ILIAD ~幻影の彼方~
038 新技術
シャルンの回復も早く、セトルたちは昼前にヴァルケンをあとにした。
出航の前にシャルンが、
「一つだけ訊いていいかしら? みんなは何でハーフであるわたしを受け入れてくれるの?」
と、意味不明なことを訊いてきた。やれやれと嘆息しつつ苦笑を浮かべたアランの横でセトルが、仲間だからです、と一言でそれに答えた。いつものことだが、敬語でそう言った彼にシャルンは距離があるように感じ、訝しみながら、
「だったら敬語はやめてくれる?」
と言った。これを言われたのは何度目だろうか。少なくともセトルはアスカリアのほぼ全員には言われている。ウェスターも敬語を使うが、年が離れてるせいなのかそれは自然に感じられて誰も咎めることはない。
その後、アランが外れた言葉で一旦場を収拾し、皆は船に乗り込んでサンデルクへと向かった。
一日ほど船の上で過したのち、一行はサンデルクの気候に幸せを感じながら、足早にワースの居る大学を目指した。何か精霊の情報が入っていることを願って。
「ワースさん、今戻りました!」
彼の部屋の前に立ち、ドアをノックしてセトルは言った。しかし返事はなく、ドアにも鍵がかかっていた。
「あれ? どこに行ったんだろう?」
すると、一人の独立特務騎士団の兵士が駆け寄ってきた。そして一礼すると、師団長からの伝言です、と言う。
「グラウンドの向こうにある霊導研究所へ来てくれ、とのことです」
「ワースもそこに?」
そのまま去ろうとした兵士を呼び止め、ウェスターが訊く。
「いえ、師団長は別件で動いています。何をするかは、研究所の『スウィフト』という男に訊けばわかるらしいです」
兵士は、それでは、と一礼して、恐らく自分の仕事に戻った。セトルたちは顔を見合わせ、ここで立ち止まっていても仕方ないので指示に従うことにした。
霊導研究所は一度一階まで上がり、大学の東口から出たところの広大なグラウンドのさらに先にある。大学内ですれ違う白い制服を着た学生が、物珍しいといった視線で一向を見ていたが、セトルやシャルンの瞳の色については何も言ってこなかった。少なくとも彼らの前では――。
誰もいないグラウンドの中央を堂々と渡ると、その先は小さな森になっていて、横幅が広い道の先に小さな建物がぽつんと建っている。周りは木々に囲まれていて、大学とは隔離された世界になっていた。その理由は、文字通り霊導研究を行っているからだとウェスターは言う。
そんなに危ないこともしているのだろうか?
とりあえずノックをしたが、返事がないのでセトルはドアノブを回そうとした。だが、その瞬間にドアは勢いよく開かれ、彼は顔面を打ってしまい、鼻を押さえた。
「ああ、ごめんごめん! ちょっと慌ててました」
中から出てきたのは、ミルク瓶の底のような眼鏡をし、ひょろっとした体格の頼りなさそうなアルヴィディアンの青年だった。彼は何度か頭を下げてセトルに謝ると、ウェスターに視線を移した。
「ウェスター様ですね。お待ちしておりました」
「では、あなたがスウィフトですか?」
青年は、はい、と言って白衣の胸ポケットから名刺のようなものを取り出して見せた。そこには『霊導学、学部長スウィフト・キモン』という名が書かれてあった。
「その若さで学部長ですか。なかなか素晴らしいですね」
「ウェスター様にそう言っていただけるとは、光栄です!」
スウィフトは照れたように顔を赤らめて茶髪の頭を髪が乱れるほど掻いた。よっぽど嬉しいのだろう。
「何で慌ててたんや?」としぐれ。
「いえ、憧れのウェスター様に会える、と独立特務騎士団の師団長様から聞いていて、浮かれてたところにノックが聞こえたものですから……ハハ」
やれやれと皆が肩を竦める。とりあえず中に入ってください、とスウィフトに勧められ一行はその小さな建物の中に入った。入ってすぐのところは、意外と綺麗に片づけられていて、何とかこの人数を接客できるほどの広さはあった。最初セトルは、こんな小さな空間でどうやって研究をするのかと思っていたが、奥に地下へ繋がる階段を見つけたので研究はそっちで行っているのだとわかった。
中は大きめの机が中央に設置され、そこに人数分の椅子が並べられており、そこから見やすい位置に黒板があった。天井近くの壁には、歴代の学部長の写真が立て掛けられている。その中の一人に皆は目を疑った。
「あれって……もしかしてウェスター!?」
サニーが驚嘆して言ったその写真には、今のウェスターを十年ほど若返らせたような顔の男が写っていた。
「ええ、そうですけど、言ってませんでしたか?」
「ウェスター様は」とスウィフト。「数年しかいらっしゃらなかったのですが、歴代の学部長の中でももっとも若く、そして驚異的な頭脳をお持ちになられていたのです。国軍にも入られていて、常に私たちの目標でした」
楽しそうに話す彼にサニーが「へぇ~」と相槌を打つ。
「あんた、何でもやってるな……一体どんな人生送ってんだ?」
呆れたようにアランが言う。弁護士・軍人・興業、そして大学の学部長。知っているだけでもウェスターはかなり経験豊富だ。これだけやっていてまだ三十五歳というのは信じられない。彼がどんな人生を送っているのかセトルも気になった。
「まあ、その話は後々にして、そろそろ本題に入りましょう。なぜワースは我々をここへ呼んだのですか?」
ウェスターは眼鏡の位置を直した指でそのままブリッジを押さえながら訊く。皆も気持ちを切り替え、スウィフトの方に向き直る。
「えっと、実はこれを皆さんに見せてほしいと」
スウィフトは黒板の隣にある棚の引出しから一つの小さな正方形の箱を取り出し、机の上に置いた。
「箱?」
サニーとしぐれが首を傾げる。
「何が入ってるの?」
シャルンが訊く。するとスウィフトは誇らしげに答えた。
「ふふふ、これは《エリアルパック》というものです。あ、まだ開けないでくださいよ。ここで開けると大変なことになりますから」
手を伸ばして箱を取ろうとしたサニーは、そう言われてその手を引っ込めた。
「もしかして爆弾とかですか?」
セトルがエリアルパックというものを見詰めながら言うと、スウィフトは苦笑しつつ首を横に振った。
「そんな物騒なものではありませんよ。まあ、使いようによってはそういうこともできますが……」
よくわかっていないセトルたちに、彼は実際に見せた方が早いと思ったのか、エリアルパックを取り上げる。
「本当はもっと説明したかったのですが、それは見せてからでもできます。一旦グラウンドに出てください」
皆は顔を見合わせ、言われるがままに研究所を出て、その先のグラウンドの中央付近に集まった。
「では、いきますよ!」
スウィフトは箱の横についてある二つのスイッチの片方を押した。すると蓋が開き、霊素の光が中から飛び出した。それは皆の前方に集結し、鳥のような翼を左右に取りつけられた一人か二人ほど乗れる霊導機械が構築された。
その光景にウェスター以外は大口を開けて呆然とする。あんな掌サイズの小さな箱に、こんな大きなものが入っているとは誰も思っていなかった。
「なるほど、いわゆる飛行機械ですね。面白そうです」
ウェスターが興味を持ったのでスウィフトは嬉しそうに頭を掻いた。
「どういう原理でこんな大きなものが、あんな小さな箱に入ってたんですか?」
説明されて理解できるかどうかわからなかったが、とりあえずセトルは訊かずにはいられなかった。
「エリアルパックは、物体を霊素分解して中に収納し、取り出すときは再構築されるということです。当然、無機物質に限りますが、かなり大きな物も収納できて持ち運びが便利になります」
「?」
予想はしていたことだが、彼が何を言っているのかウェスター以外はわかっていなかった。
「私の槍と同じですよ。もっとも、私のは霊術ですけど」
とウェスターが付け足してくれたので何とか飲み込むことはできたが、やはり一言で終わらせるなら「不思議だ!」であることには変わらない。
「で、どうやってこれが作られたかというとですね――」
「その話はあとで私だけが聞きます。先を進めてください」
調子に乗ってきた彼が暴走してどんどん話をしていこうとしたので、ウェスターはそれを止めた。
「わかりました。えーと、本来師団長様が皆さんをここに呼んだのは、あの飛行機械を見せるためだったのです。エリアルパックはその入れ物にすぎません」
スウィフトはそう言って飛行機械に歩み寄り、その白い機体に手を触れた。
「名づけて《セイルクラフト》。師団長様の知恵もお借りして、私たちの研究所で開発した世界初の霊導飛行機械です」
知恵を借りたってことはワースもこれの開発に携わっているということになる。彼は本当に何者なのだろうか? セトルの記憶が戻ればわかることなのだろうが……。
「これってホントに飛べるの?」
サニーが怪訝そうに訊く。
「ええ、飛べるには飛べるのですが、一つだけ問題があります」
機体から手を離し、スウィフトは眉をハの字にして困ったような顔をする。
「問題って、何が問題なんや?」
しぐれが小首を傾げる。スウィフトは溜息をつくように息を吐いて説明する。
「今のままでは長距離飛行ができないということです。これは雷霊素をエネルギー源として使ってますが、やはり長距離を飛ぶにはここにあるものだけでは足りないのです」
「なるほど、それで私たちに雷精霊と先に契約してもらいたいということですね?」
意図がわかったようにウェスターが言うと、スウィフトは、流石ウェスター様ですね、という顔をした。
精霊は『霊素の意識集合体。また、それを生み出している母体的な存在』だと、前にウェスターが教えてくれた。つまり雷精霊と契約すれば無尽蔵のエネルギーを手に入れることができるということだ。このことはセトルたちにも理解できた。
「そんで、雷精霊の居場所はわかってんのか?」
アランが腕を組んで訊く。だがスウィフトは、それはまだわかっていないんです、と言ったように首を振った。居場所がわからないなら契約のしようがない。予定通りニブルヘイム地方で氷精霊の情報を集めようかと皆が考え始めたとき、しぐれが恐る恐る挙手した。
「……うちの、うちの頭領やったら何か知ってるかもしれへん」
「しぐれ、それ本当!?」
振り向いてセトルが言う。サファイアブルーの瞳が期待に満ちている。
「アキナの頭領と言いますと……『げんくう』ですね。確かに彼なら知っているかもしれません」
ウェスターは口元にどこか不敵な笑みを浮かべる。それにしても、アキナと言えば忍者の里。何となくだけど、関係者以外立ち入り禁止といった堅いイメージがセトルにはあるが、里の人間ではない自分たちが入ってもいいのだろうか?
「忍者の里にあたしたちも入っていいの?」
その疑問をサニーが言ってくれた。自分たちが行く必要があるのか、と言えばそうなのだが、一緒に行けば精霊の居場所がわかりしだいすぐに行動できる。時間が短縮されるし、しぐれにもサンデルク~アキナ間を往復する手間がかからない。しぐれは人差し指で顎を押し上げるようにし、しばらく考えてから答える。
「無理やろうけど、外で待っててくれるんならええと思うわ」
「では、そうと決まればさっそく行きましょうか? 確かアキナはソルダイの北、今から出発すれば、夜までにはシグルズ山岳を抜けられるでしょう」
ウェスターは同意を求めるかのように皆を見回す。当然、反対はない。
「あの、ウェスター様? 我々の研究の話は……」
「あ、それはまた今度お願いしますね♪」
今から出発と聞いてスウィフトが不安な表情で言うのを、ウェスターは笑顔で軽くあしらった。スウィフトはしょんぼりして肩を落とす。
「今から行くにしても、一応準備はしておいた方がいいわね。シグルズ山岳は魔物が多いから」
シャルンが言うとセトルは、そうだね、と言って初めて山岳を越えた時のことを思い出した。
出航の前にシャルンが、
「一つだけ訊いていいかしら? みんなは何でハーフであるわたしを受け入れてくれるの?」
と、意味不明なことを訊いてきた。やれやれと嘆息しつつ苦笑を浮かべたアランの横でセトルが、仲間だからです、と一言でそれに答えた。いつものことだが、敬語でそう言った彼にシャルンは距離があるように感じ、訝しみながら、
「だったら敬語はやめてくれる?」
と言った。これを言われたのは何度目だろうか。少なくともセトルはアスカリアのほぼ全員には言われている。ウェスターも敬語を使うが、年が離れてるせいなのかそれは自然に感じられて誰も咎めることはない。
その後、アランが外れた言葉で一旦場を収拾し、皆は船に乗り込んでサンデルクへと向かった。
一日ほど船の上で過したのち、一行はサンデルクの気候に幸せを感じながら、足早にワースの居る大学を目指した。何か精霊の情報が入っていることを願って。
「ワースさん、今戻りました!」
彼の部屋の前に立ち、ドアをノックしてセトルは言った。しかし返事はなく、ドアにも鍵がかかっていた。
「あれ? どこに行ったんだろう?」
すると、一人の独立特務騎士団の兵士が駆け寄ってきた。そして一礼すると、師団長からの伝言です、と言う。
「グラウンドの向こうにある霊導研究所へ来てくれ、とのことです」
「ワースもそこに?」
そのまま去ろうとした兵士を呼び止め、ウェスターが訊く。
「いえ、師団長は別件で動いています。何をするかは、研究所の『スウィフト』という男に訊けばわかるらしいです」
兵士は、それでは、と一礼して、恐らく自分の仕事に戻った。セトルたちは顔を見合わせ、ここで立ち止まっていても仕方ないので指示に従うことにした。
霊導研究所は一度一階まで上がり、大学の東口から出たところの広大なグラウンドのさらに先にある。大学内ですれ違う白い制服を着た学生が、物珍しいといった視線で一向を見ていたが、セトルやシャルンの瞳の色については何も言ってこなかった。少なくとも彼らの前では――。
誰もいないグラウンドの中央を堂々と渡ると、その先は小さな森になっていて、横幅が広い道の先に小さな建物がぽつんと建っている。周りは木々に囲まれていて、大学とは隔離された世界になっていた。その理由は、文字通り霊導研究を行っているからだとウェスターは言う。
そんなに危ないこともしているのだろうか?
とりあえずノックをしたが、返事がないのでセトルはドアノブを回そうとした。だが、その瞬間にドアは勢いよく開かれ、彼は顔面を打ってしまい、鼻を押さえた。
「ああ、ごめんごめん! ちょっと慌ててました」
中から出てきたのは、ミルク瓶の底のような眼鏡をし、ひょろっとした体格の頼りなさそうなアルヴィディアンの青年だった。彼は何度か頭を下げてセトルに謝ると、ウェスターに視線を移した。
「ウェスター様ですね。お待ちしておりました」
「では、あなたがスウィフトですか?」
青年は、はい、と言って白衣の胸ポケットから名刺のようなものを取り出して見せた。そこには『霊導学、学部長スウィフト・キモン』という名が書かれてあった。
「その若さで学部長ですか。なかなか素晴らしいですね」
「ウェスター様にそう言っていただけるとは、光栄です!」
スウィフトは照れたように顔を赤らめて茶髪の頭を髪が乱れるほど掻いた。よっぽど嬉しいのだろう。
「何で慌ててたんや?」としぐれ。
「いえ、憧れのウェスター様に会える、と独立特務騎士団の師団長様から聞いていて、浮かれてたところにノックが聞こえたものですから……ハハ」
やれやれと皆が肩を竦める。とりあえず中に入ってください、とスウィフトに勧められ一行はその小さな建物の中に入った。入ってすぐのところは、意外と綺麗に片づけられていて、何とかこの人数を接客できるほどの広さはあった。最初セトルは、こんな小さな空間でどうやって研究をするのかと思っていたが、奥に地下へ繋がる階段を見つけたので研究はそっちで行っているのだとわかった。
中は大きめの机が中央に設置され、そこに人数分の椅子が並べられており、そこから見やすい位置に黒板があった。天井近くの壁には、歴代の学部長の写真が立て掛けられている。その中の一人に皆は目を疑った。
「あれって……もしかしてウェスター!?」
サニーが驚嘆して言ったその写真には、今のウェスターを十年ほど若返らせたような顔の男が写っていた。
「ええ、そうですけど、言ってませんでしたか?」
「ウェスター様は」とスウィフト。「数年しかいらっしゃらなかったのですが、歴代の学部長の中でももっとも若く、そして驚異的な頭脳をお持ちになられていたのです。国軍にも入られていて、常に私たちの目標でした」
楽しそうに話す彼にサニーが「へぇ~」と相槌を打つ。
「あんた、何でもやってるな……一体どんな人生送ってんだ?」
呆れたようにアランが言う。弁護士・軍人・興業、そして大学の学部長。知っているだけでもウェスターはかなり経験豊富だ。これだけやっていてまだ三十五歳というのは信じられない。彼がどんな人生を送っているのかセトルも気になった。
「まあ、その話は後々にして、そろそろ本題に入りましょう。なぜワースは我々をここへ呼んだのですか?」
ウェスターは眼鏡の位置を直した指でそのままブリッジを押さえながら訊く。皆も気持ちを切り替え、スウィフトの方に向き直る。
「えっと、実はこれを皆さんに見せてほしいと」
スウィフトは黒板の隣にある棚の引出しから一つの小さな正方形の箱を取り出し、机の上に置いた。
「箱?」
サニーとしぐれが首を傾げる。
「何が入ってるの?」
シャルンが訊く。するとスウィフトは誇らしげに答えた。
「ふふふ、これは《エリアルパック》というものです。あ、まだ開けないでくださいよ。ここで開けると大変なことになりますから」
手を伸ばして箱を取ろうとしたサニーは、そう言われてその手を引っ込めた。
「もしかして爆弾とかですか?」
セトルがエリアルパックというものを見詰めながら言うと、スウィフトは苦笑しつつ首を横に振った。
「そんな物騒なものではありませんよ。まあ、使いようによってはそういうこともできますが……」
よくわかっていないセトルたちに、彼は実際に見せた方が早いと思ったのか、エリアルパックを取り上げる。
「本当はもっと説明したかったのですが、それは見せてからでもできます。一旦グラウンドに出てください」
皆は顔を見合わせ、言われるがままに研究所を出て、その先のグラウンドの中央付近に集まった。
「では、いきますよ!」
スウィフトは箱の横についてある二つのスイッチの片方を押した。すると蓋が開き、霊素の光が中から飛び出した。それは皆の前方に集結し、鳥のような翼を左右に取りつけられた一人か二人ほど乗れる霊導機械が構築された。
その光景にウェスター以外は大口を開けて呆然とする。あんな掌サイズの小さな箱に、こんな大きなものが入っているとは誰も思っていなかった。
「なるほど、いわゆる飛行機械ですね。面白そうです」
ウェスターが興味を持ったのでスウィフトは嬉しそうに頭を掻いた。
「どういう原理でこんな大きなものが、あんな小さな箱に入ってたんですか?」
説明されて理解できるかどうかわからなかったが、とりあえずセトルは訊かずにはいられなかった。
「エリアルパックは、物体を霊素分解して中に収納し、取り出すときは再構築されるということです。当然、無機物質に限りますが、かなり大きな物も収納できて持ち運びが便利になります」
「?」
予想はしていたことだが、彼が何を言っているのかウェスター以外はわかっていなかった。
「私の槍と同じですよ。もっとも、私のは霊術ですけど」
とウェスターが付け足してくれたので何とか飲み込むことはできたが、やはり一言で終わらせるなら「不思議だ!」であることには変わらない。
「で、どうやってこれが作られたかというとですね――」
「その話はあとで私だけが聞きます。先を進めてください」
調子に乗ってきた彼が暴走してどんどん話をしていこうとしたので、ウェスターはそれを止めた。
「わかりました。えーと、本来師団長様が皆さんをここに呼んだのは、あの飛行機械を見せるためだったのです。エリアルパックはその入れ物にすぎません」
スウィフトはそう言って飛行機械に歩み寄り、その白い機体に手を触れた。
「名づけて《セイルクラフト》。師団長様の知恵もお借りして、私たちの研究所で開発した世界初の霊導飛行機械です」
知恵を借りたってことはワースもこれの開発に携わっているということになる。彼は本当に何者なのだろうか? セトルの記憶が戻ればわかることなのだろうが……。
「これってホントに飛べるの?」
サニーが怪訝そうに訊く。
「ええ、飛べるには飛べるのですが、一つだけ問題があります」
機体から手を離し、スウィフトは眉をハの字にして困ったような顔をする。
「問題って、何が問題なんや?」
しぐれが小首を傾げる。スウィフトは溜息をつくように息を吐いて説明する。
「今のままでは長距離飛行ができないということです。これは雷霊素をエネルギー源として使ってますが、やはり長距離を飛ぶにはここにあるものだけでは足りないのです」
「なるほど、それで私たちに雷精霊と先に契約してもらいたいということですね?」
意図がわかったようにウェスターが言うと、スウィフトは、流石ウェスター様ですね、という顔をした。
精霊は『霊素の意識集合体。また、それを生み出している母体的な存在』だと、前にウェスターが教えてくれた。つまり雷精霊と契約すれば無尽蔵のエネルギーを手に入れることができるということだ。このことはセトルたちにも理解できた。
「そんで、雷精霊の居場所はわかってんのか?」
アランが腕を組んで訊く。だがスウィフトは、それはまだわかっていないんです、と言ったように首を振った。居場所がわからないなら契約のしようがない。予定通りニブルヘイム地方で氷精霊の情報を集めようかと皆が考え始めたとき、しぐれが恐る恐る挙手した。
「……うちの、うちの頭領やったら何か知ってるかもしれへん」
「しぐれ、それ本当!?」
振り向いてセトルが言う。サファイアブルーの瞳が期待に満ちている。
「アキナの頭領と言いますと……『げんくう』ですね。確かに彼なら知っているかもしれません」
ウェスターは口元にどこか不敵な笑みを浮かべる。それにしても、アキナと言えば忍者の里。何となくだけど、関係者以外立ち入り禁止といった堅いイメージがセトルにはあるが、里の人間ではない自分たちが入ってもいいのだろうか?
「忍者の里にあたしたちも入っていいの?」
その疑問をサニーが言ってくれた。自分たちが行く必要があるのか、と言えばそうなのだが、一緒に行けば精霊の居場所がわかりしだいすぐに行動できる。時間が短縮されるし、しぐれにもサンデルク~アキナ間を往復する手間がかからない。しぐれは人差し指で顎を押し上げるようにし、しばらく考えてから答える。
「無理やろうけど、外で待っててくれるんならええと思うわ」
「では、そうと決まればさっそく行きましょうか? 確かアキナはソルダイの北、今から出発すれば、夜までにはシグルズ山岳を抜けられるでしょう」
ウェスターは同意を求めるかのように皆を見回す。当然、反対はない。
「あの、ウェスター様? 我々の研究の話は……」
「あ、それはまた今度お願いしますね♪」
今から出発と聞いてスウィフトが不安な表情で言うのを、ウェスターは笑顔で軽くあしらった。スウィフトはしょんぼりして肩を落とす。
「今から行くにしても、一応準備はしておいた方がいいわね。シグルズ山岳は魔物が多いから」
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