ILIAD ~幻影の彼方~
088 ハーフの傷
次の日、村中がやけに慌しくなっていた。
何事かと思い外に出てみると、村人たちが一軒の家の前に集まっているのが目に入った。どうやら自分たちとは関係ないらしいことにほっとしつつ、セトルたちもそこへ駆け寄る。
「何かあったんですか?」
セトルが訊くと、村人たちが一斉にこちらを振り向いた。昨日ほどの殺気はないものの、明らかな嫌悪感でセトルたちを睨んでいる。
「何だ、お前らまだいたのか」
「はい。でもすぐに出ていきます。それより何かあったんですか?」
出ていくと言いながら首を突っ込んでくる青目の少年に、ハーフの男性は訝しげに眉根を寄せ、仕方ないといった様子で答える。
「この家の子供の病気が悪化したんだ。俺たちハーフは、子供のころは体が弱いからな」
男性は心配そうに家の中を見る。すると、シャルンが玄関に群がる彼らを押しのけて中に入った。
「おい、シャルン!」
アランも続こうとするが、それは村人たちによって遮られた。先程の男性が憎々しげに言う。
「お前は入るな。だいたい、お前たちが来たから病気が悪化したんじゃないのか?」
「そんなわけないやん。うちらをバイ菌みたいに言わんといて」
しぐれが腰に手をあてて眉を吊り上げる。
「フン、たいして変わらんよ」
「何やて!」
今にも怒りを爆発させそうになったしぐれを、セトルがどうにかなだめる。
「その子は大丈夫なの?」
サニーが訊く。自分の治癒術でどうにかなるのであれば、助けたい。しかし、たとえそうでも、中に入れてもらえるかどうかはわからない。それでも、彼女の助けたいという気持ちは強い。
「フン、薬があれば治るらしいが、それも王都にしかないんじゃどうしようもない」
「王都にあるんなら行けばいいじゃねぇか?」
アランの言う通り、簡単なことだ。だが、ここに集まった誰もがその言葉に視線を下げた。王都に行くというのが、それほど嫌なことなのだろうか。否、そうなのだろう。彼らはそういうところで差別を受け、ここに集まった者たちだ。他の町に近づきたくない気持ちが強いのだ。
そんな彼らを変えようと、シャルンがここで頑張っているが、どうも一度受けた心の傷はそう簡単には治らないようだ。
「何だよ、見殺しにするってことかよ!」
「アラン、この人たちが行かないのなら、僕たちが行けばいいさ」
怒鳴るアランをセトルが静止させ、そう提案する。だが、それにも村人たちは嫌な顔をする。
「フン、信用できるか」
「彼らは信用できるわ。それに、そういうことならわたしも一緒に行くから」
家の中から出てきたシャルンが、話を聞いていたのか男性に向かってそう言う。
「……」
集まったセトルたち以外の誰もが渋い顔をして彼女を見ていたが、やがて諦めたように男性が息をつく。
「こいつらを信用することはできないけど、シャルンなら信用できる。任せて大丈夫か?」
「本当は、あなたたちが行けるようにならないとだめなのよ」
「……すまない」
セトルたちのあまり見たことがない、優しい口調で話すシャルンに、村人たちは全員で頭を下げた。
シャルンは薄らと微笑むと、身を翻してセトルたちの横を通り過ぎる。
「行くわよ」
「シャルン、ええんか?」
慌てて彼女について行きながら、しぐれが確かめるように言う。
「わたしが行かないと、どんな薬がいるのかわからないでしょ」
「確かに」
これで少しの間だが、シャルンと行動を共にすることになった。王都に行くということは、独立特務騎士団に見つかるかもしれない。もしそうなってしまうと、彼女にワースたちがやろうとしていることを話さないといけなくなる。
できればそうならないことを祈るセトルだった。
何事かと思い外に出てみると、村人たちが一軒の家の前に集まっているのが目に入った。どうやら自分たちとは関係ないらしいことにほっとしつつ、セトルたちもそこへ駆け寄る。
「何かあったんですか?」
セトルが訊くと、村人たちが一斉にこちらを振り向いた。昨日ほどの殺気はないものの、明らかな嫌悪感でセトルたちを睨んでいる。
「何だ、お前らまだいたのか」
「はい。でもすぐに出ていきます。それより何かあったんですか?」
出ていくと言いながら首を突っ込んでくる青目の少年に、ハーフの男性は訝しげに眉根を寄せ、仕方ないといった様子で答える。
「この家の子供の病気が悪化したんだ。俺たちハーフは、子供のころは体が弱いからな」
男性は心配そうに家の中を見る。すると、シャルンが玄関に群がる彼らを押しのけて中に入った。
「おい、シャルン!」
アランも続こうとするが、それは村人たちによって遮られた。先程の男性が憎々しげに言う。
「お前は入るな。だいたい、お前たちが来たから病気が悪化したんじゃないのか?」
「そんなわけないやん。うちらをバイ菌みたいに言わんといて」
しぐれが腰に手をあてて眉を吊り上げる。
「フン、たいして変わらんよ」
「何やて!」
今にも怒りを爆発させそうになったしぐれを、セトルがどうにかなだめる。
「その子は大丈夫なの?」
サニーが訊く。自分の治癒術でどうにかなるのであれば、助けたい。しかし、たとえそうでも、中に入れてもらえるかどうかはわからない。それでも、彼女の助けたいという気持ちは強い。
「フン、薬があれば治るらしいが、それも王都にしかないんじゃどうしようもない」
「王都にあるんなら行けばいいじゃねぇか?」
アランの言う通り、簡単なことだ。だが、ここに集まった誰もがその言葉に視線を下げた。王都に行くというのが、それほど嫌なことなのだろうか。否、そうなのだろう。彼らはそういうところで差別を受け、ここに集まった者たちだ。他の町に近づきたくない気持ちが強いのだ。
そんな彼らを変えようと、シャルンがここで頑張っているが、どうも一度受けた心の傷はそう簡単には治らないようだ。
「何だよ、見殺しにするってことかよ!」
「アラン、この人たちが行かないのなら、僕たちが行けばいいさ」
怒鳴るアランをセトルが静止させ、そう提案する。だが、それにも村人たちは嫌な顔をする。
「フン、信用できるか」
「彼らは信用できるわ。それに、そういうことならわたしも一緒に行くから」
家の中から出てきたシャルンが、話を聞いていたのか男性に向かってそう言う。
「……」
集まったセトルたち以外の誰もが渋い顔をして彼女を見ていたが、やがて諦めたように男性が息をつく。
「こいつらを信用することはできないけど、シャルンなら信用できる。任せて大丈夫か?」
「本当は、あなたたちが行けるようにならないとだめなのよ」
「……すまない」
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