ILIAD ~幻影の彼方~
107 仲間の想い
「みんな……」
セトルの前にフラードルに置いてきたはずの仲間たちが集合した。皆が皆、一人で勝手に向かったセトルに対し怒りの表情を――ではなく心配そうな顔をしていた。
サニーがセトルの前に立つ。
「サニー……!?」
パァン!!
聞くだけでも痛みを覚えてしまいそうな音が神殿内に強く反響した。サニーがセトルの頬に平手打ちをくらわしたのだ。セトルは当然として、そこにいた誰もが彼女の行動に目を見開いた。
「セトル、何で一人で行っちゃうのよ!」
俯いたサニーが震えるほど拳を強く握り締めて今にも泣きそうな声で言う。セトルは赤く腫れた頬をさすりながら顔を伏せる。
「それは言ったはず――」
「我々を危険な目に遭わせたくない。今さら何を言っているのですか」
間髪入れずにウェスターが怒りを交えて言う。
「私たちは覚悟を決めてここにいるのです。あなたは皆の覚悟を踏みにじっているのですよ」
「……」
セトルは黙った。それはわかっているから言い返せない。
「って、よく見れば何でノックスがここにいるんや!? ついでにその怪我は?」
しぐれが壁に凭れかかっているノックスに気づいてどこか大げさにびっくりする。
「ははは、やっぱりしぐれ君が一番に気づいてくれたよ。それよりシャルン君、『ヒール』をかけて欲しいんだけど」
大怪我をしているノックスに頼まれ、シャルンは頷いてすぐに彼の治療を始めた。その間にノックスはここで起こったことを皆に説明した。
「そいつは大手柄だったぜ、ノックス♪」
話を聞いたアランがまだ治療中のノックスの肩をバンバンと叩いた。
「い、痛い痛い……アラン君、もっと優しくしてくれないかな」
叩かれることについては受け入れている。
「バカ」
とそのやり取りを見ていたシャルンは小さく呟いた。
その横で、セトルはサニーの説教を延々と受けていた。
「あたしがどれだけ心配したと思ってんのよ!」
「だから、ごめん……」
「バカだよ……セトルはバカ。バカ、バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」
遂には泣きだし、彼女はセトルの胸を鎧越しに何度も叩き始める。
「あーあ、泣かした。お兄さんも殴りたかったけど、サニーがみんなの分殴ってるから勘弁してやるよ」
アランがセトルの頭に手を置き、くしゃくしゃと銀髪を掻き乱す。
「今度勝手なことをしたら許さないわよ」
シャルンの冷たい視線が突き刺さる。しぐれが頷いた。
「せや、セトルはセトルだけのもんやないんやから。もう一人で行くなんて言わんといて」
セトルは皆を見回した。心配そうだった顔は消え去り、その下にあった怒りが浮き上がってきている。
「フフ、セトル君。これでもまだ一人で向かうつもりなのかな?」
ノックスが勝ち誇った笑みをセトルに向ける。戦いには負けはしたが、結果的には彼の勝ちである。
セトルは少し間を置いて答えた。
「いや、そんなことしたらサニーに殺されちゃうよ。わかった、みんなで行こう。その代り約束して欲しい。絶対に無茶はしないでくれ」
「その約束はあなたもしてもらいたいですね」
ウェスターが肩を竦めてセトルにもその約束をさせようとする。セトルはしぶしぶな感じで、わかった、と頷いた。
「あなたも来るの?」
シャルンがノックスを見る。
「ん~、行きたいけど、セトル君との戦いでボロボロなボクは足手纏いかな。遠慮するよ。ああ、セトル君、フラードルまでお願い」
ノックスは珍しく断ると、いつもの顔でセトルに言う。転移させろということだろう。セトルは仕方ないと言った様子で息をつき、ノックスを中心に転移陣を展開させる。
「それじゃあ、みんなー御達者で! ボクは君たちのこと忘れないよ♪」
「縁起悪いこと言うなや!」
いつも通りしぐれがつっこんだところで、ノックスは輝きと共に消えていった。
それを見送ってセトルたちは中心に描かれてある陣に歩み寄る。
「この中心に神剣を刺せば、テューレンへの道が開くんだよね」
『その通りだ』
ピアリオンに確認を取り、セトルは神剣ミスティルテインを抜いた。そして皆を振り返る。
「みんな、覚悟はいいかい?」
セトルの最後の問いかけに、皆は順番に答えていく。
「うちはアキナの代表や。絶対に世界を分けさせへん。ひさめもそれを望んでるはずや」
しぐれに続いてウェスターが言う。
「そうですね。なら私は今だけ軍代表になりましょうか。ワースのバカげた行為を止めてみせます」
続いてシャルン。
「わたしは王女として世界を、みんなを守らないといけない。そう、決めたから」
「俺はどこだってついて行ってやるぜ。お前を守って、道を開けてやるのは俺の役目だ」
アランが言った後、最後に涙を拭いたサニーが明るい笑顔を見せながら言う。
「セトル、あたしたちは帰るために行くの。絶対、一緒に帰ろうね」
「うん」
皆の覚悟を聞き、セトルは陣に向き直って神剣を高く掲げた。そして勢いよく中心に開いた穴の中に剣を差し込む。すると、中心から描かれた文様に沿って輝きが走り、立派な転移霊術陣となって神殿内を青白く照らす。
「僕は絶対に兄さんを止めてみせる。みんな、行こう!」
おー! とときの声を上げる皆を陣の輝きが包み、六つの光が天に向かって飛び上がるように消えていった。
セトルの前にフラードルに置いてきたはずの仲間たちが集合した。皆が皆、一人で勝手に向かったセトルに対し怒りの表情を――ではなく心配そうな顔をしていた。
サニーがセトルの前に立つ。
「サニー……!?」
パァン!!
聞くだけでも痛みを覚えてしまいそうな音が神殿内に強く反響した。サニーがセトルの頬に平手打ちをくらわしたのだ。セトルは当然として、そこにいた誰もが彼女の行動に目を見開いた。
「セトル、何で一人で行っちゃうのよ!」
俯いたサニーが震えるほど拳を強く握り締めて今にも泣きそうな声で言う。セトルは赤く腫れた頬をさすりながら顔を伏せる。
「それは言ったはず――」
「我々を危険な目に遭わせたくない。今さら何を言っているのですか」
間髪入れずにウェスターが怒りを交えて言う。
「私たちは覚悟を決めてここにいるのです。あなたは皆の覚悟を踏みにじっているのですよ」
「……」
セトルは黙った。それはわかっているから言い返せない。
「って、よく見れば何でノックスがここにいるんや!? ついでにその怪我は?」
しぐれが壁に凭れかかっているノックスに気づいてどこか大げさにびっくりする。
「ははは、やっぱりしぐれ君が一番に気づいてくれたよ。それよりシャルン君、『ヒール』をかけて欲しいんだけど」
大怪我をしているノックスに頼まれ、シャルンは頷いてすぐに彼の治療を始めた。その間にノックスはここで起こったことを皆に説明した。
「そいつは大手柄だったぜ、ノックス♪」
話を聞いたアランがまだ治療中のノックスの肩をバンバンと叩いた。
「い、痛い痛い……アラン君、もっと優しくしてくれないかな」
叩かれることについては受け入れている。
「バカ」
とそのやり取りを見ていたシャルンは小さく呟いた。
その横で、セトルはサニーの説教を延々と受けていた。
「あたしがどれだけ心配したと思ってんのよ!」
「だから、ごめん……」
「バカだよ……セトルはバカ。バカ、バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!!」
遂には泣きだし、彼女はセトルの胸を鎧越しに何度も叩き始める。
「あーあ、泣かした。お兄さんも殴りたかったけど、サニーがみんなの分殴ってるから勘弁してやるよ」
アランがセトルの頭に手を置き、くしゃくしゃと銀髪を掻き乱す。
「今度勝手なことをしたら許さないわよ」
シャルンの冷たい視線が突き刺さる。しぐれが頷いた。
「せや、セトルはセトルだけのもんやないんやから。もう一人で行くなんて言わんといて」
セトルは皆を見回した。心配そうだった顔は消え去り、その下にあった怒りが浮き上がってきている。
「フフ、セトル君。これでもまだ一人で向かうつもりなのかな?」
ノックスが勝ち誇った笑みをセトルに向ける。戦いには負けはしたが、結果的には彼の勝ちである。
セトルは少し間を置いて答えた。
「いや、そんなことしたらサニーに殺されちゃうよ。わかった、みんなで行こう。その代り約束して欲しい。絶対に無茶はしないでくれ」
「その約束はあなたもしてもらいたいですね」
ウェスターが肩を竦めてセトルにもその約束をさせようとする。セトルはしぶしぶな感じで、わかった、と頷いた。
「あなたも来るの?」
シャルンがノックスを見る。
「ん~、行きたいけど、セトル君との戦いでボロボロなボクは足手纏いかな。遠慮するよ。ああ、セトル君、フラードルまでお願い」
ノックスは珍しく断ると、いつもの顔でセトルに言う。転移させろということだろう。セトルは仕方ないと言った様子で息をつき、ノックスを中心に転移陣を展開させる。
「それじゃあ、みんなー御達者で! ボクは君たちのこと忘れないよ♪」
「縁起悪いこと言うなや!」
いつも通りしぐれがつっこんだところで、ノックスは輝きと共に消えていった。
それを見送ってセトルたちは中心に描かれてある陣に歩み寄る。
「この中心に神剣を刺せば、テューレンへの道が開くんだよね」
『その通りだ』
ピアリオンに確認を取り、セトルは神剣ミスティルテインを抜いた。そして皆を振り返る。
「みんな、覚悟はいいかい?」
セトルの最後の問いかけに、皆は順番に答えていく。
「うちはアキナの代表や。絶対に世界を分けさせへん。ひさめもそれを望んでるはずや」
しぐれに続いてウェスターが言う。
「そうですね。なら私は今だけ軍代表になりましょうか。ワースのバカげた行為を止めてみせます」
続いてシャルン。
「わたしは王女として世界を、みんなを守らないといけない。そう、決めたから」
「俺はどこだってついて行ってやるぜ。お前を守って、道を開けてやるのは俺の役目だ」
アランが言った後、最後に涙を拭いたサニーが明るい笑顔を見せながら言う。
「セトル、あたしたちは帰るために行くの。絶対、一緒に帰ろうね」
「うん」
皆の覚悟を聞き、セトルは陣に向き直って神剣を高く掲げた。そして勢いよく中心に開いた穴の中に剣を差し込む。すると、中心から描かれた文様に沿って輝きが走り、立派な転移霊術陣となって神殿内を青白く照らす。
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