僕のとなりは!?(僕とな!?)

峠のシェルパ

鎮守の森と巫女様その2!

前回までのあらすじ
マスターの依頼により人気のあまり無い森へ行くよう指示され地図を頼りにやって来たのだけれど実はこの森は熱川神宮と呼ばれる神社の鎮守の森だったのだ。

その森を通る途中に旋風に吹かれたりしないはずの声が聞こえたり、女の子に話しかけたら見事に大外刈で投げられかけたり変なことが続いたけれど僕は元気です。

「あのえっと…よろしければこの場で立ち話もなんですので社務所までどうぞ、お茶くらいしか出せませんが…」

来宮優花さんは自己紹介以外にも話したいことがある様だけどどうしようか?
ここは僕の一存では決められないからね、今ここにいる僕ら三人のなかでの発言権は珍しく平等である。

人との関係で自分の意見を殺さなくてはいけないときは少なからず必ず来る、僕は基本的に物事の成り行きに任せる人なのであまり意見を出すタイプではないけれど 

本来ならば積極的主張をするレイピアが微風に遠慮しているのと微風も協調を取る人らしいので誰もが他人の意見に合わせようとする不思議な意見表示の場となっている。

「僕は別に構いませんよ、特には用事ありませんし」

僕らは学生だし、まさか檀家とか氏子になってくれませんかみたいな勧誘じゃないだろうと少しだけ楽観的に考えてみるけれどさて吉と出るか凶と出るか…

その後微風とレイピアも賛成してもらってこじんまりとした社務所に案内してもらった。

「ソファと畳の部屋もありますので適当に座ってください、すみません狭いところで…お茶をお入れしますが何か要望ありますか?」

なし崩しに社務所に案内されたのはいいんだけどマスターの依頼はここに来ることであってそれから先にどうすればよいのかは地図には書かれているわけもない。

「それで…これからどうするかなんだけど、あの来宮さんって人幾つくらいに見える?」

話口調と背丈や雰囲気から察するにそんなに僕らと年齢自体は変わらないのでは無いかというのが僕の持説だが…

「涼くんを投げたのを見てちょっとビックリしたんだけど本当に大丈夫…怪我とかしてない?」

拍子抜けだが僕には傷は何もない。
心配そうにも不思議そうにも見える顔をして彼女は僕を覗き込む、
刹那にレイピアの瞳に蒼い光が灯ったかと思うと安心した表情で僕の隣の席に収まった。

「それにしてもあの森と神社の管理をするにはあの細腕一本では難しいだろうな…」

微風は来宮さんが後にしたこの部屋の出口を見ながら溜め息を一度して俯く、

「ここの神社があるって微風さん知ってた?」
僕やレイピアよりもこの街の事を知っている微風に聞いてみたが微風さんは首を横に振った。

社務所と言われて案内された建物も新しい建物だというよりは古い事務所の様であるし境内も僕ら以外に人が居なかったところを考えるとこの神社大丈夫だろうか、少し心配だな…

「マスターは私たちにここに行って何をさせようとしてるんだろうね、唐突といえば唐突な話だけどさ」

マスター、あの人も怪しい雰囲気こそ無いけど
見ず知らずのレイピアを保護してしまう当りはただの優しい人なのか何か意図があるのかと僕としては疑り深い性格なので考えてしまうところはある。
その人が指示した場所に現れた巫女服の少女…何にもない杞憂に終わるのが一番いいんだけどね

「社務所かぁ、神社の事務所って考えればいいのかな、あの人まさか涼くんをあんなに容易く投げ飛ばし…とは、違うね押し倒す…うーん、なんて言えばいいんだろ?」
「いやしかし、あの巫女服さん案外と好意的にこちらを迎えてくれだかそれも不思議と言えば不思議だ…」

三人の頭の上にはてなの疑問符を浮かべながらとてもここでさっきの幻聴?について話すわけにもいかなくなったし

疑心暗鬼とそこまで言うつもりは無いけれどあの来宮さんって子を不思議に思うのも分からないでもない、

「お茶を貰ったあとであの人の話を聞いてから考えよう、取り敢えず…」

情報が乏しいままに判断を下すのはあまりいいことでもない来宮さんに関しては現状保留にするしかない。

「レイピアってさ、洋菓子好きだけど和菓子はどうなの?」

お茶請けが無いのは少し寂しいけれどお茶出してくれるそうなので僕から話をふってみた、相手の人の好みとか話が広がりやすくていいかなという僕の粋な計らいである。

「和菓子ですか…お饅頭や大福…お煎餅も入るのでしょうから
一般に広まっているものしか食べたことがないのでお茶請けに何か変わったものを食べてみたいですね」

まだ知り合って間もない三人組で会話を続けることの難しさってあるよね、
二人ならともかく三人というのが難しい。
沈黙は金とも言うんだろうけど僕らにとって会話というのは大切なものだと勝手に僕は思うのだ。

「変わった和菓子だと…?
あれはどうだ、ライトニングおこし!」

微風…ライトニングおこしってそれ要するに雷おこしだよね、わざわざ英語に直す必要はないと思うんだけど、短くなるならともかく逆に長くなってますけど…

「らいとにんぐおこし…?
エレキテルとか何かですか?」

話が思わぬ方向にいきそうなんだけど僕が軌道を修整しなくても話としては面白い方向にいくみたいだから良しとしよう、

「エレキテル…発電機のことか、発電機がどうかしたのか?」
「いえあの…ライトニングおこしのことを私が何か分からずに勘違いしてしまったようですみません!もう…常識はずれだと罵ってくれて構いませんからそのらいとにんぐおこしについておしえてくれませんか!?」

これは…何とも僕の予想外の展開に…レイピアはこう…知識に貪欲と言うべきか正直すぎるのが玉にキズかな…
「説明しよう! ライトニングおこしとは善蔵寺の門前町にて発売されているビリビリと胡椒の効いたおこしなのだよ!!」

彼の口調が自信満々なのは僕のみる限り何時もの事なので良いとして
そんなお寺聞いたことないんですけども…
僕の知らないことを微風は知ってるんだなー凄いなあー(棒)  
嘘というのは時には残酷な事も優しく溶かしてしまうが欺瞞は信用と寛容を犠牲にする。
微風のそれは実に影響の無いものだけど冗談から派生しているしレイピアが微風の独特の表現に正直に答えているだけな気もするけどネ… 

「まぁまぁ、微風ライトニングおこしってそれ雷粔籹って言いたかったんじゃないの?」

雷粔籹とは善蔵寺ならぬ浅草寺の仲見世にて販売しているお餅を焙煎した独特のお土産である。
水飴や砂糖やピーナッツを含んで固められ、様々な味があるんだけど僕も殆ど食べたこと無いので食べてみたくはあるよね、

「そっ、それ…かみなり…なんて読むんだ?」
「おこしだね、僕も初めて見たときは読めなかったけどこれはもう教養というより最早雑学のレベルだよ」

レイピアが雷おこしを食べたことあるかは別なのだが日本には色々な人に知られていない食べ物が沢山ある、他所に行って興味深い品々を知識だけではなく一見して味わって見たいものだ。

「涼くん、微風さん!雷おこしって胡椒が効いてピリピリしてるの?! それとも甘くて美味しいの!?」

わーレイピアすっごい興味津々な目をしてこっち見てきてる、
この知らないことを知ろうとするレイピアの行動力は凄いものだけど返って危なっかしいというか…誰にでも簡単に騙されそうで僕としては気が気じゃないなぁなんて…
いやいや、僕がレイピアの心配をしてどうするんだよ…
頭の中で自分の考えを否定して一度僕は溜め息を着いたのだった。

「失礼します、お茶請けに適当なものが有ったのでいかがでしょうか?」

間もなく来宮さんがお盆に何か焼き菓子を乗せているのに僕は気がついた。
「お茶を入れるまで少しだけお待ちくださいね、お湯を入れてから少しだけ蒸らすのが美味しいお茶の淹れかたなんですよ?」

急須と湯呑みを僕らに配り小さく吐息を漏らすと四つあるソファの一角で微風さんの隣に静かに来宮さんが座る、

「えーっと、一先ずこちらの自己紹介をした方がいいかな?
僕らはこの春からこの近辺の高校に入る予定の15才で…
僕は北村、隣のやんちゃそうな女の子はレイピアそして君のとなりにいるのは微風さんって言うんですけれどもし来宮さんがその…僕たちよりも年上だったのなら色々と失礼をしてしまったかなと思いますが…」

低姿勢不服従が僕のもっとーで下手に出ていいところを持っていこうと狙いすぎて失敗するのが僕のいつものパターンだけれど、そんな僕の心情とか信条なんて話をしたところで需要がないので供給するのはやめておこう。
それよりも来宮さんの顔が宝くじでも当てたかのように明るくなってにこやかに健やかに微笑んだ事のほうが報告するべきものなのでそちらを優先させていただこう、

「いや…まさかあの人の言っていること冗談半分に聞いていたのに…
あ、いえこちらの話なのですがね?そうなんですよ実は私もこの春から高等学校へ入学するんですよ!!」

僕の前に急須で淹れられた緑茶が静かに置かれ、来宮さんと軽い会釈をして僕らはそれを受け取る。

「この周囲の高校ってそんなに選択肢が少ないものですから色々苦労をしましたよ~
あ、これ栗羊羹ですのでそんなに良い物ではありませんがどうぞ召し上がって下さい」

うーむ、話が来宮さん主導で進んでいくのはいいのだが僕達としてはここに来た理由を話しておきたいのだが、でも来宮さん僕らを参拝客だと思っていない辺り何かありそうなものだけど

「栗羊羹にお茶ですか勿論有難く頂きますが…さて微風さん私達は何の目的で持ってこの社、熱川神宮でしたよね?」「はい熱川神宮です」「…私たちは何故ここに来たのか、そして此処で何を成せばいいのか…と聞きたいのですが質問に答えられる範囲で結構ですので説明を求めます…と微風さんが先程仰っていました」

最後の最後でレイピアは微風に責任を放り投げて来宮さんへの質問を終えてお湯呑みに手を伸ばす、
途中までお茶をすすっていた微風さんの目が白黒に点滅したのを僕は確かに見たのだが取り乱す様なことは彼は冷静な人なのでそんなことは「わ、我は確かにそんな事をいっ言ったがそるは自白を強要するものでは決してないのだ!…のだ!」

大事な語尾なので二回言いましたby微風さん

「そう…ですね!理由も言わずに引き留めたり色々と失礼なことをしてしまいました、申し訳ありません。
実は私色々な事情が有りましてその…恥ずかしながら親しくしていただける方が中々見つからずに…正確に言うと幾分複雑なのです
駅の外れにある喫茶店の方にその不安を話したところで「大丈夫ですよ、私に任せてください。」だなんて仰っていたのですがあの方どこか信用できないというか…」

来宮さんもゆずのきのリピーターの様で結局のところ彼女と僕達は学校が始まる前から顔見知りをこれからも順調に増やしていくことになるのだがそれは別の話、

「ほぅ、つまりはテレフォンショッピング?」
「はーい、それではお友達を紹介してくださーい」「えーー?」
微風の例えは独特の感性を持っているので答える方としてはネタを瞬時に理解して反応するのは至難の技なのではないだろうかと僕は何となく考えるのだった。
こんなに唐突で素早いボケは…僕じゃなかったら見逃してるね?

「つまりはそう言うことだが…来宮さんあなたは喫茶店ゆずのきのマスターに依頼とはいかないまでも相談したらどうやら我々がその…紹介されたと?」
「えぇ、あの人「任せてください、私は目立った特技や特徴などは余りありませんが胡散臭さと無駄に広い人脈には一定の評価を頂いているんですよ」と…こうなると隠す必要もないですね、微風…さんでしたよね?」
「いかにも」「私にはこの通りこのお社一切を取り仕切るお役目がございまして、その…いわゆる全日制の学校に通うには少し厳しい期間なれば…次いでで構いませんのでこちらに放課後にでもお越しください、
本日のように淹れたての粗茶とつまらないお茶請けでもお出ししてお話をお聞きしたいと思うのですがこの依頼を受けてはくれませんか?」

依頼と言われるまでもなく「困った人には手を差し伸べる」ということで僕らは来宮さんのお願いを聞くのは僕は構わないのだけれど、
そういえば来宮さんが持ってきた羊羮ちゃんと一口サイズにしてあるし、あんこも上品な甘さで美味しいしこれもしかするとすっごいお値段がいいやつなんじゃない…?
聞いてはいけないことなのだろうけど気になるよね。

「依頼だなんて畏まった事を言わなくとも私達は同級生ですからら、困ったときはお互い様です。」

僕が関係の無いことをすこしばかり考えていたらレイピアがさっさと返答をしっかり返していた、レイピアは下手をすれば中学生にも見えない程幼い見た目をしているけれどあれはあれで要領よくやっていけそうで、僕が別にとやかく言う必要は無いのでは…?
「そう…だな、気晴らしにここを散歩してアイディアの一つにでもするか…」

まぁ、人に意見とか要望とか言ったところでその人はその人なりの価値観・倫理観で動くわけでお節介なんてするだけ煙たがられるだけだと最近思うようになったんだけど本編とはまるで関係ないので僕の考え事はここまでにしておこう、

「涼くんもそれで異存は無いですか?」
レイピアの声で思考を止めて僕は静かに湯呑みの中身を静かに飲み干す、多数決より自由意思と個人の意見を大事にして欲しい昨今だけれどこの場で敢えて否定に回る必要性もないしなぁ…

昨日出会ったD51なら絶対に否定してから上手くまとめてよりいい方向へ話を持っていくことが出来るのだろうが僕にはそんな事をやる根気もやる気もないし具体的なビジョンの一つも無しで無計画に無警戒で無責任な過去を持っているのでしないけどね?
「あ…うん、そうだね入る学校は…今どき地域の高校に行かない方が少ないよね。」

と言うのも今のご時世は子供の数がめっきり少なくなりそこに金を掛けなきゃ増えないらしいので小学校から大学まで完備したマンモス校が出来上がり、偏差値教育から考える力とか良く分からない仕組みに移行しているが地域毎にそんな中核となるマンモス校があるのでそこへ最終的に集約されることが多いし 
僕や微風さんの様な親元を離れていく生徒だって自分の事を考えて進路で悩む事も少ないわけではない。

「皆が良いなら別に断る明確な理由もないので構いません、
来宮さんが来られない日を予め此方に言ってくだされば僕らが都合を合わせて来ますので」

「おぉ…北村くんがやる気だ…」
せっかく新しいことをやるなら具体的な話をしないとフワッとしたコンセプトとかその手の類いの話をいくらやったところで時間の無駄であることを僕は中学生の頃味わってるのでとにかく現実的な話をすることを僕は心がけているよ。
というわけで思わぬ知り合いと依頼をされたところで僕も少し話に入ってみようか、

「それと僕から来宮さんに聞きたいことが一つあるんですが良いですか? 」

「えぇ、私が答えられることでしたら何でも聞いてください!」
来宮さんはどんな質問をするか予想とかしていなさそうだけど
一先ず受け入れるって…この人は人が良いな、僕には真似できない事だよ。
人を疑わずにいられるのはそんなに簡単なことじゃないからね

「このお社さんは何を祀っているのですか?」
日本人の大半が無神論者でキリストの誕生祭から神道まで色々な宗派宗教の八百万の神々を祀り、信仰なんて昔に比べたら影も形もないほど無くなったと言うのになんだかんだ神様に頼るのが僕らなんだよな…
神社なんてあんまり訪れたこと無かったけれどこの際だし学んでおくだけ損は無いだろう、来宮さんもその話ならしやすいし僕らに遠慮する必要もないからこれは僕ナイストスなんじゃないか?

「そうですね、簡単に言えばこの周辺の土地の神様かな?
水神様と土公神っていう土の神様をお祀りしてるけど、神主(私)の家系図を辿ると平安初期位の一人の人物が浮かんで来るのですが不思議なんです…この社が創建された当初はその人物を祀っていた様で、
不自然な点は他にも有るのですがそれは長くなるので…それに…」

来宮さんは僕らから目を背けて小さくはっきりした声で
「聞いていて気分が良くなる話でもないのであまり気乗りしないのです…」
と言った後で自分の分の羊羮を三切れ同時に楊枝で突き刺して口のなかに放り入れたところを見ると来宮さんもレイピア共に甘党さんなのかもしれないが彼女のキャラクターを知ることができたのは、彼女が実務を兼ねて山登りや神社巡りをしている話を聞いたときだった。
「そこまで本格的に雪山登山とか尾根伝いに歩く等と言うことはしませんけど、でも山の神様はその山自体が御神体として崇め奉られている事が多いのですよ?」

来宮さんに対するイメージは手芸とか編み物とかが好きなのかなと思っていたのだけれどそうでも無いらしい。
「山は自分の事を最優先にして自分の限界とその果てに頂上に登ったらどんなに達成感があるんだろうなって考えたり、前日の準備こそ楽しいものがありますよ?
それこそ自分の食事は自分で作らなくてはなりませんからね!
自分の持っていける積載量と食べたいものと万が一を考えながら準備をしなくてはいけません、常に最悪の事態を想定した行動を取らなくてはいけませんから」
おっとりした性格と思いきや案外とアクティブな来宮さんなのでした…

次回へ続く?

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