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ILIAD ~幻影の彼方~

夙多史

079 投獄

 目の前に真っ白な世界が広がった。
 しかしそれも一瞬のこと。視力が戻ると、セトルは別の部屋にいた。建物の造りが一緒なので、あの施設内のどこかであるということはわかる。といっても、先程とはまた違った雰囲気であり、向こうに上に続く階段が見えるが、どうやらそこへ行くことはできないようだ。
「やられた……」
 自分と階段との間に、鉄格子のような黒いものがあった。
 今度は本当の地下牢のようだ。
 サニーはたぶん隣の牢だ。さっきから声一つ出さないところを見ると、気を失っていると思われる。先程の霊術陣で攻撃されたのだと思ったのだろう。
―― あれは転移霊術。古の霊導機アーティファクトに頼ったものじゃなく、自分たちだけが使える《神霊術》と呼ばれるものだ。
 セトルが時々見せていた不思議な力も、全てはその《神霊術》であった。
 セトルは剣を抜いて鉄の檻に斬りかかった。どう見てもただの鉄なので、霊剣であるレーヴァテインなら簡単に斬れる――はずだったが、見えない力に阻まれ、セトルは霊剣ごと弾き飛ばされた。
「無駄だ」
 どこからともなくワースの声が牢内に響く。すると、牢の向こうに三つの転移霊術陣が現れ、ワースをはじめとする蒼眼の三人が姿を現す。
「残念だが、内部から破壊することはできない。たとえ神霊術でもな」
「オレたちをどうするつもり?」
 セトルは無駄だということがわかった霊剣を鞘に納めながら訊く。サニーを人質に取られて無理やり言うことを聞かされる――そんなことを一瞬考えてしまったが、彼らはそんなことをするような人たちではないことをセトルはよく知っていた。
「少し大人しくしていればいい。別に殺すつもりはないし、全てが終わる時には解放してやる」
「ここから出せ!」
 とは言えなかった。意味無く吠えても無駄なだけである。たとえ今から協力すると言っても、自分と同じ銀髪蒼眼の青年は出してはくれない。
「いい子にしていれば、必ず迎えに来るわ」
 子供をあやすような言葉をアイヴィが微笑みながら言う。
「まあ、正直君を敵に回すと、こちらとしては面倒だからね」
 スラッファは皮肉めいた笑みを、眼鏡を押さえて隠した。
「そういうことだ……悪いな」
「兄さん!?」
 少し寂しそうにワースはそう言うと、マントを翻して階段を上っていった。あとの二人も彼に続き、静寂な地下牢には自分たちだけが虚しく残された。

        ✝ ✝ ✝

「それで? 僕たちはこれからどこに行くんだい?」
 既に施設とは別の場所。周囲は暗く、夜だということがわかる。そして向こうに多くの明かりが見えることから、ここが首都近郊であることもわかる。
 そこでスラッファは今後のことをワースに訊ねた。
「まだ繋留点ポイントに行くわけにはいかないからな。ひとまず《アブザヴァルベース》に行くことにしよう」
「了解」

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