ILIAD ~幻影の彼方~
085 仲間を追って
シャルンを追ってティンバルクの外に出たセトルたちは、スルトの森を駆けているうちに街道を外れ、帰る道を見失っていた。ついでにシャルンまでも見失い、実は絶体絶命である。
「……」
「……」
「……」
「何でみんなあたしを見るのよ!」
周囲からの冷たい視線を受けたサニーが怒鳴る。迷子=サニー。三人の中ではそういう方程式が公式化されているため、ついつい彼女の方を見てしまう。
「ごめん、つい……」
今回は彼女だけのせいではないので、とりあえずセトルは素直に謝った。
「おっかしいな、確かこっちの方だと思ったんだが……」
アランが辺りを見回すが、似たような草木が延々と並ぶだけで他に変わったものは見あたらない。
「しゃあないわ。うちが式神飛ばして帰り道探すわ。ちょい待っとき」
しぐれはそう言うと、懐から数枚の御符を取り出し、それに念を込めて空へとばら撒く。すると、その御符は一斉に鳥の形へと変化し、それぞれが羽ばたいて四方八方に散っていく。それらはティンバルクを見つけ次第、帰ってくるだろう。
「しぐれって、あんなに式神持ってたんだ」
感心したように言うセトルに、しぐれは頬を僅かに染めて頭を搔く。
「今回は頭領にたくさん持たされたんや。何かあるたびに連絡するようにって」
「じゃあ、式神が戻るまで俺らは待機ってことか」
とりあえず永遠に森を彷徨い続けることはなくなったのだが、アランは手を頭の後ろで組み、非常に残念な様子で近くの木に凭れかかった。
「ま、そいうことや。そや、待ってる間暇やし、ゲームでもやらへん?」
そう言ってしぐれはその場に座り込むと、自分の荷物の中から少し小さめのカードの束を取り出す。
「『ハナフダ』いうてな。うちらアキナの伝統的な遊びの一つなんや」
「へえ、変わった『トランプ』だな」
興味を持ったのか、アランがすぐに寄って来て、しぐれからカードを取り上げる。一通り見ると、それをサニーに回す。
「ホントだ。数字じゃなくて花が描いてある」
「ん~、確かに『トランプ』を元にしたもんやけど、遊び方とかちゃうし……」
カードには桜や梅、牡丹といった様々な花がそれぞれ四種の絵で描かれており、カードの枚数は四十八枚しかなく、彼らの言う『トランプ』よりも少ない。
「じゃあさ、試しに〝ポーカー〟でもしよ♪」
「やからサニー、遊び方が――って聞いてへんし……」
見ると、そこには既に三人が輪をつくり、サニーがカードを配っていた。その輪から外れたところにしぐれは座っている。
「ほら、しぐれもやろうよ」
「えーと、うちはええわ。最初は三人でやりぃ。何や見てる方が面白そうやし」
しぐれはあえてこの間違った『ハナフダ』を見守ることに決めた。
「……」
「……」
「……これ揃ってんのか?」
自分の手札の絵のバラバラさにアランは眉を顰める。一方、セトルとサニーは何の疑問も持ってないように真剣に手札を見詰めた後、それぞれが三枚のカードを伏せる。
「三枚チェンジするよ」
「あたしも三枚♪」
と言って、それぞれが山札から言った枚数分のカードを引く。アランは頭に疑問符を三つほど浮かべて手札を睨んでいる。
「何の花か全くわかんないんですけど? せめて文字があって欲しいぜ」
「チェンジしないの?」
「……します」
とりあえず似たような絵のカードを二枚残して、アランはカードを一枚ずつ交換していく。
「僕から先に見せるよ。――〝マツ〟のツーペア」
「ふっふーん、あたしなんか〝サクラ〟と〝ヤナギ〟のフルハウスよ!」
(〝サクラ〟と〝ヤナギ〟のフルハウス……)
二人があまりにも馴染んでいるため、しぐれは腹を抱えて必死に笑いを堪える。
「意味わかんないんだけど……。ていうか、何でそんなに普通にやってるの!? 俺思ったんだけど、こんな遊び方するもんじゃない気がするぜ」
そんなアランの手札を、今にも噴き出しそうにしながらしぐれが覗く。
「アランは〝坊主〟(ススキ)のフォーーカードやん♪ くぷぷぷ」
「〝坊主〟って何だよ!? 花なのか!?」
「アランすごいじゃん☆」
「すごいの!?」
しばらくそんな意味不明のゲームが続く――かと思いきや、意外にも式神の一体がすぐに帰ってきた。それはしぐれの掌の上に泊まる。
「? えらい早いなぁ。実はけっこう近くやったんちゃう?」
「まあ、シャルンのことは諦めて帰ろう。アランもそれでいい?」
セトルが確認の意味で言ってきたことに、アランはどこか渋々と頷いた。
「じゃあ、出発!」
「サニーは迷わないでね」
大手を振って歩くサニーに、セトルが念を押すように言うと、彼女は頬を膨らましてセトルを睨んだ。
日もだいぶ傾いてきた。あの程度の時間で式神が戻ってきたのなら、暗くなる前にティンバルクへ戻れるだろう。
「……」
「……」
「……」
「何でみんなあたしを見るのよ!」
周囲からの冷たい視線を受けたサニーが怒鳴る。迷子=サニー。三人の中ではそういう方程式が公式化されているため、ついつい彼女の方を見てしまう。
「ごめん、つい……」
今回は彼女だけのせいではないので、とりあえずセトルは素直に謝った。
「おっかしいな、確かこっちの方だと思ったんだが……」
アランが辺りを見回すが、似たような草木が延々と並ぶだけで他に変わったものは見あたらない。
「しゃあないわ。うちが式神飛ばして帰り道探すわ。ちょい待っとき」
しぐれはそう言うと、懐から数枚の御符を取り出し、それに念を込めて空へとばら撒く。すると、その御符は一斉に鳥の形へと変化し、それぞれが羽ばたいて四方八方に散っていく。それらはティンバルクを見つけ次第、帰ってくるだろう。
「しぐれって、あんなに式神持ってたんだ」
感心したように言うセトルに、しぐれは頬を僅かに染めて頭を搔く。
「今回は頭領にたくさん持たされたんや。何かあるたびに連絡するようにって」
「じゃあ、式神が戻るまで俺らは待機ってことか」
とりあえず永遠に森を彷徨い続けることはなくなったのだが、アランは手を頭の後ろで組み、非常に残念な様子で近くの木に凭れかかった。
「ま、そいうことや。そや、待ってる間暇やし、ゲームでもやらへん?」
そう言ってしぐれはその場に座り込むと、自分の荷物の中から少し小さめのカードの束を取り出す。
「『ハナフダ』いうてな。うちらアキナの伝統的な遊びの一つなんや」
「へえ、変わった『トランプ』だな」
興味を持ったのか、アランがすぐに寄って来て、しぐれからカードを取り上げる。一通り見ると、それをサニーに回す。
「ホントだ。数字じゃなくて花が描いてある」
「ん~、確かに『トランプ』を元にしたもんやけど、遊び方とかちゃうし……」
カードには桜や梅、牡丹といった様々な花がそれぞれ四種の絵で描かれており、カードの枚数は四十八枚しかなく、彼らの言う『トランプ』よりも少ない。
「じゃあさ、試しに〝ポーカー〟でもしよ♪」
「やからサニー、遊び方が――って聞いてへんし……」
見ると、そこには既に三人が輪をつくり、サニーがカードを配っていた。その輪から外れたところにしぐれは座っている。
「ほら、しぐれもやろうよ」
「えーと、うちはええわ。最初は三人でやりぃ。何や見てる方が面白そうやし」
しぐれはあえてこの間違った『ハナフダ』を見守ることに決めた。
「……」
「……」
「……これ揃ってんのか?」
自分の手札の絵のバラバラさにアランは眉を顰める。一方、セトルとサニーは何の疑問も持ってないように真剣に手札を見詰めた後、それぞれが三枚のカードを伏せる。
「三枚チェンジするよ」
「あたしも三枚♪」
と言って、それぞれが山札から言った枚数分のカードを引く。アランは頭に疑問符を三つほど浮かべて手札を睨んでいる。
「何の花か全くわかんないんですけど? せめて文字があって欲しいぜ」
「チェンジしないの?」
「……します」
とりあえず似たような絵のカードを二枚残して、アランはカードを一枚ずつ交換していく。
「僕から先に見せるよ。――〝マツ〟のツーペア」
「ふっふーん、あたしなんか〝サクラ〟と〝ヤナギ〟のフルハウスよ!」
(〝サクラ〟と〝ヤナギ〟のフルハウス……)
二人があまりにも馴染んでいるため、しぐれは腹を抱えて必死に笑いを堪える。
「意味わかんないんだけど……。ていうか、何でそんなに普通にやってるの!? 俺思ったんだけど、こんな遊び方するもんじゃない気がするぜ」
そんなアランの手札を、今にも噴き出しそうにしながらしぐれが覗く。
「アランは〝坊主〟(ススキ)のフォーーカードやん♪ くぷぷぷ」
「〝坊主〟って何だよ!? 花なのか!?」
「アランすごいじゃん☆」
「すごいの!?」
しばらくそんな意味不明のゲームが続く――かと思いきや、意外にも式神の一体がすぐに帰ってきた。それはしぐれの掌の上に泊まる。
「? えらい早いなぁ。実はけっこう近くやったんちゃう?」
「まあ、シャルンのことは諦めて帰ろう。アランもそれでいい?」
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