ILIAD ~幻影の彼方~
049 変態ナルシスト
「セトルたち大丈夫かなぁ?」
地震でできた壁の前に立ち、サニーが心配そうに呟く。先程から戦いの音と思われる音が響き、それがより一層不安を煽る。今はその音も止み、ずいぶんと静かになった。
「ウェスターだっているんだ。そんなに心配しなくてもいいだろ?」
アランが手頃な岩に腰かけて、武器を磨きながらそう言った。サニーが振り向く。
「たった三人だよ? アランは心配じゃないの?」
「そりゃあ心配さ。だが、俺は三人を信じている。必ず無事に戻って来るさ」
するとサニーは肩の力を抜き、いつまた崩れるかわからない壁から離れて地面に座った。
「そうだね。信じることも大事だよね……」
彼女はそう言いながら、鼻を押しつけてくるザンフィの頭を撫でた。それを見てアランは微笑む。
「そうだ、アラン」
アランの正面の岩に座っているシャルンが見詰めていたソテラのイアリングをしまってから言う。彼女はときどきそうやってイアリングを見詰めている。声には出していないが、ソテラに何かを語っているように見える。
「言い忘れてたけど、さっきは助けてくれてその……ありがとう」
少し照れているような彼女にアランはからかうような笑みを浮かべる。
「何だ、ちゃんと礼が言えるんだな」
「わ、わたしだってお礼くらいちゃんと言うわよ!」
「忘れてただろ? まあ、別にいいさ。サニーからも聞いてないし」
サニーが、言ってなかったっけ? という顔をする。そして彼女は立ち上がり、嘆息するアランにそっと耳打ちする。
『席外そうか?』
「いや待て! それだけはやめろ!」
アランは即答した。それでは『離れる=迷子になる』という最悪の方程式が成り立ってしまうからだ。その時――
「三人とも無事?」
救いの声が聞こえた。セトルたちが戻ってきたのだ。向こうも無事なことは声を聞けばわかった。無事よ、とサニーが返事を返す。
「今から壁を取り払うので少し離れていてください」
ウェスターの指示に従い、三人は壁から十分に距離をとった。
ティエラの力で、落石と崩れた土砂でできた壁は静かに消えていった。
「セトル、おかえり……って一人増えてる!?」
「あんたは確か……」
ああ、サニーたちには一から説明しないといけないんだった。アランはいいとして、サニーとシャルンはノックスのことは知らないはず。話した覚えもない。
「ノックス・マテリオとはボクのことさ♪ ボクは――」
「変態ナルシストや!」
しぐれが遮る。
「そこの君、誤解を招くような言い方はよしてくれないか?」
ノックス自身に自己紹介をさせるとどうなるかわからいため、セトルが全部説明した。とりあえずサニーたちは事情を呑み込んでくれたようだ。
「そや! 三人とも見てみぃ、シヨウロがこんなに採れたんやで!」
しぐれがバック一杯に詰めたシヨウロを見せると、サニーたちは、あっ、という表情をする。忘れていたようだ。
「まさか、忘れてたんちゃうやろな?」
「そ、そんなわけないわよぅ!」と明らかに動揺した声でサニーが言う。「ドジってダメにないようにちゃんと持っときなさいよ!」
そう言われたしぐれは、慌ててバックをセトルに渡した。
「何で僕が……」
「ティンバルクに帰るまででええから持っといてぇな! うちドジらん自信ないんやもん」
「渡すときは自分で渡すんだよ」
「わかってるて♪」
まったく、というようにセトルは小さく息をついた。
「ところで、それ渡したあとはどうするんだ? 語り部はもういないとわかったし、その家もわからない以上、ティンバルクに留まる必要はないだろ?」
そうですね、とウェスターが考えるように眼鏡のブリッジを押さえ、皆は頭を悩ます。すると――
「語り部の家なら知っているよ」
ノックスから意外な言葉が返ってきた。驚き、皆は彼の方を見た。村人さえも知らなかった語り部の家をなぜ彼が……。
「何で知ってるんですか、ノックスさん?」
「愚問だね、セトル君。僕を誰だと思っているんだい?」
彼は誇らしげに前髪を払う。
「やから、変態ナルシスト」
「ははは、しぐれ君。ボクはナルシストであったとしても変態じゃないよ。あの森はほとんど探検し尽したからね。もう僕の庭みたいなもんさ♪」
ナルシストってところは否定しないんだ、とセトルは思った。ノックスは一流のトレージャーハンター――自称だろうが――だと言っている。スルトの森を探検中に偶然見つけたのだろう。一瞬ピクっとシャルンが反応した。
「まさか、こんなところに知っている人がいるなんて……」
彼女はそう呟いたが、その表情はノックスを警戒しているようでもあった。ノックスの言っていることは嘘ということも考えられる。
「では、ティンバルクに戻りましょうか」
ウェスターが口元に微笑を浮かべて促す。
セイルクラフトは六機しかないが、二人乗りまでならできるので、彼はじゃんけんで負けたセトルの機体に搭乗した。
地震でできた壁の前に立ち、サニーが心配そうに呟く。先程から戦いの音と思われる音が響き、それがより一層不安を煽る。今はその音も止み、ずいぶんと静かになった。
「ウェスターだっているんだ。そんなに心配しなくてもいいだろ?」
アランが手頃な岩に腰かけて、武器を磨きながらそう言った。サニーが振り向く。
「たった三人だよ? アランは心配じゃないの?」
「そりゃあ心配さ。だが、俺は三人を信じている。必ず無事に戻って来るさ」
するとサニーは肩の力を抜き、いつまた崩れるかわからない壁から離れて地面に座った。
「そうだね。信じることも大事だよね……」
彼女はそう言いながら、鼻を押しつけてくるザンフィの頭を撫でた。それを見てアランは微笑む。
「そうだ、アラン」
アランの正面の岩に座っているシャルンが見詰めていたソテラのイアリングをしまってから言う。彼女はときどきそうやってイアリングを見詰めている。声には出していないが、ソテラに何かを語っているように見える。
「言い忘れてたけど、さっきは助けてくれてその……ありがとう」
少し照れているような彼女にアランはからかうような笑みを浮かべる。
「何だ、ちゃんと礼が言えるんだな」
「わ、わたしだってお礼くらいちゃんと言うわよ!」
「忘れてただろ? まあ、別にいいさ。サニーからも聞いてないし」
サニーが、言ってなかったっけ? という顔をする。そして彼女は立ち上がり、嘆息するアランにそっと耳打ちする。
『席外そうか?』
「いや待て! それだけはやめろ!」
アランは即答した。それでは『離れる=迷子になる』という最悪の方程式が成り立ってしまうからだ。その時――
「三人とも無事?」
救いの声が聞こえた。セトルたちが戻ってきたのだ。向こうも無事なことは声を聞けばわかった。無事よ、とサニーが返事を返す。
「今から壁を取り払うので少し離れていてください」
ウェスターの指示に従い、三人は壁から十分に距離をとった。
ティエラの力で、落石と崩れた土砂でできた壁は静かに消えていった。
「セトル、おかえり……って一人増えてる!?」
「あんたは確か……」
ああ、サニーたちには一から説明しないといけないんだった。アランはいいとして、サニーとシャルンはノックスのことは知らないはず。話した覚えもない。
「ノックス・マテリオとはボクのことさ♪ ボクは――」
「変態ナルシストや!」
しぐれが遮る。
「そこの君、誤解を招くような言い方はよしてくれないか?」
ノックス自身に自己紹介をさせるとどうなるかわからいため、セトルが全部説明した。とりあえずサニーたちは事情を呑み込んでくれたようだ。
「そや! 三人とも見てみぃ、シヨウロがこんなに採れたんやで!」
しぐれがバック一杯に詰めたシヨウロを見せると、サニーたちは、あっ、という表情をする。忘れていたようだ。
「まさか、忘れてたんちゃうやろな?」
「そ、そんなわけないわよぅ!」と明らかに動揺した声でサニーが言う。「ドジってダメにないようにちゃんと持っときなさいよ!」
そう言われたしぐれは、慌ててバックをセトルに渡した。
「何で僕が……」
「ティンバルクに帰るまででええから持っといてぇな! うちドジらん自信ないんやもん」
「渡すときは自分で渡すんだよ」
「わかってるて♪」
まったく、というようにセトルは小さく息をついた。
「ところで、それ渡したあとはどうするんだ? 語り部はもういないとわかったし、その家もわからない以上、ティンバルクに留まる必要はないだろ?」
そうですね、とウェスターが考えるように眼鏡のブリッジを押さえ、皆は頭を悩ます。すると――
「語り部の家なら知っているよ」
ノックスから意外な言葉が返ってきた。驚き、皆は彼の方を見た。村人さえも知らなかった語り部の家をなぜ彼が……。
「何で知ってるんですか、ノックスさん?」
「愚問だね、セトル君。僕を誰だと思っているんだい?」
彼は誇らしげに前髪を払う。
「やから、変態ナルシスト」
「ははは、しぐれ君。ボクはナルシストであったとしても変態じゃないよ。あの森はほとんど探検し尽したからね。もう僕の庭みたいなもんさ♪」
ナルシストってところは否定しないんだ、とセトルは思った。ノックスは一流のトレージャーハンター――自称だろうが――だと言っている。スルトの森を探検中に偶然見つけたのだろう。一瞬ピクっとシャルンが反応した。
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