ILIAD ~幻影の彼方~
100 新たなる剣
負けた……一太刀も与えられなかった。
圧倒的な実力差。
……勝てるわけがなかった。
オレは死んだのかな?
(……セトル……)
初めて兄さんに反発した結果がこれだ。
(……セトル……)
目の前が真っ暗だ。何も見えない。もう、世界は分断されたかな? でも、オレにはどうすることもできない。
(……セトル……)
? 誰?
(……セトル)
さっきから……セトル? 僕の名前!?
「セトル!」
☨ ☨ ☨
セトルは目を覚ました。そして最初にその蒼い瞳に映ったのは、自分のこちらでの名前を呼び続けているサニーの姿だった。
「サニー……?」
呟くと、彼女の涙を浮かべた悲しそうな顔がパッと輝いた。まだ頭がぼんやりする。ここはどこだろう? とりあえずベッドに寝かされていることだけはわかる。首を少しだけ動かして辺りを見ると、どこか豪奢に見える広い部屋の中だった。いくつもの真っ白なシーツのかかったベッドが置かれ、無駄に高そうな家具がそこいらに置いてある。
(天国? 違う)
「僕は……生きてるのか?」
よく見ると、他の仲間たちもそこにいた。皆、心配していた顔を安堵の表情に変えている。
「セトル!」
「よかったわぁ、痛いとこあらへん?」
サニーとしぐれが抱きつかんとばかりの勢いで詰め寄る。
「ちょ、二人とも……」
「銀髪の王子様がようやくお目覚めだ」
戸惑うセトルにはにかんだアランが皮肉じみたことを言う。その横でウェスターとシャルンが肩を竦める。
「やれやれですね」
「やれやれね」
☨ ☨ ☨
なぜ自分たちは助かったのか。その現在の状況を、しばらくして部屋に入ってきたウルドとアトリーが説明してくれた。
自分たちはワースと戦った。
自分たちは彼に敗れた。
自分たちを置いてワースはそのままポイントを切断して消えた。
自分たちはかけつけたウルドたちによって保護された。
自分たちは今セイントカラカスブルグの王城の一室にいる。
要するに自分たちは助かり、ワースたちには逃げられた。振り出しに戻ったということだ。いや、絶対的な力の差を見せつけられ、振り出しどころか行き詰ってしまった。
「一応、これは拾っておいたが、もう使えないだろうな」
ウルドはそう言って、セトルにレーヴァテインの成れの果てを渡す。刀身が真っ二つに砕け折られ、輝きも消え、今では何の力も感じない。
完全に剣が死んでいた。
これを直せるような鍛冶師はまずいない。いたとしても、レーヴァテインではワースのデュランダルには勝てない。
完全なる敗北。この剣がそれを痛々しく表現していた。
剣を渡した後、ウルドとアトリーは仕事があると言って部屋を出ていった。
「これから、うちらはどうすればええん?」
俯き加減でしぐれが言う。
「しばらくは様子見でしょう。ワースがどこに行ったのかわからないこの状況です。闇雲に捜し回るわけにもいきませんし」
「そうだな。アキナの人たちも捜索してくれてるんだろ? だったら待ってればいつか尻尾を掴めるさ」
アランは笑う。だが、それは希望や安心ではない、負の意味が窺える笑顔だった。
「でも、今のわたしたちじゃ、アイヴィとスラッファはともかく、ワースには絶対に勝てないわ」
シャルンが地雷を踏んだ。真実だが、それは絶対に言わない方がいいことだ。サニーが無理に力を入れて反論する。
「そ、そんなことないわよ! 今度は勝てる。ねえ、セトル」
話を振られたセトルは少し間を置き、そして言う。
「はっきり言って、シャルンの言う通りだよ。今の僕らじゃ兄さんには逆立ちしたって勝てない。それが現実さ」
皆が俯く。先の戦いでそのことを嫌というほど思い知ったのは皆同じだ。だが、セトルは――
「だけど、僕は諦めない。ポイントが切断されても、それだけじゃまだ世界は分かれることはない。それをするには一度テューレンに戻る必要があるんだ。まだ少し時間はある。たとえ剣では勝てなくても、説得ならできるかもしれない。可能性がある限り、僕は一人でも戦う」
「セトル……」
サニーはそんなセトルの思いを聞いて呟き、そして顔に明るさを取り戻す。
「そうだよね! くじけるなんてあたしらしくない。セトル、あたしも一緒に戦うよ。みんな一緒なら、今度こそ何とかなるかも」
そのサニーに続き、アランが、
「後ろに同じ」
と腕を組んで笑う。今度は希望が含まれている笑顔だ。
「うちもや。負けっぱなしは性に合わへん」
としぐれが拳を握る。ウェスターが眼鏡を煌かした。
「私は、特に反対するつもりはありません。必要とあればこの老体、骨身を惜しみませんよ」
シャルンが額に手を置いて溜息をつく。
「みんな、何て馬鹿なの? でも、わたしもこのまま終わらすつもりはないわ。答えを出すまで一緒させてもらうから」
皆の思いを聞き、しかしセトルは複雑だった。今のこの状態ではほぼ確実に無駄死にするだけである。できるなら皆をこれ以上巻き込みたくはない。
(と言っても、聞かないか)
セトルは半ば諦めて微笑した。その時――
「いい感じに士気が上がってるねぇ♪ ここいらでボクの出番かな?」
と最悪に聞き覚えのありすぎる声が部屋に入ってきた。振り向くと、やはりそこには皆の確信通りの人物が立っていた。
『ノックス!』
皆で彼の名を叫ぶ。ディープグリーンの長髪にいつもの変なコート、なぜか手には薔薇の花束が握られている。
「いやぁ、みんなでボクの名前を呼んじゃって、そんなにこの天才のボクを待っていたのかい?」
「誰がや! てか、何であんたがここにおるんや!」
「うん、しぐれ君、君はいつも同じ反応だねぇ。フフフフフ」
「気持ち悪い笑いすな!」
いつも通り、コント紛いな会話から始まった。ノックスはしぐれの怒鳴り声を軽くあしらってセトルのベッドに歩み寄る。
「これは、ボクからのお見舞いさ」
そう言って彼は笑顔でセトルに薔薇の花束を渡そうとする。
「いりません」
「照れなくてもいいんだよ、セトル君♪」
「いりません! 何で薔薇なのかも意味不明だし」
☨ ☨ ☨
「それで、ここへは何しに来たんだ?」
とりあえず落ち着いたのかそうでないのかよくわからない状況で、セトルは本題を切り出す。
「酷いなぁ、セトル君。せっかくボクが心配してお見舞いに来てあげたのにぃ」
「……」
つっこみはしない。すればまた話が脱線するどころか転移してしまう。周囲からの冷めた視線をあてられ、しょぼんとして真面目な顔になり、
「レーヴァテイン」
とまずは一言。皆がセトルのベッドの上に置かれてある折れた剣に注目する。
「それ、そのままじゃ使えないよね? 使えたとしても、ワースの神剣には勝てない。つまり、こちらも神剣を入手するしかないんだよ」
「神剣を……?」
サニーが僅かに首を傾げる。セトルが眉を吊り上げた。
「神剣はこの世に一本しかないんだ。手に入れるなんて不可能だ」
するとノックスは少しオーバーに肩を竦める。
「作ればいいんだよ、セトル君。そのレーヴァテインと――」
彼は懐から何かを取り出してセトルに渡す。
「その精霊石『ダイヤモンド』でね」
それは無色透明に輝く精霊石だった。すごく不思議な力を感じる。
「……」
セトルは渡されたダイヤモンドを見詰め、ノックスに問う。
「誰が? どうやって?」
「精霊神さ」
「!?」
彼の口から出た単語にセトルは驚く。しかし、驚いたのはセトルだけではなく、ウェスターも眼鏡の奥から目を見開いていた。
「何なの、それ? 普通の精霊とは違うんだよね?」
聞き覚えのないそれにサニーが小首を傾げる。ノックスが、フフフ、と勿体つけるように笑っている間に、ウェスターが眼鏡を押さえて答えた。
「精霊の神、つまり精霊神です。全ての精霊の頂点に立つ、確か……時空を司る精霊だったかと」
「ボクの説明を盗らないでくれよ」
しょんぼりするノックスは仕方なくその続きの説明を始める。
「精霊神、時と空間の精霊『ピアリオン』は、スルトの森の最深部にある石碑の前で会うことができるのさ。資格がないとだめだけどね。その資格を持っているのが、このボクと召喚士のウェスター、それに霊剣を持つセトル君だけ。行くなら三人で、だね♪」
彼の真面目な顔は、今や崩れ去っていつものようになっていた。
「何であんたにも資格があるんや」
「ボクは語り部兼石碑の番人だからさ」
「……」
誇らしげに胸を張るノックス。セトルは思った。たぶん皆も思っただろう。『番人なら放浪するな!』と。まあ、言ったところでしょうがないのはわかっている。寧ろ、あえてつっこまない方が正解だろう。
「神剣が、手に入る……」
セトルは膝の上辺りに置かれてある変わり果てたレーヴァテインを見た。そして何か決意したような顔をすると、その顔のままノックスを向く。
「案内、頼める?」
元々そのつもりだっただろうノックスは即答した。
「愛しいセトル君の頼みなら全然オーケーだよ♪ ああ、でもしぐれ君やサニー君が来れないのはボクとして残念なかぎり……」
「うち資格なくてよかったわぁ」
心の底からほっとしたようにしぐれはそう言った。
「そっちは三人で行くとして、わたしたちは何をすればいいのかしら?」
シャルンが意見を求めるようにアランを見る。
「そうだな。俺は武器が折られたし……マインタウンにでも行って調達してきた方がいいか。そういや、ウェスターも武器が破壊されてなかった」
「ああ、私なら大丈夫です。まだたくさんありますので」
セトルは彼の余裕から何となくそんな気がしていた。
「みんな自由行動でええんちゃう? うちも一度アキナに帰りたいし、サニーの迷子さえ気をつければ」
と、ここで皆の視線がサニーに移る。
「な、大丈夫よ。は、はぐれないようにアランといればいいんでしょ」
僅かに頬を膨らませてサニーはしぶしぶそう言った。
「時間がない、さっそく行こう」
セトルがレーヴァテインを大事にしまい、ベッドから立ち上がる。
(神剣さえ手に入れば、あとは――)
微かに表情を暗くするセトルを、ノックスが皆の中ら目を眇めて見ていた。
圧倒的な実力差。
……勝てるわけがなかった。
オレは死んだのかな?
(……セトル……)
初めて兄さんに反発した結果がこれだ。
(……セトル……)
目の前が真っ暗だ。何も見えない。もう、世界は分断されたかな? でも、オレにはどうすることもできない。
(……セトル……)
? 誰?
(……セトル)
さっきから……セトル? 僕の名前!?
「セトル!」
☨ ☨ ☨
セトルは目を覚ました。そして最初にその蒼い瞳に映ったのは、自分のこちらでの名前を呼び続けているサニーの姿だった。
「サニー……?」
呟くと、彼女の涙を浮かべた悲しそうな顔がパッと輝いた。まだ頭がぼんやりする。ここはどこだろう? とりあえずベッドに寝かされていることだけはわかる。首を少しだけ動かして辺りを見ると、どこか豪奢に見える広い部屋の中だった。いくつもの真っ白なシーツのかかったベッドが置かれ、無駄に高そうな家具がそこいらに置いてある。
(天国? 違う)
「僕は……生きてるのか?」
よく見ると、他の仲間たちもそこにいた。皆、心配していた顔を安堵の表情に変えている。
「セトル!」
「よかったわぁ、痛いとこあらへん?」
サニーとしぐれが抱きつかんとばかりの勢いで詰め寄る。
「ちょ、二人とも……」
「銀髪の王子様がようやくお目覚めだ」
戸惑うセトルにはにかんだアランが皮肉じみたことを言う。その横でウェスターとシャルンが肩を竦める。
「やれやれですね」
「やれやれね」
☨ ☨ ☨
なぜ自分たちは助かったのか。その現在の状況を、しばらくして部屋に入ってきたウルドとアトリーが説明してくれた。
自分たちはワースと戦った。
自分たちは彼に敗れた。
自分たちを置いてワースはそのままポイントを切断して消えた。
自分たちはかけつけたウルドたちによって保護された。
自分たちは今セイントカラカスブルグの王城の一室にいる。
要するに自分たちは助かり、ワースたちには逃げられた。振り出しに戻ったということだ。いや、絶対的な力の差を見せつけられ、振り出しどころか行き詰ってしまった。
「一応、これは拾っておいたが、もう使えないだろうな」
ウルドはそう言って、セトルにレーヴァテインの成れの果てを渡す。刀身が真っ二つに砕け折られ、輝きも消え、今では何の力も感じない。
完全に剣が死んでいた。
これを直せるような鍛冶師はまずいない。いたとしても、レーヴァテインではワースのデュランダルには勝てない。
完全なる敗北。この剣がそれを痛々しく表現していた。
剣を渡した後、ウルドとアトリーは仕事があると言って部屋を出ていった。
「これから、うちらはどうすればええん?」
俯き加減でしぐれが言う。
「しばらくは様子見でしょう。ワースがどこに行ったのかわからないこの状況です。闇雲に捜し回るわけにもいきませんし」
「そうだな。アキナの人たちも捜索してくれてるんだろ? だったら待ってればいつか尻尾を掴めるさ」
アランは笑う。だが、それは希望や安心ではない、負の意味が窺える笑顔だった。
「でも、今のわたしたちじゃ、アイヴィとスラッファはともかく、ワースには絶対に勝てないわ」
シャルンが地雷を踏んだ。真実だが、それは絶対に言わない方がいいことだ。サニーが無理に力を入れて反論する。
「そ、そんなことないわよ! 今度は勝てる。ねえ、セトル」
話を振られたセトルは少し間を置き、そして言う。
「はっきり言って、シャルンの言う通りだよ。今の僕らじゃ兄さんには逆立ちしたって勝てない。それが現実さ」
皆が俯く。先の戦いでそのことを嫌というほど思い知ったのは皆同じだ。だが、セトルは――
「だけど、僕は諦めない。ポイントが切断されても、それだけじゃまだ世界は分かれることはない。それをするには一度テューレンに戻る必要があるんだ。まだ少し時間はある。たとえ剣では勝てなくても、説得ならできるかもしれない。可能性がある限り、僕は一人でも戦う」
「セトル……」
サニーはそんなセトルの思いを聞いて呟き、そして顔に明るさを取り戻す。
「そうだよね! くじけるなんてあたしらしくない。セトル、あたしも一緒に戦うよ。みんな一緒なら、今度こそ何とかなるかも」
そのサニーに続き、アランが、
「後ろに同じ」
と腕を組んで笑う。今度は希望が含まれている笑顔だ。
「うちもや。負けっぱなしは性に合わへん」
としぐれが拳を握る。ウェスターが眼鏡を煌かした。
「私は、特に反対するつもりはありません。必要とあればこの老体、骨身を惜しみませんよ」
シャルンが額に手を置いて溜息をつく。
「みんな、何て馬鹿なの? でも、わたしもこのまま終わらすつもりはないわ。答えを出すまで一緒させてもらうから」
皆の思いを聞き、しかしセトルは複雑だった。今のこの状態ではほぼ確実に無駄死にするだけである。できるなら皆をこれ以上巻き込みたくはない。
(と言っても、聞かないか)
セトルは半ば諦めて微笑した。その時――
「いい感じに士気が上がってるねぇ♪ ここいらでボクの出番かな?」
と最悪に聞き覚えのありすぎる声が部屋に入ってきた。振り向くと、やはりそこには皆の確信通りの人物が立っていた。
『ノックス!』
皆で彼の名を叫ぶ。ディープグリーンの長髪にいつもの変なコート、なぜか手には薔薇の花束が握られている。
「いやぁ、みんなでボクの名前を呼んじゃって、そんなにこの天才のボクを待っていたのかい?」
「誰がや! てか、何であんたがここにおるんや!」
「うん、しぐれ君、君はいつも同じ反応だねぇ。フフフフフ」
「気持ち悪い笑いすな!」
いつも通り、コント紛いな会話から始まった。ノックスはしぐれの怒鳴り声を軽くあしらってセトルのベッドに歩み寄る。
「これは、ボクからのお見舞いさ」
そう言って彼は笑顔でセトルに薔薇の花束を渡そうとする。
「いりません」
「照れなくてもいいんだよ、セトル君♪」
「いりません! 何で薔薇なのかも意味不明だし」
☨ ☨ ☨
「それで、ここへは何しに来たんだ?」
とりあえず落ち着いたのかそうでないのかよくわからない状況で、セトルは本題を切り出す。
「酷いなぁ、セトル君。せっかくボクが心配してお見舞いに来てあげたのにぃ」
「……」
つっこみはしない。すればまた話が脱線するどころか転移してしまう。周囲からの冷めた視線をあてられ、しょぼんとして真面目な顔になり、
「レーヴァテイン」
とまずは一言。皆がセトルのベッドの上に置かれてある折れた剣に注目する。
「それ、そのままじゃ使えないよね? 使えたとしても、ワースの神剣には勝てない。つまり、こちらも神剣を入手するしかないんだよ」
「神剣を……?」
サニーが僅かに首を傾げる。セトルが眉を吊り上げた。
「神剣はこの世に一本しかないんだ。手に入れるなんて不可能だ」
するとノックスは少しオーバーに肩を竦める。
「作ればいいんだよ、セトル君。そのレーヴァテインと――」
彼は懐から何かを取り出してセトルに渡す。
「その精霊石『ダイヤモンド』でね」
それは無色透明に輝く精霊石だった。すごく不思議な力を感じる。
「……」
セトルは渡されたダイヤモンドを見詰め、ノックスに問う。
「誰が? どうやって?」
「精霊神さ」
「!?」
彼の口から出た単語にセトルは驚く。しかし、驚いたのはセトルだけではなく、ウェスターも眼鏡の奥から目を見開いていた。
「何なの、それ? 普通の精霊とは違うんだよね?」
聞き覚えのないそれにサニーが小首を傾げる。ノックスが、フフフ、と勿体つけるように笑っている間に、ウェスターが眼鏡を押さえて答えた。
「精霊の神、つまり精霊神です。全ての精霊の頂点に立つ、確か……時空を司る精霊だったかと」
「ボクの説明を盗らないでくれよ」
しょんぼりするノックスは仕方なくその続きの説明を始める。
「精霊神、時と空間の精霊『ピアリオン』は、スルトの森の最深部にある石碑の前で会うことができるのさ。資格がないとだめだけどね。その資格を持っているのが、このボクと召喚士のウェスター、それに霊剣を持つセトル君だけ。行くなら三人で、だね♪」
彼の真面目な顔は、今や崩れ去っていつものようになっていた。
「何であんたにも資格があるんや」
「ボクは語り部兼石碑の番人だからさ」
「……」
誇らしげに胸を張るノックス。セトルは思った。たぶん皆も思っただろう。『番人なら放浪するな!』と。まあ、言ったところでしょうがないのはわかっている。寧ろ、あえてつっこまない方が正解だろう。
「神剣が、手に入る……」
セトルは膝の上辺りに置かれてある変わり果てたレーヴァテインを見た。そして何か決意したような顔をすると、その顔のままノックスを向く。
「案内、頼める?」
元々そのつもりだっただろうノックスは即答した。
「愛しいセトル君の頼みなら全然オーケーだよ♪ ああ、でもしぐれ君やサニー君が来れないのはボクとして残念なかぎり……」
「うち資格なくてよかったわぁ」
心の底からほっとしたようにしぐれはそう言った。
「そっちは三人で行くとして、わたしたちは何をすればいいのかしら?」
シャルンが意見を求めるようにアランを見る。
「そうだな。俺は武器が折られたし……マインタウンにでも行って調達してきた方がいいか。そういや、ウェスターも武器が破壊されてなかった」
「ああ、私なら大丈夫です。まだたくさんありますので」
セトルは彼の余裕から何となくそんな気がしていた。
「みんな自由行動でええんちゃう? うちも一度アキナに帰りたいし、サニーの迷子さえ気をつければ」
と、ここで皆の視線がサニーに移る。
「な、大丈夫よ。は、はぐれないようにアランといればいいんでしょ」
僅かに頬を膨らませてサニーはしぶしぶそう言った。
「時間がない、さっそく行こう」
セトルがレーヴァテインを大事にしまい、ベッドから立ち上がる。
(神剣さえ手に入れば、あとは――)
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