ハッピーバレンタイン

ハッピーバレンタイン

「俺からも、はい」
 彼から唐突に渡されたのは両手に乗るほどの大きさの包み。丁寧にラッピングされたピンクのそれはバレンタインのプレゼントだった。
 私があげた手作りのチョコをおいしそうに食べてくれる彼は、開けてみて、と目だけで私に訴える。付き合って長い間柄の私たちだけど、こんな風にバレンタインに私になにかをしてくれたことがないので、心底ビックリしている。なんかの夢?
 少し緊張しながらゆっくりとリボンをほどき、破れないように包装紙を解いていく。箱の中にはハートの形のチョコレート。プレートが乗せられていて、白い文字に私は言葉を失う。
「WILL YOU MARRY ME?」
 信じられなくて、彼とチョコを交互に何度も見る私。彼は照れくさそうに顔を赤らめて目を反らした。
「プロポーズくらい、ちょっとカッコつけとこうかと思って」
「……カッコつけすぎ」
 自然と涙が溢れてくる。幸せな気持ちで涙が出てくるなんて、人生で初めてだった。
 普段は恥ずかしがり屋な彼がこんなことをするなんて思いもしなかったし、まさかのプロポーズつき。
「返事は、それ食べてから決めて」
 彼の意味深な言葉、私は泣きながらチョコを食べ進めた。半ばまで食べたとき、きらりと中に光るものを見つけて凝視する。細くて円形の形のそれは、
「指輪……?」
 独り言のように呟いた私の声を、いつにない優しい彼の声が拾い上げてくれた。
「とことん恥ずかしいことしたくなって。結構入れるの大変なんだな、チョコなんて初めて作った」
 照れ隠しに笑う彼に、私はそっと抱き着いた。
「ありがとう。よろしくお願いします」
「全部食べてからで良いって……」
「食べなくても返事は最初から決まってる」
 後か後から溢れてくる涙は、涙腺が壊れたように止まらない。彼はぎこちない仕草で私の涙をそっと拭った。
「待たせてごめんな。それとありがとう」
「私こそ……選んでくれてありがとう」
 彼と過ごす10回目のバレンタインは、最高のバレンタインになった。
 そっとキスすると、二人とも甘いチョコレートの味がした。

コメント

  • ノベルバユーザー599850

    物語としても面白くドンドン引き込まれていきました。
    ハッピーエンドで終わってるので読ませてもらいました。
    投稿ありがとうございました。

    0
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