僕のとなりは!?(僕とな!?)

峠のシェルパ

殴り合いと果たし合い

四月の始め、まだ夜は冬の残り香様な僕らの体を芯まで凍らせてしまう様な風が時より夜桜の華の色を際だ出せる。
そんなことを格好をつけて言うほどに余裕が有るかと言えば正直あんまり無い、よくバトル漫画とかで「殺気を感じる…!?」
みたいなことは僕には分からないけれど思うのはこの人は敵に回すとえげつないことをしてきそうな事と顔が怖いことだ。

「んー、力ずくで連れていっても此方としては一向に構わないんだけどさー、どう思うわけその家出少女に対しては」
D51の挑発的な態度は話が変わったと言うのに残念ながら変わらない
レイピアをどう思うかだって?
本人も居ないことだし言いたいことも色々あるけれどそれをD51に言ったところで何か変わるわけでも無いしな
「君に対しては言うことなんて何にもないよ、無意味だからね。」
僕は冷たく言い放つ、これから敵対しようとしている相手に対して言ってやる事など何もないからね

D51は怒るとか僕に対して感情を露にすることなくやれやれ言うばかりに肩をすかせて首を横に降る
「駄目だよ君、可能性を捨てて守りに入っちゃ。
まだ吾が輩は暴力に訴えかけると言っていないじゃないか、
それなのに交渉を諦めてこのまま吾が輩のことを無視して扉を閉めるつもりだったのだろう?
それは事実上の宣戦布告だからね、そーいうのは最後の手段としてとっておくべきだと思うけど」

僕のしようとしていることが見透かさせた…?1
確かに僕はD51の隙を突いて部屋のドアを閉めてしまおうとそう思ったけど僕はまだ少しもそんな素振りを見せていない、さっき閉めたドアに対して目線すら向けていないのだ、この人僕の心でも読んでいるのか?
「別に読心術なんて一般人の吾が輩に出来るわけがないだろう?
と言っても吾が輩が一般人であるかは微妙なんだけどね」
一般人じゃないってまさか気質じゃなかったりするんですか…確かに目のギラッと具合とかもう完全にそっちに片足突っ込んでいそうだけどさ少なくともアンニュイとか気だるげとかいう言葉からは正反対にいそうな顔つきを目の前の男はしている、後さり気なく寝癖が立ってる…気付いてないのかな?
変なところで人間観察の癖が出てしまったけれど僕は一先ずD51から距離を取りたい

「それで? 君は一体どうしたいんだっけ、吾が輩にお引取り願うのであればその話術でやってみな
さっきから君と話をしているけど吾が輩を言いくるめられるんならな」
そう言われて結局際立った反論ができずに僕は途切れ途切れの言葉ばかりが頭のなかに回っていた。
この人単にとは相性が悪いのか、僕の言葉が続かない要因を頭のなかで考えていたが一向に答えは出てこない、
「そ~いうのされても困るんだよね、時間稼ぎにしか見えないけど見苦しいし、
衝突を避けようとしてるのかもしれんけど喧嘩はしてはいけませんとか何とか親とか先生に言われて、それを素直に聞いて、いまこの時を穏便に済ませようと考えている所だったらごめんなさいねぇ
こっちは喧嘩する気満々なんだわ、だってよ? 人間太古の昔からず~~~っと喧嘩しあって生きてんだ
それをせずに幼少期生きた人間がそれこそ大人になってから自分より立場下の人間虐めるんだぜ?
ソッチのほうがよっぽど質が悪いぜ」
「それとこれとは話が違うでしょ、こっちはいきなり君みたいのに押しかけれれて困ってるんだからさ
それに件の女の子は現在絶賛遅めのお昼寝中でーす!! またのご来店をお待ちしておりまーす!!」
と少しだけ反撃を加えてみる
「いいや違わないね、女の子の話はどうでも良くなってきたが君という存在がいけ好かなくなってきたから、さあ殴らせろ!!」
それに関してはもう論理がメチャクチャだ!!
「いやぁ、こんなに強気に出てくるとは君は思っていなかったんだろうけど残念でしたねぇ?」
急に真顔で此方を向かないで、怖いよその顔試験が思いの外好調だったなと思ってるんるん気分で答案用紙取りに行ったら予想より低くて席に帰ってきた、そんな顔されても反応に困る
強気…そうだよなんでこの人は僕に対してしっちゃかめっちゃかに意見を言ってくるのかやっと分かった、この人さては交渉する気が無いな…?
それとも交渉においてこちら側が折れる様な勝敗を決定視にさせる何かを…

「なんか気づいた感じだけどもうその切り札をきってしまおうと思うんだ、ほらあれだろ、 大富豪とかでもジョーカーを最後に使ったら負けになるだろ?
せっかくだしここで、ここ一番って時に使っておくのが一番良いのだぜ☆」
ここ一番って本人言ってるけど彼風に言うなら別に僕に丸め込まれそうになって逆転の1手というわけでもないじゃないかと思っていたらば
「切り札っていうかとどめだからどっちかって言うと押しの一手だね、君には真の恐怖を味わってもらうとしようなんて物騒な前置きも控えぃ控えぃ! この紋所が目に入らぬか! なんてしようと思ったのだけれど依頼主さんがそんなことしなくていいとか家の名前を出すなって必死なんだよねーいわゆる匿名希望ってやつ?」
と今度は何か下ジャージのポケットを探り始めたけれど一体何が飛び出してくるんだ?
「ケータイ電話…だよ~ん」
携帯電話!? ここで考えられるのは学校に連絡されるとか、仲間を呼ぶなどいろいろ使う用途はあるし
真打ち登場で階段下から親御さんが出てきてレイピアと一緒にドッキリ大成功とかやってきたら僕は人間不信から立ち直れないかもしれない…
「掛けるのを妨害するとかしないのかい? 君の場合学校にこのことが知られるだけでもまず…いやもしかしたら面白がるかもしれないな」
面白がるって、男子と女子が高校の寮の部屋一緒で今まで赤の他人だった人と生活するのを面白がるっていったいどんな先生だよ、それ大人としてダメだろうとD51のおそらくは独り言を考察してみて
「だって、君は喧嘩っ早いだろうからこちらから君に対して敵対する行動に映ったら確実に右フックとか腹パンされそうだからさ」
強がってるわけじゃなくて冷静に考えるために思考に邪魔なものを言葉として吐き出しておく、
「そんなことしないさ☆」
D51は満面の笑みとも見て取れる顔をしながら此方に親指を上にむけるのである、やれやれ電話をかけながらする顔じゃないでしょ。
「もしもしこちら学生さん、はい目標の人物の居場所を突き止めましたが、匿っていると言うべきなのか保護していると言うべきなのかもわからない状況でして手までは出せていません。」
「    」
「代わってくれ? 素性は知らんが同じ学生なら話が通じるものなのだろうって…変に人がいいですな
まぁ、依頼主さんのことでとやかく言う必要なんてこれポッチの得にもならないんでしょうが、
世の中ってあんまり綺麗な物ばっかりじゃないんですよ、努努お忘れなさいませんように…
それでは保護? してくれた学生さんにお電話を変わろうと思いますのでしばしばお待ち下さい☆」
と言って携帯をいじり此方に向けると通話中と表示されている画面から高めのハスキーボイスが聞こえてきた
「…今これ繋がっていいるのか? もしもし?」
声から察するに男であることは間違いなさそうだけどレイピアの父親ってほどの貫禄は無いと思う、レイピアは兄でもいるのだろうか?
やけに高めのハスキーボイスで落ち着いている口調で
「電話越しですまないが時間も無い上このような対面を許してほしい。
先ず聞いておきたいのだがあの子は今も元気なのでしょうかつまりは無事ですか?」
携帯の奥でD51のにやけた顔が少し癪に障るけどここは嘘を言っても何にもなら無いので正直にそれを肯定した。
「はい、こんばんは僕は北村と言います、あの子なら今は疲れて寝てしまっていますが体調悪いとも言っていなかったのでそちらは問題ないかと思います。」 
自己紹介と挨拶は対人関係の基礎であって好感度を上げる第一歩でも有る、出し惜しみとか恥ずかしいとかいう前にこれだけはしたほうがいいと思うことでもある。
今日の半日くらいを見た限りだから一概に大丈夫だとは言えないけどマスターやマリアさんからレイピアの事はなんにも言われていないし、食欲はばっちりあったし健康体そのものだよね!

「そう…ですか、それならば話しは決してややこしいことにはならずにすみますね。
先ずはお礼を先に申し上げておこうと思います、あの子を保護していただきありがとう御座います。下手をすれば路頭に迷いと今頃はと考えると胸が張り裂けそうでした、無事なのならそれだけで此方としては満足でございます。」
D51が見つけたのは僕とレイピアが歩いているところだったからそれをそのまま電話口にいる人に伝えたんだろう、だから本来このありがとうはマスターやマリアさんに言うべきだ、僕はなにもしていないしなんにも出来やしない、一番初めにレイピアを助けたのはマスターで、入室が遅れた僕の部屋にレイピアを住まわせたのはマリアさんで… 僕は何もしていない。

「いえ、僕は別に何もしていませんよ、あの子の運と行動力のお陰だと僕は思っています。」
決して謙遜ではなく事実なのが何だか僕にどうにも虚しさを与えてならないのだった。
中学校に入る頃には僕は納得自分の感情的な側面と損得勘定を分けて考え周囲に溶け込むことに成功した。
勉強にしても運動だろうと僕は努力という言葉を排除するのだ、平凡に生きられればそれでいい他人からの注目など興味がなく
僕はヒトの入れ替わりが激しい今の世の中で誰にでも取って替われる空気の様な人を目指す、すべてそつなくこなすのは難しいから高みに手を伸ばそうとは思わない。
期待と希望の重圧に耐えきれるほどに僕の屋台骨は強くない
努力を積み重ねて塵も積もれば山にすれば人はさぞ高いところから世界や他人を見下ろせるのだろう。

しかし、高みに座り続けるのは大変でその場を狙う多数の他人がその地位を狙って、自分達のところへ引き戻そうと足元にすがりつくのではないか、自分達のテリトリーを広げようと仲間を集い周囲に争いを仕掛けそれを取り合う、そんな光景を醜い世の中の様を僕はまだ見たくはない。
ならばだれにも相手にされないような場所のその隅っこで安寧に甘えてしまった方が良いのではないか
いわゆる深海の様な環境の変化の少ない環境に僕は長らく腰を下ろしていたのだがレイピアの事といい何だがこれから先には環境が劇的に変わりそうである。

「そうですか…それはさておき本題へとはいっていきたいと思いますがよろしいですか」
変に畏まっている気がするがまぁ二手三手先を読んでつまらないとかくだらないとか言ってくる誰かさんよりはマシかと思うが…一体誰のことだろうな?

「それでは、此方からの要求はただ一つにてございます
私どもが草の根を分けて探しておりましたそちらの部屋にいらっしゃる女の子をそこににいる生徒に身柄を引き渡してもらいたいのだ、勿論そちらにもしご迷惑をおかけしていたのでしたら此方としても迷惑料を用意致しますのでどうかいいお返事を期待しております」
迷惑料なんかよりもあの子の言葉を聞く気は彼には無いのだろうか、レイピアの扱いに僕は納得がいかない。
「あの子今頃は布団のなかで恐らく幸せそうに寝てるんです、
こちらだけで話を進めずにあの子の口から思っていること、考えていることを聞いてはもらえませんでしょうか?」
このままレイピアの家の人と衝突しかねない発言ではあると思うけど野球であるならあえてインコースギリギリをついて牽制しておく的な…うーん、伝わりづらい
僕にとっての切り札はレイピアの身柄と信頼感
相手の切り札は保護者としての権利やその他もろもろ
レイピアとこの先も暮らしていけるなんて思ってないけれども
D51に色々言われたからだろうか、少しだけ腹が立ってるんだよね
電話口から小さくため息がこぼれたこの展開が望ましくないのだろうがこっちもそれは同じだよ向こうの誰かさん
子供の意見も聞こうとしないやつなんか嫌いだ。
「今すぐにとは言いませんがお早めにお願いします
そうですね…某悪役のように三分間だけ待ってやると言っておきましょうか、とはいっても滅びの言葉は言うだけ無駄ですが
よい返事がもらえない場合は…どうするか」「吾が輩が引き受けよう」「お前が望む展開になったか…致し方あるまいだがもしもの時だ、あの方は傷つけるなよ」
D51はまさか交渉が上手くまとまらなくなったのを見越して今まで口を出してこなかったのか!?
「ちょっと待って下さい! あの子を起こしてきます、自分勝手で周りが見えていないかもしれないけどあの子にきちんと向き合ってださい!
普通に考えて見ず知らずの人にしかも思春期の女の子が警戒心はあったんでしょうが何の気無しに仲良くなろうとしますか!?」
交渉のテーブルから下ろさせたまるものか、この問題がレイピアだけの問題がなのだろうが今は僕が参加できる場面であって
僕のテリトリーだ。

「…そうしたいのはやまやまだが…こちらにも事情がある急がなくてはいけない事情がな、あの子は社会に自分がどのような影響があるかなんて分かっていないだろう、学校とは恐ろしいものだ
出来すぎても叩かれ出来なくても叩かれる、君も一度は経験したことがあるだろうだから私たちはあの子を学校から隔離したのだ、将来もっと輝かしい才能を発揮できるために既存の学制には無い様な英才教育をするが為にな」

なんだよその論理はそれは単なる腰抜けの論理じゃないか
学校にすらろくに行かせないで不安だからと世の中に仕切りを作って安全を確保するなんて出来るわけがないだろう、人は必ず社会に出なくては生けない時が来てしまうのだ。
英才教育って…なんだそりゃ
そんなことを事務的に言ったとしても僕がその言葉に納得する
人は一人では生きていけないのだから、寂しさで押し潰される前に羨みが妬みに変わる前に不安を飛び越してしまわなくてはいけない…なんて人生観を語っている暇じゃないね。

「と言うわけだ、夜分おそくに無駄骨を折らせてしまい申し訳ありませんでした、あとはお任せください」
電話越しにレイをする姿は少し変わってるなと思ったが僕としてはそれどころではなく心中は穏やかではなかった。
こちらに向けて目を見開いた不適な笑顔をしてきたのだ、顔が怖いよこのジャージマン…
ジャージマンとチャージマンて似て非なるものだからお忘れなきよう
「さてと、そんな訳で吾が輩と君に話が移るわけなんだが吾が輩としても不本意な訳さ~女の子をいじめる様な真似をするのはさ~」
飄々とした態度は人の精神を逆撫でするだけなのだが彼は分かってやっているんだろう、
「僕は電話口に迷惑料とかいう単語とレイピアの意思を事情とか言って聞かないつもりのあの人に怒っただけだよ」

いつもの僕なら怒ることなく曖昧にやり過ごして自分の意見なんて言わないけど、今の自分の理性の真ん中に焼け石でも置かれた様に沈静化の為に水を掛けても大した効果は無く頭に血が昇っていくのには違和感を覚える、僕はもっと冷静だったはずだが…

「そりゃー正しい意見だろうけどさ正しいだけじゃ人は変わらないぜ? これは秘密にしてくれって言われたんだがさっきの電話の主は君がレイピアと呼んでた子に仕えてる子みたいだぜ?」
仕えてるって中世とかの漫画の中の話じゃないの?
「まぁこれで実力行使に出ても良いって話だけどよ、こちらとしたってあんまり気は進まないのよ、苦しむのは件のレイピアちゃん? な訳だし。」
いやいや、目の前にいるのは僕なんだけどあれかな僕は数にも入ってないみたいだけど取るに足らない雑魚キャラ扱いかな?

「そんなに睨まないでくれ~別にレイピアちゃんを取って食おうなんてしないんだからさ」
取って食べなくてもレイピアに対して暴力的な行動に出るとするのなら僕は同居人の危機を守らなきゃいけないからね。

「君さ、吾が輩には分からないんだけどなんでレイピアの為に動いてんの?
 分からないんだよね~出会って半日しか経っていない人の味方をするのか、こんなに長い問答をしても一向に見えてこないのよ、その子の貯金でも狙ってるの?でも迷惑料断ってるんだから違うよね?」

囚われの少女が悪魔の根城から逃げてきたら例え自分が村人Bとかだったとしても一旦は匿ってあげるでしょ、病弱な女の子とか何かに怯える子って放っておく事が男に出来ようかいや、ない。

なんてそんな正義の味方を気取るわけではないけれど本当になし崩し的にやって来たものだから受動的な僕はokをしてしまったのだ←そもそもレイピアを連れ帰ろうとする人が来るなんて聞いてないし!!
「知らないよそんなことは、僕はね凄く臆病なんだ環境の変化なんて耐えきれない程にね、それをあの子がこの部屋に居着いちゃったお陰で僕は今レイピアの家からは多分無礼者扱いをされてさ!」

本当は僕だってレイピアを引き渡す選択を実はしたかったよ、僕は自己中心的だから僕の体裁しか気にしていないんだ。
自分でもこんな自分が時おり嫌になる、けどそんな自分に頼ってくるレイピアの事を考えるのはこんな自分を変えてやると思うからだ、
だってあの子僕が黙り込んで考え事してると凄く寂しそうな顔をするんだ、目の端で見ていたからあんまり考えないようにはしていたけどさ、僕がレイピアから学ばなくちゃいけないことがあるんだとしたらあのワガママさだと思うからね、

「それは君には分からないよ、君は恐らく打算と損得で動く人なんだろうから僕の個人的な考えまでは把握できない、
つまりはさ…
せっかくだからレイピアのわがままに乗っかってみようかなって思ったんだ、さっきの電話の人の意見を素直に聞くほど僕は大人になってないんだよ!!」

決して格好をつけるべきじゃないと頭の中では分かっているんだけれど頭に血が上ったような妙なこの感情は止められなかったと後で散々後悔をすることにこの時は気づくはずもなかった。

「あらあらまあまあ、格好のいい宣戦布告ですこと…
言葉は平行線だし、そうだねぇ簡単なゲームでもしようかな?」
D51はそう言うと不気味に不適に微笑むのであった…。



次回に続く!!

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