一から始める異世界ギルド
22 予期せぬ再開
「いつ出てくるか分かんないんだから、気、抜かないでよ?」
「お前もな」
俺達は三階の廊下の一角で、そんなやり取りを交わす。
今回の作戦内容をざっくりと説明すると、こういう風になる。
まずはそれぞれ二人か三人で一グループを作る。まあこの辺りは格ギルドから駆り出されている人数がその位だから、今更作る必要などはなかったわけだけど。
そしてそうして構成されたグループの内、三分の二程は所定の位置についてロベルトを待ち構える手筈になっていて、残りは広い建物内を巡回する形になっている。
俺達は三階の東側にある渡り廊下担当。つまりは所定の位置について待ち構える方に振り分けられた訳だ。
そして警備に付く者にはそれぞれ赤い小さな宝石が埋め込まれた指輪が支給され、これが通信機代わりに作用するらしい。
そういやある程度サイズ調整できて誰にでも付けられるらしけどクマさ……あ、いや、キースの奴態々持参のチェーンに付けて首から下げてたな。指に入んねえのか……だとすればよく編み物なんて細かい事ができるな。なんかちょっと見学してみてえ。
……とままあ森のクマさんの話は置いておいて、作戦概要は思い返す限り以上となる。割とシンプルでフェイクの情報というのも警備ポイントがある程度本来のものとは違っていた位か。
「しかし三階まで来るかしら。周りは皆無茶苦茶強いギルドの人な訳だし、そう簡単には突破できないと思うけど……」
「まあ直接的な戦闘になったらそう簡単には上がってこれないだろ。戦闘が始まれば多分巡回組がそこに加勢に行くだろうしな。突破してくる事があるとすれば、そもそも戦闘を起こさない立ち回りをしてきた時か」
「うまく掻い潜るって事?」
「ああ。転移術式を抑え込む警備システムが働いているらしいから、そういう風に侵入してくることもないだろうし、窓外側に見えない魔術防壁が張り巡らされているから窓ガラスを破って侵入ってのも考えにくいからな。正面から正々堂々隠密行動って感じじゃね?」
自分で言っててなんだけど、正々堂々隠密行動ってなんだよ。堂々としちゃだめだろ……。
そして俺のそんな言葉を聞いたアリスは顎に手を添えて呟く。
「……だとしたら私達に出番って無いんじゃないかしら」
「客観的にみれば無い事が一番好ましいけど、それだと俺ら本当になんできたか分からないランク無しギルドで終わっちまうしな……」
「そうね。だったら来てくれた方がいいんじゃない? 早くここまで上がってきなさいロベルト!」
「いや、だからって突破される事を願っちゃ駄目だろ……」
軽くため息を付きながら、アリスにそう返した……次の瞬間だった。
「……え?」
目の前に、女の子が居た。
あのロベルトとの一件で、金髪の青年の叫びに応じたエリィという少女。
何もなかったその空間に、恐らく転移術式を使ってなんの前触れもなく唐突に彼女は現れたのだ。
「……ッ!」
この状況において、俺に何より足りなかったのは経験の二文字だったのだと思う。
転移術式は使ってこない筈なのにどうして使ってきたのかなんて事は分からなくても、突然現れた彼女
に即座に対応するべきだったのだ。
だけどそれができなかった。来る筈のないという認識。突然の状況の変貌に、脳と体が付いていかない。文字通り俺の目の前に現れたエリィという少女に対する反応が僅かに遅れる。
対するエリィは慣れていると言わんばかりにその手を俺に伸ばし、そして触れる。
触れさせてしまった。
それが転移術式を攻撃手段として扱う敵と相対した場合、致命的になるという事を知っていても。それでも触れられた。
そして一つの魔術が発動する。
間違いなくそれは転移術式。
「裕也から離れろッ!」
アリスがそんな事を叫んできっと何かの魔術を発動させたんだと思う。
だけど結果論でいえば、エリィと呼ばれた少女の方が早い。
そして俺の視界は白く染まった。
「……ッ!」
直後、視界に移っていた情景がスライドショーで写真が切り替わったかの如く変貌を遂げた。
転移術式。
そう認識してすぐに、僅かに宙に浮いていた俺の体は床に叩き付けられる。
「ってて……何処に飛ばされた?」
体を起して起き上りながら周囲を見渡すが、辺りには誰も居ない。本社の廊下である事は間違いない筈だから、警備と警備の間に落ちたのだろう。
それにしても……危なかった。
冷や汗を掻きながら息を付く。
転移術式は一見ただの移動手段に見えるかもしれないが、そんなに単純な物では無い。
あのエリィという少女が使った対象に触れて扱う転移術式。そしてアリスが使った様な範囲指定の転移術式。どちらも使い方を工夫すれば凶器へと変貌する。
そして俺は既にその恐怖をこの身で体験している。
佐原の使った転移術式ではない……アリスが使った脱出用の転移術式だ。
アリスの術はあの時、マナスポットのよる術式の効力の増強でコントロールが聞かなくなり、結果俺達は木の上に落ちるはめになった。
それだけである程度ダメージを負った訳だが、それがもしもっと高い高度からの落下だった場合、俺達はどうなっていた? 考えるだけ背筋が凍る。
そういう風にちょっとしたミス一つでそんな事態になりかねないのが転移術式だ。そして当然、それはミスではなく故意でも起こり得る。
今は飛ばされたのが屋内だったからよかったものの、そのまま窓の外に放り出されていたら危なかった。……いや、今の出力なら大丈夫か。以前の俺ならかなり危ないが今の俺なら三階程度から落ちても大丈夫。
だけどここが高層ビルの様な場所だったら、もう飛ばされた時点で絶体絶命という風になっていてもおかしくなかったんだ。完全に九死に一生という奴だ。
「しかしアリスの奴、大丈夫か?」
もう既に相手の姿を確認している状態だから、俺の様な不意打ちは喰らわないだろうけど……それでも心配だ。
「……とにかく戻るしかねえか」
まずここは何階のどの辺りなのだろうか。
俺はゆっくりと立ち上がって、窓の外の景色に視線を向ける。
そうして分かる事は此処が一階であると言いう事。
……しかしどうして窓の外に飛ばされなかったんだ?
ダメージ云々は置いておいても、その方が一時的にでも建物内にいる敵を減らす事が出来る。そうしなかった事に何か意図でもあるのか……もしくは、それができなかったのか。
というか今更だが何故転移術式で侵入できた。何がどうしてこんな事になっている?
「……まあいいや」
あまり良くないのだが、この際仕方がない。
俺がこれ以上考えた所で答えは出ない。そんな所は設備の技術者とかの問題であって、一介の魔術師……それも魔術の発展が遅れている世界の、さらに言えばプロでもない学生が考えた所で出てくる訳がないのだ。
だから今俺に出来る事は、とにかくアリスの元に戻る事。その過程でロベルト達と出くわしたら、周辺のギルドの連中と共に闘う事。その位だ。
そんな事を考えて歩き出そうとしたその時だった。
「あ、アレ? 裕也さん?」
俺の目の前の曲がり角から、こんな所に居る筈のない知り合いが出てきた。
「……ミラ?」
……なんでミラが此処に?
俺のそんな問いを口にする前に、ミラの方が俺に縋る様な声を掛けてきた。
「あの、えーっと、先日はありがとうございました」
ミラはそんな風に、此処で今何が起きているのかを何も知らない様に、俺に頭を下げる。
当然と言えば当然なのだが、関係者。即ち雇われたギルドの面々に元から居る警備員。加えてまだ内部に残っているハインズ製薬の人間が皆付けている指輪を、ミラは付けていない。
それでとりあえず、一つ分かった事がある。
……巻き込まれてる。
どうしてこんな事になっているのかは全くもって見当も付かないけれど、それでも確かにそれは言える。
「……って、どうしました? そんな難しい顔して」
「どうしたっていうか……なんでこんな事になってるんだろうなぁ」
ちょっと面倒な事になってきた。
俺はそんな思いでため息を付いた。
「お前もな」
俺達は三階の廊下の一角で、そんなやり取りを交わす。
今回の作戦内容をざっくりと説明すると、こういう風になる。
まずはそれぞれ二人か三人で一グループを作る。まあこの辺りは格ギルドから駆り出されている人数がその位だから、今更作る必要などはなかったわけだけど。
そしてそうして構成されたグループの内、三分の二程は所定の位置についてロベルトを待ち構える手筈になっていて、残りは広い建物内を巡回する形になっている。
俺達は三階の東側にある渡り廊下担当。つまりは所定の位置について待ち構える方に振り分けられた訳だ。
そして警備に付く者にはそれぞれ赤い小さな宝石が埋め込まれた指輪が支給され、これが通信機代わりに作用するらしい。
そういやある程度サイズ調整できて誰にでも付けられるらしけどクマさ……あ、いや、キースの奴態々持参のチェーンに付けて首から下げてたな。指に入んねえのか……だとすればよく編み物なんて細かい事ができるな。なんかちょっと見学してみてえ。
……とままあ森のクマさんの話は置いておいて、作戦概要は思い返す限り以上となる。割とシンプルでフェイクの情報というのも警備ポイントがある程度本来のものとは違っていた位か。
「しかし三階まで来るかしら。周りは皆無茶苦茶強いギルドの人な訳だし、そう簡単には突破できないと思うけど……」
「まあ直接的な戦闘になったらそう簡単には上がってこれないだろ。戦闘が始まれば多分巡回組がそこに加勢に行くだろうしな。突破してくる事があるとすれば、そもそも戦闘を起こさない立ち回りをしてきた時か」
「うまく掻い潜るって事?」
「ああ。転移術式を抑え込む警備システムが働いているらしいから、そういう風に侵入してくることもないだろうし、窓外側に見えない魔術防壁が張り巡らされているから窓ガラスを破って侵入ってのも考えにくいからな。正面から正々堂々隠密行動って感じじゃね?」
自分で言っててなんだけど、正々堂々隠密行動ってなんだよ。堂々としちゃだめだろ……。
そして俺のそんな言葉を聞いたアリスは顎に手を添えて呟く。
「……だとしたら私達に出番って無いんじゃないかしら」
「客観的にみれば無い事が一番好ましいけど、それだと俺ら本当になんできたか分からないランク無しギルドで終わっちまうしな……」
「そうね。だったら来てくれた方がいいんじゃない? 早くここまで上がってきなさいロベルト!」
「いや、だからって突破される事を願っちゃ駄目だろ……」
軽くため息を付きながら、アリスにそう返した……次の瞬間だった。
「……え?」
目の前に、女の子が居た。
あのロベルトとの一件で、金髪の青年の叫びに応じたエリィという少女。
何もなかったその空間に、恐らく転移術式を使ってなんの前触れもなく唐突に彼女は現れたのだ。
「……ッ!」
この状況において、俺に何より足りなかったのは経験の二文字だったのだと思う。
転移術式は使ってこない筈なのにどうして使ってきたのかなんて事は分からなくても、突然現れた彼女
に即座に対応するべきだったのだ。
だけどそれができなかった。来る筈のないという認識。突然の状況の変貌に、脳と体が付いていかない。文字通り俺の目の前に現れたエリィという少女に対する反応が僅かに遅れる。
対するエリィは慣れていると言わんばかりにその手を俺に伸ばし、そして触れる。
触れさせてしまった。
それが転移術式を攻撃手段として扱う敵と相対した場合、致命的になるという事を知っていても。それでも触れられた。
そして一つの魔術が発動する。
間違いなくそれは転移術式。
「裕也から離れろッ!」
アリスがそんな事を叫んできっと何かの魔術を発動させたんだと思う。
だけど結果論でいえば、エリィと呼ばれた少女の方が早い。
そして俺の視界は白く染まった。
「……ッ!」
直後、視界に移っていた情景がスライドショーで写真が切り替わったかの如く変貌を遂げた。
転移術式。
そう認識してすぐに、僅かに宙に浮いていた俺の体は床に叩き付けられる。
「ってて……何処に飛ばされた?」
体を起して起き上りながら周囲を見渡すが、辺りには誰も居ない。本社の廊下である事は間違いない筈だから、警備と警備の間に落ちたのだろう。
それにしても……危なかった。
冷や汗を掻きながら息を付く。
転移術式は一見ただの移動手段に見えるかもしれないが、そんなに単純な物では無い。
あのエリィという少女が使った対象に触れて扱う転移術式。そしてアリスが使った様な範囲指定の転移術式。どちらも使い方を工夫すれば凶器へと変貌する。
そして俺は既にその恐怖をこの身で体験している。
佐原の使った転移術式ではない……アリスが使った脱出用の転移術式だ。
アリスの術はあの時、マナスポットのよる術式の効力の増強でコントロールが聞かなくなり、結果俺達は木の上に落ちるはめになった。
それだけである程度ダメージを負った訳だが、それがもしもっと高い高度からの落下だった場合、俺達はどうなっていた? 考えるだけ背筋が凍る。
そういう風にちょっとしたミス一つでそんな事態になりかねないのが転移術式だ。そして当然、それはミスではなく故意でも起こり得る。
今は飛ばされたのが屋内だったからよかったものの、そのまま窓の外に放り出されていたら危なかった。……いや、今の出力なら大丈夫か。以前の俺ならかなり危ないが今の俺なら三階程度から落ちても大丈夫。
だけどここが高層ビルの様な場所だったら、もう飛ばされた時点で絶体絶命という風になっていてもおかしくなかったんだ。完全に九死に一生という奴だ。
「しかしアリスの奴、大丈夫か?」
もう既に相手の姿を確認している状態だから、俺の様な不意打ちは喰らわないだろうけど……それでも心配だ。
「……とにかく戻るしかねえか」
まずここは何階のどの辺りなのだろうか。
俺はゆっくりと立ち上がって、窓の外の景色に視線を向ける。
そうして分かる事は此処が一階であると言いう事。
……しかしどうして窓の外に飛ばされなかったんだ?
ダメージ云々は置いておいても、その方が一時的にでも建物内にいる敵を減らす事が出来る。そうしなかった事に何か意図でもあるのか……もしくは、それができなかったのか。
というか今更だが何故転移術式で侵入できた。何がどうしてこんな事になっている?
「……まあいいや」
あまり良くないのだが、この際仕方がない。
俺がこれ以上考えた所で答えは出ない。そんな所は設備の技術者とかの問題であって、一介の魔術師……それも魔術の発展が遅れている世界の、さらに言えばプロでもない学生が考えた所で出てくる訳がないのだ。
だから今俺に出来る事は、とにかくアリスの元に戻る事。その過程でロベルト達と出くわしたら、周辺のギルドの連中と共に闘う事。その位だ。
そんな事を考えて歩き出そうとしたその時だった。
「あ、アレ? 裕也さん?」
俺の目の前の曲がり角から、こんな所に居る筈のない知り合いが出てきた。
「……ミラ?」
……なんでミラが此処に?
俺のそんな問いを口にする前に、ミラの方が俺に縋る様な声を掛けてきた。
「あの、えーっと、先日はありがとうございました」
ミラはそんな風に、此処で今何が起きているのかを何も知らない様に、俺に頭を下げる。
当然と言えば当然なのだが、関係者。即ち雇われたギルドの面々に元から居る警備員。加えてまだ内部に残っているハインズ製薬の人間が皆付けている指輪を、ミラは付けていない。
それでとりあえず、一つ分かった事がある。
……巻き込まれてる。
どうしてこんな事になっているのかは全くもって見当も付かないけれど、それでも確かにそれは言える。
「……って、どうしました? そんな難しい顔して」
「どうしたっていうか……なんでこんな事になってるんだろうなぁ」
ちょっと面倒な事になってきた。
俺はそんな思いでため息を付いた。
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