはコーヒーを淹れ、俺の元へと持ってきてくれる。
「あ、ああ、そうか……まあそんな時期もあった気がするなぁ」
そういえば、どんな夢かは全く思い出せないけれど、おっさんに撥ねられる前までは比較的楽しい夢だった気がする。起せよ、起こしてくれよ、ノリノリで馬車を操る悪魔がやってくる前に。
「あ、そうそう。裕也が楽しい夢を見ている間に、こっちにも良い事があったわ」
「いい事?」
「依頼の電話が来たの」
アリスは嬉しそうに笑ってそう言う。
「連続で仕事が回ってくるなんて、なんかこう……軌道に乗った気がする!」
そう言ってアリスはガッツポーズ。ほんと今までどんだけ仕事無かったんだよと同情すると同時に、今後の先行きが不安になってくる。ある程度生活できるレベルの給料でますよね?
「ちなみに、どんな仕事だ?」
俺がコーヒーを啜った後にそう尋ねると、アリスは少しだけ悩む様に答える。
「護衛……いや、この場合警備なのかしら?」
「まあ何にしても、何かを守る仕事って事か?」
「そんな感じ。とある大企業のお偉いさんに誘拐予告が出されちゃってね。それを阻止する為に複数のギルドに依頼を出して厳重に警備するらしいわ。で、それがウチにも回ってきた」
……成程。
「まあ大体分かったんだけど、大企業って事は相当金とか持ってんだよな? で、ウチのギルドはお前と俺しかいない上に、言っちゃなんだが弱小ギルド。お金持ちが雇う対象になるのかよ」
セオリーを考えれば普通は有名なギルドを集める事だろう。だとすればどうしてその中に俺達を加えるなんて事になるのだろうか。
「まあ普通はならないでしょうね。規模はどうであれギルドってのは結構乱立しちゃってるから数はある。私達を呼ぶくらいならランク持ちのギルドを呼ぶでしょ」
ランク持ちという聞きなれない単語は出てきたものの、話の腰を折ってまで聞く事でもない。今聞きたいのはそこでは無い。だからそれは後だ。
「じゃあ結局、なんで俺達が選ばれた」
「裕也のおかげとでも言っておこうかしら」
「俺のおかげ?」
「そう。昨日のロベルトとの戦いを目撃した人が居たみたいで、偶然裕也の情報が依頼主に届いたの。そこから情報屋経由でウチのギルドに辿りついたってわけ」
多分俺の事を把握してそうな人ってリーア位だから、そこに調査依頼を出したら知人だったって事だろうか。
まあ俺の情報の出所は別にいいんだ。
「でもそれだけで、そんな無名のギルドを探し当ててまで依頼するのか?」
「まあ微妙な所でしょうね。確かに裕也の活躍は功績って言っても良いかもしれないけれど、他のギルドはもっと数多くの功績を残している。たった良いかい勝ったくらいじゃ、きっとその差は覆せない。だけど今回に限っては、裕也の功績を考慮して依頼するに値すると思われたのかもしれないわ。事が事だから」
「というと?」
「その誘拐予告を出したのが、ロベルトなのよ」
……ああ、そういう事か。
俺はアイツを返り打ちにした。つまりはロベルトより強いと認識されている訳だ。
そんな中でロベルトが誘拐予告を出せば、依頼が来るのも一応頷ける。
「だから依頼主は裕也目当てで私達に依頼した。一応受けるとは言ったけれど……良かったわよね」
「当然だろ。断る理由はねえよ」
そもそもこのギルドのトップはアリスだ。アリスがやると言ったらやる。
それに、もしかするとこの一件に関わる事で俺の中のモヤモヤが解決するかもしれない。
だとしたら断る理由なんてどこにもねえよな。
「で、色々と詳しい詳細は?」
「詳細っていうと待遇とか? それはもう結構な額を提示されたわ。流石大企業!」
アリスがすごいニッコニコな笑顔でそう言うが、俺が聞きたいのはそうじゃない。いや、まあ確かにそれが一体どの位の額なのかは、先行きが不安な現状を考えると凄く知っておきたいのだけれど、今はそうじゃないんだ。
「いや、そういう事じゃなくてだな、当日の動きだとかの警備を行う上で必要な情報の詳細な」
「ああそっちね。それは後で律儀にも、説明に来てくれるらいいわ。電話で伝えられても警備に付く前に口頭ででもどっちでもよかったんだけど、あっちが一度お伺いしたいって」
「いつ来るんだ?」
「二時頃」
……まだ結構時間があるな。
「それまでどうする? 案内兼ねてまた何処かに行く?」
「いや、また何かに巻き込まれでもして間に合わなくなったらまずいだろ」
まあそうそう何かに巻き込まれるもんでもないと思うけども、無いとも言い切れないからな。
「そうね。じゃあ昨日一昨日と色々あったんだし、ゆっくりしてましょうか」
「そうだな。」
本当に、この世界に来てから色々ありすぎた。睡眠時以外にまともに休んだ記憶がねえ。
時間が空いたからと言って無理に動き回る必要なんてない。きっと日曜日のお父さんは大体こんな感じ。
「……そうだ」
まあこうして暇な時間ができた時こそ、さっきの疑問を解決しておくべきだ。
「ん? どうしたの?」
「ああ、ちょっと気になったんだけどさ……さっき話に出てきたランク持ちって何の事だ?」
なんとなく意味合いは予想できるが、それでも詳しい事が分からないのならギルドに所属している身としては聞いておくべきだ。
「そういえば話してなかったわね。じゃあ簡単に説明してあげるわ」
「よろしく頼む」
難しく説明されても困るからな。
「まずギルドとして活動するにはギルド協会に申請しなくちゃいけないの。そして登録した際に基本的にはDランクの称号が与えられる。そこから功績などに応じてランクは最高Sランクまで上がって行くの。ここまで聞いて分かったと思うけど、ランクっていうのはギルドの格付けみたいな物よ」
うん……まあ、大体予想通りの回答だったよ、ただ一か所を除いたら。
アリスの説明によれば、登録する事によってDランクが付与される。即ちDランクが最低ランクという事になるのだけれど……なんか引っ掛かる。
さっきまで俺は、最低ランクはそのランクすら貰えていない状態の事を指すと思っていた。なぜなら、アリスの言葉を考えるに、ウチのギルドはランクが与えられていない状態に思えるからだ。
つまり……どういう事だよ。
「えーっと、アリス。なんで俺達にはそのランクが与えられていないんだ?」
俺が単刀直入にそう言うと、アリスは言いにくそうに答える。
「言ったでしょ、基本的にはって。その基本から外れる例の一つが……そもそも正式にギルドを構成する為の最低人数に達していないとか」
「何人いるんだ?」
「最低五人」
……三人足りねえ。
「まあ協会の方が回してくれる様な仕事はDランクもランク無しもそんなに変わらないけど……協会を通さず直接依頼してくる人は、やっぱりランク付きに頼むでしょ」
だからあまり仕事が無いのよ、とアリスは肩を落として言う。
仕事が無い。活躍できない。宣伝できない。人来ない。故にランク上がらず仕事無い。なんだこの負のスパイラル。
……これ端から四人集めて結成しないと詰んでるんじゃないのか?
俺は思わずげんなりしそうになるが、それでも恐らく他のランク無しギルドと、このギルドは色々と違う。
一応アルドやリーアといった情報屋のバックアップを受けているし、今日、こうしてランク無しのギルドには来ない様な依頼も獲得できた。アリスがさっき言った通り軌道には乗っているんだ。
だからきっと、残り三人位集められる。
「まあ今はあんまり仕事ねえかもしれねえけどよ、今回の仕事でランク無しでも依頼が舞い込んでくる様に派手に活躍して依頼も人も集めて、さっさとDランクに上がっちまおうぜ。軌道に乗ってんだろ?」
「……そうね。軌道に乗ってるんだもん。なんとかなるわ」
そう言った後、アリスは気合いを入れるように笑みを浮かべてから俺に言う。
「じゃあ……次の仕事、頑張りましょ!」
「そうだな」
目の前の仕事は、俺のモヤモヤの事を取り除いたとしてもそう簡単にこなせる物じゃないだろう。それはきっとこれから先に受ける仕事だって変わらない。前途多難だ。
だけどギルドとして向かうべきところは把握した。
ならそこに全力で向かってみようじゃないか。
そしてその道のりで俺が付いた嘘の壁を壊せると思える様になればいい。胸を張って肩を並べられる様になればいい。
その為にまずは第一歩だ。
「絶対に成功させようぜ」
「おーッ!」
まだ詳しい話も聞いていない段階だけれど、こうして俺達のモチベーションは最高潮になったのだった。
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