ILIAD ~幻影の彼方~
101 二本目の神剣
セイルクラフトで聖森スルトまで行き、セトルたちはうっそうと茂る森の、神秘的な空気を感じながら道なき道を歩いている。
先頭をノックスが歩き、後ろの二人を導く。そのノックスに、セトルは訊いておきたいことが一つあった。
「語り部は、関わらないんじゃなかったっけ?」
すると、ノックスはニコニコと笑いながら体ごとこちらを向き、そのまま後ろ向きに歩く。
「直接にはだよ、セトル君。それにボクが語るのなら、逆転勝利みたいな美しく素晴らしく面白い話の方がいいんだ」
両手を広げて楽しそうに笑うノックス。彼らしい考えだが、はたしてそれでいいのか? とセトルは思った。
「ほら、見えてきたよ」
前を向いたノックスが指差す。そこには周囲の木々の五分の一程度の高さの石碑があった。近くまで行き、よく観察すると、石碑にはエスレーラ言語ともムスペイル言語とも違う見たことのない文字の羅列が刻まれていた。
「ふむ、この石碑からも不思議な力を感じますね」
ウェスターが顎に手を持っていって文字の意味を探ろうと顔を近づけた。その時――
『フ、面白い者たちが来たな。そこの霊剣士、霊剣を石碑の前に掲げろ』
頭の中に若い男性の声が響く。そのような事態はもう慣れているが、口調がどこか他の精霊たちよりも砕けている。セトルはその予想外の口調に慌てることもなく、言われた通り折れたレーヴァテインを石碑の前に掲げた。すると、霊剣は宙に浮き上がり、強い光を放つ。
その眩さに目を庇っていると、再びあの声が頭の中に直接流れ込んでくる。
『ここへ来たということは、私の力が必要となったということだな』
光が消え、セトルたちが目を開けると、そこには無色の輝きが浮いているレーヴァテインの上にあった。
それがだんだんと姿を変えていく。
輝くような金髪の美男子で、奇怪な紋様が描かれてある白い神衣を着ている。その下は真紅の服に黒いスパッツ、厚いブーツを履いている。一見、人と何ら変わりないような容姿だが、彼が人ではないことは、宙に浮いていることと全体的に薄ぼんやりと輝いていることでわかる。
絶対的な存在感、それは神々しいの一言だった。
「あなたが精霊神ピアリオンですね?」
ウェスターが確認の意味で訊くと、
「違うな」
と精霊は答えた。その声は、耳で聞こえていても頭に響いているように感じられるものだった。
「?」
誰もが、ノックスまでもが精霊の言葉に眉を顰める。
「確かに私はこの世界では『ピアリオン』と呼ばれているが、『神』ではない。私は『王』だ。お前たちの言い方ではつまり『精霊王』ということになる。ああ、だが安心しろ、神なんかよりずっと格上だ」
「……」
何を言っているんだこの精霊は。セトルはこの精霊に呆れてしまった。たぶん、こんなことは普通一生ありえないことだろう。ただ、言っていることが嘘か真かはわからないが、彼にはそう言うだけの力があるように感じる。
ルビー色の瞳がレーヴァテインを捉える。
「折れた霊剣からすると、神剣を求めてここへ来たようだな」
「はい」
セトルが頷くと、ピアリオンは薄く微笑んだ。
「ならば問おう。お前はなぜ神剣を欲する?」
「兄さんと対等に向き合うため、その力として神剣の力が必要なんです」
「お前の兄……なるほど、ガルワースのことだな。お前は、奴がしていることが間違いと思うか?」
「それは、わかりません。少し前までは、そう思っていました。だけど、兄さんに負けて、僕の方が間違いだったのかもと思ったりもしました。でも、それでも、僕の考えは変わりません。どちらが正しいかは、今決められることじゃないから。戦いが終わった後が全ての始まり。そこから世界を正しい方向に導くのが、僕たちの役目だと思います」
「割りと好きな答えだ。……最後の問いだ。お前はこの世界が好きか?」
「はい」
セトルは大きく、力強く頷いた。それを見て、ノックスとウェスターが微笑む。ピアリオンは、そうか、と言って満足げな顔をする。
「ダイヤモンドを出せ」
「え!?」
セトルは思わず驚きの声を上げた。てっきり力を見せるために戦わなければならないと思っていた。だが、この後かもしれないと覚悟を決めつつ、ダイヤモンドをピアリオンに差し出す。
ピアリオンがセトルの心を読んだかのように言う。
「安心しろ。今は力を見せる必要はない。時間もないようだし、元より、霊剣がこれでは戦いようがないだろう?」
それを聞いてほっとするセトルを見て、ピアリオンは僅かに口元を吊り上げ、そして真剣な顔になって宙に浮かしてある霊剣とダイヤモンドに両手を翳す。
「では、始めるぞ。少し下がってろ」
言われた通り、セトルたち三人は数歩下がった。
と、ピアリオンの両手の先、剣と精霊石に輝きの爆発が起こる。とても目を開けていられるような光ではない。目を瞑っても、庇っても、光は入りこんでくる。だが、不思議と痛くはない。
そして、前方に凄まじい力の渦を感じた。
見えないのだが、なぜかはっきりと目の前で起こっている状況がわかる。この輝きが渦巻き、その中心にレーヴァテインとダイヤモンドがある。やがてその二つも光の粒子に還元され、再び集まって一つの、剣の形をした輝きになる。
もう、大丈夫だ。光が薄れ、セトルたちはゆっくりと目を開いた。
「あ……」
輝く剣が次第にその姿をはっきりさせていく。精霊石(たぶんダイヤモンド)が鏤められている洗練された両刃剣。つい目を奪われてしまいそうなほど美しく、レーヴァテインのときとは比べものにならない強い力を感じる。
それが、ゆっくりとセトルの前に降りてくる。セトルがそれを手に取ると、自分の中に凄まじい力が流れ込んでくるのを感じた。それは一瞬のことで、すぐに剣を見詰める。
「これが、神剣……」
見た目よりもずっと軽く、そして何年も使い込んでいるように手に馴染む。
「〝神剣〟ミスティルテイン。それがこの神剣の名だ。私がたった今つけてやった」
「……」
余計なことを言わなければ、と思いながらセトルは数回振ってみた。やはり、まるで自分の体の一部のようにしっくり馴染んでいる。
すると、ピアリオンが一つの提案を出してきた。
「そっちの眼鏡は召喚士だな。どうだ、私と契約をしないか? 召喚術でならお前たちの力になることができるぞ? それに、私と契約することで神剣もさらに強力になる」
「いいのですか?」
ウェスターが訊くと、ピアリオンは口元を緩ませる。
「私はテュールの意志とは別の次元の存在だ。だが、世界を分かてば、私の世界にも被害が及ぶのだ。わかっていると思うが、契約をするということは儀式として力を見せてもらう必要がある。お前たちの時間は限られているが、どうする?」
ウェスターはセトルを見た。今の決定権は彼にあるのだ。
「契約しよう。僕には少しでも力が欲しいし。それに、たぶんすぐ終わるから」
セトルは神剣をチラリと見、そしてピアリオンを向く。
「この私を前にたいした自信だな。いいのか?」
「はい」
セトルは返事をすると、今しがた手に入れた神剣を構える。後ろでウェスターも槍を構築した。
「相手は精霊神、いや、精霊王だったか。フフ、甘く見ない方がいいよ、セトル君」
と言うノックスは何も構えていない。この戦闘には不参加するつもりなのだろうか? だが、それはそれで今のセトルからすれば問題なかった。
「まあ、ボクも援護くらいはできると思うから、存分に戦うといいさ♪」
不参加ではないようだ。彼はゆっくりと銃をホルスターから抜く。
「準備はいいか? 始めるぞ。手加減はしてやるつもりだ」
先頭をノックスが歩き、後ろの二人を導く。そのノックスに、セトルは訊いておきたいことが一つあった。
「語り部は、関わらないんじゃなかったっけ?」
すると、ノックスはニコニコと笑いながら体ごとこちらを向き、そのまま後ろ向きに歩く。
「直接にはだよ、セトル君。それにボクが語るのなら、逆転勝利みたいな美しく素晴らしく面白い話の方がいいんだ」
両手を広げて楽しそうに笑うノックス。彼らしい考えだが、はたしてそれでいいのか? とセトルは思った。
「ほら、見えてきたよ」
前を向いたノックスが指差す。そこには周囲の木々の五分の一程度の高さの石碑があった。近くまで行き、よく観察すると、石碑にはエスレーラ言語ともムスペイル言語とも違う見たことのない文字の羅列が刻まれていた。
「ふむ、この石碑からも不思議な力を感じますね」
ウェスターが顎に手を持っていって文字の意味を探ろうと顔を近づけた。その時――
『フ、面白い者たちが来たな。そこの霊剣士、霊剣を石碑の前に掲げろ』
頭の中に若い男性の声が響く。そのような事態はもう慣れているが、口調がどこか他の精霊たちよりも砕けている。セトルはその予想外の口調に慌てることもなく、言われた通り折れたレーヴァテインを石碑の前に掲げた。すると、霊剣は宙に浮き上がり、強い光を放つ。
その眩さに目を庇っていると、再びあの声が頭の中に直接流れ込んでくる。
『ここへ来たということは、私の力が必要となったということだな』
光が消え、セトルたちが目を開けると、そこには無色の輝きが浮いているレーヴァテインの上にあった。
それがだんだんと姿を変えていく。
輝くような金髪の美男子で、奇怪な紋様が描かれてある白い神衣を着ている。その下は真紅の服に黒いスパッツ、厚いブーツを履いている。一見、人と何ら変わりないような容姿だが、彼が人ではないことは、宙に浮いていることと全体的に薄ぼんやりと輝いていることでわかる。
絶対的な存在感、それは神々しいの一言だった。
「あなたが精霊神ピアリオンですね?」
ウェスターが確認の意味で訊くと、
「違うな」
と精霊は答えた。その声は、耳で聞こえていても頭に響いているように感じられるものだった。
「?」
誰もが、ノックスまでもが精霊の言葉に眉を顰める。
「確かに私はこの世界では『ピアリオン』と呼ばれているが、『神』ではない。私は『王』だ。お前たちの言い方ではつまり『精霊王』ということになる。ああ、だが安心しろ、神なんかよりずっと格上だ」
「……」
何を言っているんだこの精霊は。セトルはこの精霊に呆れてしまった。たぶん、こんなことは普通一生ありえないことだろう。ただ、言っていることが嘘か真かはわからないが、彼にはそう言うだけの力があるように感じる。
ルビー色の瞳がレーヴァテインを捉える。
「折れた霊剣からすると、神剣を求めてここへ来たようだな」
「はい」
セトルが頷くと、ピアリオンは薄く微笑んだ。
「ならば問おう。お前はなぜ神剣を欲する?」
「兄さんと対等に向き合うため、その力として神剣の力が必要なんです」
「お前の兄……なるほど、ガルワースのことだな。お前は、奴がしていることが間違いと思うか?」
「それは、わかりません。少し前までは、そう思っていました。だけど、兄さんに負けて、僕の方が間違いだったのかもと思ったりもしました。でも、それでも、僕の考えは変わりません。どちらが正しいかは、今決められることじゃないから。戦いが終わった後が全ての始まり。そこから世界を正しい方向に導くのが、僕たちの役目だと思います」
「割りと好きな答えだ。……最後の問いだ。お前はこの世界が好きか?」
「はい」
セトルは大きく、力強く頷いた。それを見て、ノックスとウェスターが微笑む。ピアリオンは、そうか、と言って満足げな顔をする。
「ダイヤモンドを出せ」
「え!?」
セトルは思わず驚きの声を上げた。てっきり力を見せるために戦わなければならないと思っていた。だが、この後かもしれないと覚悟を決めつつ、ダイヤモンドをピアリオンに差し出す。
ピアリオンがセトルの心を読んだかのように言う。
「安心しろ。今は力を見せる必要はない。時間もないようだし、元より、霊剣がこれでは戦いようがないだろう?」
それを聞いてほっとするセトルを見て、ピアリオンは僅かに口元を吊り上げ、そして真剣な顔になって宙に浮かしてある霊剣とダイヤモンドに両手を翳す。
「では、始めるぞ。少し下がってろ」
言われた通り、セトルたち三人は数歩下がった。
と、ピアリオンの両手の先、剣と精霊石に輝きの爆発が起こる。とても目を開けていられるような光ではない。目を瞑っても、庇っても、光は入りこんでくる。だが、不思議と痛くはない。
そして、前方に凄まじい力の渦を感じた。
見えないのだが、なぜかはっきりと目の前で起こっている状況がわかる。この輝きが渦巻き、その中心にレーヴァテインとダイヤモンドがある。やがてその二つも光の粒子に還元され、再び集まって一つの、剣の形をした輝きになる。
もう、大丈夫だ。光が薄れ、セトルたちはゆっくりと目を開いた。
「あ……」
輝く剣が次第にその姿をはっきりさせていく。精霊石(たぶんダイヤモンド)が鏤められている洗練された両刃剣。つい目を奪われてしまいそうなほど美しく、レーヴァテインのときとは比べものにならない強い力を感じる。
それが、ゆっくりとセトルの前に降りてくる。セトルがそれを手に取ると、自分の中に凄まじい力が流れ込んでくるのを感じた。それは一瞬のことで、すぐに剣を見詰める。
「これが、神剣……」
見た目よりもずっと軽く、そして何年も使い込んでいるように手に馴染む。
「〝神剣〟ミスティルテイン。それがこの神剣の名だ。私がたった今つけてやった」
「……」
余計なことを言わなければ、と思いながらセトルは数回振ってみた。やはり、まるで自分の体の一部のようにしっくり馴染んでいる。
すると、ピアリオンが一つの提案を出してきた。
「そっちの眼鏡は召喚士だな。どうだ、私と契約をしないか? 召喚術でならお前たちの力になることができるぞ? それに、私と契約することで神剣もさらに強力になる」
「いいのですか?」
ウェスターが訊くと、ピアリオンは口元を緩ませる。
「私はテュールの意志とは別の次元の存在だ。だが、世界を分かてば、私の世界にも被害が及ぶのだ。わかっていると思うが、契約をするということは儀式として力を見せてもらう必要がある。お前たちの時間は限られているが、どうする?」
ウェスターはセトルを見た。今の決定権は彼にあるのだ。
「契約しよう。僕には少しでも力が欲しいし。それに、たぶんすぐ終わるから」
セトルは神剣をチラリと見、そしてピアリオンを向く。
「この私を前にたいした自信だな。いいのか?」
「はい」
セトルは返事をすると、今しがた手に入れた神剣を構える。後ろでウェスターも槍を構築した。
「相手は精霊神、いや、精霊王だったか。フフ、甘く見ない方がいいよ、セトル君」
と言うノックスは何も構えていない。この戦闘には不参加するつもりなのだろうか? だが、それはそれで今のセトルからすれば問題なかった。
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