ILIAD ~幻影の彼方~
032 船上にて
潮風を切りながら穏やかに海上を駆ける二隻の霊導船。片方はウェスターの霊導船号である。そしてそれを追いかけるようにワースたち、独立特務騎士団の霊導船がついてくる。
流石に速力はウェスターの船に劣っているようだ。
「え? 首都に行くんじゃないんですか?」
ブルーオーブ号の甲板、セトルは風で乱れる髪を手で押さえるようにしてワースに訊く。彼は話をするために自分の船をスラッファに任し、アイヴィと共にこちらに乗船していた。
「ああ、どうやら言ってなかったようだね。そう、我々の本部はサンデルクにあるんだ。そこの大学の地下に設けさせてもらっている」
優しさを感じる彼のサファイアブルーの瞳にセトルの顔が映る。
「それに」アイヴィが続けた。「サンデルクには今、あなたたちの友達も来てるわ」
「友達? もしかしてしぐれ!?」
サニーが言うと、アイヴィは、ええ、と言って頷いた。
「それにしても、アルヴァレスが敵だと厄介ですね」
深刻な顔で腕を組んだウェスターが呟くように言った。微妙な船酔いで少し気分が悪そうなアランが、どういうことだ、と首を傾げる。するとワースが答えた。
「ファリネウス近衛騎士団は王国の特務騎士団のことなんだ。奴らは情報操作が得意、つまりそれをされるとこちらに間違った情報が入ってくるということになる」
「恐らく、ひさめが王城で盗みを働いた時からいろいろと捜査されていたのでしょう。エリエンタール家や、サニーが誤送されることになったのも……」
ウェスターの予想が事実なら、アスカリアに来た正規軍の中にゼースが潜入していたのはそういった意味があったのだろう。
(エリエンタール……か)
サニーはさっきから横目でちらちらと手摺に凭れて海の向こうを眺めているシャルンを見ていた。
「……何か用?」
その視線に気づいたシャルンは、風で乱れる前髪を搔き上げて少し不機嫌そうに訊く。
「え? な、何でもないわ!」
サニーは慌てて目を反らし、セトルの後ろに隠れるように入った。
「…………?」
何も言わず、シャルンは再び海を眺めた。
「――わけないよ」
「サニー?」
皆には聞こえないほどの声でサニーが呟いたので、セトルは眉を顰めて彼女を見た。
「盗賊エリエンタール家……見つけたら捕まえようかと思ってたけど……できるわけないよ! シャルンだって被害者だし、あんなこともあったし……」
今にも泣きそうな顔で彼女はセトルに訴えかけた。シャルンは盗賊、いや、義賊エリエンタール家の生き残りであることに間違いはない。彼女自身も認めている。だが、ウェスターもワースも、エリエンタール家は滅びました、と言って彼女を捕まえようという気はないようだ。
サニーがあのとき複雑な顔をしたのはこういうことだった。
「あいつら、古霊子核兵器なんか復活させて、ホント何する気なんだろうな?」
難しそうな顔をしてアランが尋ねた。するとウェスターが眼鏡の端を押さえて答える。
「前にも言いましたが、それはわかりません。再び人種戦争を起こしたいのか、それとも世界征服か……あの男の考えは理解できませんからね」
彼の言い方は、まるでアルヴァレスが敵の大将であると確信しているようだった。だが、彼は王国の将軍、そう考えた方がいいのかもしれない。
「そんなことどうでもいいわ。わたしは敵をとれればそれでいい」
シャルンにとってはそうなのだろう。目的は違えど、やることは変わらない。彼女が仲間に加わってくれるのは非常に心強い。
「まあ、あんまり思いつめるなよ、シャルン。仲良くいこうぜ♪」
アランは人懐こい笑みを浮かべて言うが、彼女は、フン、と鼻を鳴らして船内に入っていった。
「……なんだよ」
溜息混じりでアランが呟くと、セトルも苦微笑した。
「そういえばワース」何かを思い出したようにウェスターが訊く。「青い瞳の人は何か特別な力があるのですか?」
「どういうこと?」
アイヴィが小首を傾げる。
「もしかしてセトルのこと?」
肩に乗ったザンフィの喉を撫でながらサニーが言う。ウェスターは頷き、アスカリアでセトルが放ったあの不思議な光についてワースたちに説明した。
あの時、サニーは気絶していてその光を見ていなかった。流石に話を聞いただけですぐに信じることはなかった。それはセトル自身も同じであった。
「そうか、そんなことがあったのか……」
腕を組み、黙って話を聞いていたワースは、顎に手をあてて考えるようにそう呟いた。
「青い目の人はみんなそんなことできるの?」
サニーが訊くが、ワースは首を横に振った。
「いや、オレたちも人間だから、普通そんなことできないはずだが……」
彼はどこか戸惑った様子でセトルを見た。
「…………」
そんなワースをウェスターは目を眇めて見ていた。セトルを見る彼の横顔はセトルの身を案じているような、そんな表情をしていた。
セトルを眺めるワースの中に、不安のような感情が渦巻く。
(あいつ……まさかな……)
流石に速力はウェスターの船に劣っているようだ。
「え? 首都に行くんじゃないんですか?」
ブルーオーブ号の甲板、セトルは風で乱れる髪を手で押さえるようにしてワースに訊く。彼は話をするために自分の船をスラッファに任し、アイヴィと共にこちらに乗船していた。
「ああ、どうやら言ってなかったようだね。そう、我々の本部はサンデルクにあるんだ。そこの大学の地下に設けさせてもらっている」
優しさを感じる彼のサファイアブルーの瞳にセトルの顔が映る。
「それに」アイヴィが続けた。「サンデルクには今、あなたたちの友達も来てるわ」
「友達? もしかしてしぐれ!?」
サニーが言うと、アイヴィは、ええ、と言って頷いた。
「それにしても、アルヴァレスが敵だと厄介ですね」
深刻な顔で腕を組んだウェスターが呟くように言った。微妙な船酔いで少し気分が悪そうなアランが、どういうことだ、と首を傾げる。するとワースが答えた。
「ファリネウス近衛騎士団は王国の特務騎士団のことなんだ。奴らは情報操作が得意、つまりそれをされるとこちらに間違った情報が入ってくるということになる」
「恐らく、ひさめが王城で盗みを働いた時からいろいろと捜査されていたのでしょう。エリエンタール家や、サニーが誤送されることになったのも……」
ウェスターの予想が事実なら、アスカリアに来た正規軍の中にゼースが潜入していたのはそういった意味があったのだろう。
(エリエンタール……か)
サニーはさっきから横目でちらちらと手摺に凭れて海の向こうを眺めているシャルンを見ていた。
「……何か用?」
その視線に気づいたシャルンは、風で乱れる前髪を搔き上げて少し不機嫌そうに訊く。
「え? な、何でもないわ!」
サニーは慌てて目を反らし、セトルの後ろに隠れるように入った。
「…………?」
何も言わず、シャルンは再び海を眺めた。
「――わけないよ」
「サニー?」
皆には聞こえないほどの声でサニーが呟いたので、セトルは眉を顰めて彼女を見た。
「盗賊エリエンタール家……見つけたら捕まえようかと思ってたけど……できるわけないよ! シャルンだって被害者だし、あんなこともあったし……」
今にも泣きそうな顔で彼女はセトルに訴えかけた。シャルンは盗賊、いや、義賊エリエンタール家の生き残りであることに間違いはない。彼女自身も認めている。だが、ウェスターもワースも、エリエンタール家は滅びました、と言って彼女を捕まえようという気はないようだ。
サニーがあのとき複雑な顔をしたのはこういうことだった。
「あいつら、古霊子核兵器なんか復活させて、ホント何する気なんだろうな?」
難しそうな顔をしてアランが尋ねた。するとウェスターが眼鏡の端を押さえて答える。
「前にも言いましたが、それはわかりません。再び人種戦争を起こしたいのか、それとも世界征服か……あの男の考えは理解できませんからね」
彼の言い方は、まるでアルヴァレスが敵の大将であると確信しているようだった。だが、彼は王国の将軍、そう考えた方がいいのかもしれない。
「そんなことどうでもいいわ。わたしは敵をとれればそれでいい」
シャルンにとってはそうなのだろう。目的は違えど、やることは変わらない。彼女が仲間に加わってくれるのは非常に心強い。
「まあ、あんまり思いつめるなよ、シャルン。仲良くいこうぜ♪」
アランは人懐こい笑みを浮かべて言うが、彼女は、フン、と鼻を鳴らして船内に入っていった。
「……なんだよ」
溜息混じりでアランが呟くと、セトルも苦微笑した。
「そういえばワース」何かを思い出したようにウェスターが訊く。「青い瞳の人は何か特別な力があるのですか?」
「どういうこと?」
アイヴィが小首を傾げる。
「もしかしてセトルのこと?」
肩に乗ったザンフィの喉を撫でながらサニーが言う。ウェスターは頷き、アスカリアでセトルが放ったあの不思議な光についてワースたちに説明した。
あの時、サニーは気絶していてその光を見ていなかった。流石に話を聞いただけですぐに信じることはなかった。それはセトル自身も同じであった。
「そうか、そんなことがあったのか……」
腕を組み、黙って話を聞いていたワースは、顎に手をあてて考えるようにそう呟いた。
「青い目の人はみんなそんなことできるの?」
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